移ろい「西洋梨……変わった食べ物が増えてきたなあ」
昨今フルーツは生食の時代にあります、と続くナレーターの声に反応した水木は、醤油煎餅を齧りながら「味も普通の梨と違うのか」と誰に問うわけでもなく重ねた。
鬼太郎は庭先で七輪に炭を焼べており、それがどんな梨であるか分からない。ただ、完熟した際の甘みが素晴らしいという説明や、水木の度重なるひとりごとが耳をくすぐる。
「ひとつ、買ってきてくださいよ」
白くなった炭を視認して団扇を扇ぐ。夕刻の涼やかな風が、細かな灰をふわりふわり巻き上げた。
「そう簡単には手に入らんらしい。山梨でしか栽培してない」
「ちぇっ」
とはいえ、人間は美味しいものや新しいものに敏感だ。とりわけ肥えた東京人が西洋梨に目をつける日も遠くない。たった数十年もすれば近所の八百屋にも並ぶだろう。
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