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    ニウカ

    @nnnnii93

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    墓場鬼水
    火葬された水木の喉仏をたべてしまう話

    #墓場
    cemetery

    退屈 水木家葬儀場を訪れる親類たちに見知った顔はいない。神妙な顔で首を垂れ、声を潜ませる彼らを見るうちに、鬼太郎の頭には腐ってゆく死体に集る蠅や蛆が連想される。どれほど生活が苦しくとも便りの一つさえよこさなかった人たちが、何を偲ぶというのだろう。ウチは遺産どころか未納分の家賃さえ払えないほど困窮していると伝えたら、どれほどの人数が死体の焼き上がりまで待つか試してみたい。
     水木の最後は突然で、自室の布団の上であった。亡くなる前日には「畑の白葱を収穫してくれんか」と駄賃さえ渡してきた。金のため了承すると「もうすぐ冬至だ。おまえに七草粥を食わせたい」なんて笑う。
     ここ数年の水木はとても図太く、幽霊族を顎で使うような言種であったが、なんだかんだ住み慣れた家に間借りし続ける鬼太郎は苦々しく従っていた。とはいえあれの頼み事はほとんど子どもの使いで、就職しろだの妖怪を退治しろだの大それたことは何一つ求めない。数十年かけ鬼太郎が許容して動く範囲を自ら学習したらしく、実際その通りなのでタチが悪い。それが死んだ。翌朝。鬼太郎が首に指を添えた頃には脈はなく、魂すら見当たらなかった。

     焼き終えた骨が遺族の前に横たわる。
     どこからか啜り泣く女の声がするけれど、魂を持たない骨はただの有機物にすぎない。この世に水木はいない。それでも救いを欲する人間は静々と目を伏せ『黙祷』の合図で手を合わせる。
     ふと、一際白い骨が鬼太郎の目にとまった。真白な骨は丸く光って存在を示す。それはわずかに心の琴線を惑わす魅力に満ちていた。不思議に思いながら摘みあげると『お直りください』のひと声が聞こえ、慌ててポケットに押し込む。
    「な、ない……ないぞ! そんな、喉仏が」
     名も知らぬ喪主が呼気を乱して場違いなほど叫ぶ。それを皮切りに「これでは納骨できん」「祟りかもしれんな」「あんな不気味な子を引き取るからもう極楽には……」と嘆く合唱が聞こえ、彼らの視線は次第に鬼太郎へ集約した。
    『おまえが連れ去ったのか。この化け物め』
     視線がそう語っていた。なるほど確かにこの白き宝は大事であるらしい。では取り上げたくなる気持ちがあって当然ではなかろうか。
    「ぼくたちは貧乏ですから骨が脆いのでしょう。焼けてしまったのかも」
     小首を傾げて途方にくれたフリをする。彼らはそれ以上何も言わなかった。やがて「それならば仕方ない」と諦める声があり、また厳粛な葬儀に戻ってゆく。
     その間も鬼太郎はずっとつるりとした感触をポケットに隠し、丁寧に楽しんでいた。尖端を何度も撫でさすると指先が熱を持ち、蒸された汗露が骨に馴染むような気がする。硬い骨がほぐれてとろける錯覚。隙間に二本の指を差し込みほどよい圧迫感を味わう。抜いたり差したりして体が沸騰する。眩暈と明滅。
    「これきりで終わりにしてくれ」
     震えて懇願するあわい記憶。ぐに、と伸ばした先の穴は準備せずともすでに熟れているくせに。あの男が必死に縋り付き背中を掻きむしった。鬼太郎。鬼太郎、頼む。俺の身体を暴くな。喰らうな。あたまがおかしくなる。いやだ。これ以上、おまえできもちよくなりたくない……。

     ぐわり。
     開けた口に骨を放り込んだ。淫欲を払うよう力任せに噛み砕く。途端にザラザラした欠片が舌に纏わりついて上手く飲み込めない。匂いも味もない。残るは不快な舌触りのみ。ぼくのてのひらであんなに熱を持ちのたうち回っていたのに。あの温度はどこへ消えた? 不味い。虚しい。喰いそびれた。もっと柔らかい肉を開いてやりたかった。腹が減る。満たされない。あゝ早く、七草粥が食べたい。
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