墓標、あるいは。『伽羅坊、好きだぜ』
庭の隅、今日も今日とて穴を掘って言葉を埋める。言霊というものがあるとして、それを埋める自分はなんなのだろう。
しっかり死んでくれよと穴を埋め、数日後再び穴を掘る。
想いが死んでくれる日はまだ来ない。掘り返されてもいないのに。
大倶利伽羅が鍛錬に使っている場所には紫陽花が咲いている。庭の隅にあるため、人気はあまりないので気に入っていた。誰も周りにいない静かな場所。
なので、その声を聞いたのも大倶利伽羅だけであった。
『伽羅坊、好きだぜ』
まずは紫陽花が喋ったことに驚いた。次にその内容に驚いた。
そしてそれが誰の声なのか気がつき——もっとも大倶利伽羅を坊と呼ぶのはたった一人だけなのだが——驚いた。
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