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    シーグラスを拾う。

    硝子の心たち「昔、きみのことが好きだったんだよなあ」
     うん、今も好きだが、それは可愛い弟分としてだな。あのころは、そうじゃなかった。もっと醜い、嫌な感じの、どろどろとしたやつでな。それでよろしくないな、これは、と。そういう感情を削って削って削って、丸めて、捨ててしまったな。と、思い出した。
     粘土をこねくりまわしつつ鶴丸はそんなことを言った。
     本丸夏の工作大会。鶴丸は粘土細工を作ることにしたようだ。なかなか芸術的な作品である。なにを作っているのか、大倶利伽羅にはまったく判別できない程度に。
    「それで、それはどこにやったんだ」
    「なにが」
    「捨てたもの」
     さてなあ、と鶴丸は首を傾げた。
    「確か城の、すぐそばの川に捨ててしまったはずだ。そのあとは、知らん。海にでもたどり着いていたら驚きだが」
     鶴丸は自分から捨ててしまったものにもう興味がないようだった。
     鶴丸がいつ「それ」を自覚し、いつ諦め、いつ捨ててしまったのか。
     それは今ここにいる大倶利伽羅にはわからないことであった。そういったそぶりを見せたことなど一度もなかったのだ。察しろというのには無理がある。
     大倶利伽羅が少しでも気づいていたら、なにかが変わっていたのだろうか。
     あるいは、気づかなかったからこそそのときの鶴丸は捨てる覚悟を決めてしまったのかもしれない。
     いずれにせよ、もう遅い。遅いのだ。
     全ては手遅れだった。
     大倶利伽羅がそうであったように、鶴丸だって、人の感情に鈍感だった。
     大倶利伽羅が気づかなかったように、鶴丸も、大倶利伽羅の感情に気づくことはなかったのだ。
     違うのは、鶴丸はそれを捨ててしまい、大倶利伽羅は未だに捨てきれずに抱えていることだった。こうして、全ての手遅れを知った今でも。

    「なにを見ているんだい」
     拾ったばかりのものを日に翳して見ていると、鶴丸が話しかけてきた。
    「拾った」
     砂浜に落ちていた、色のついた硝子のかけら。
     大倶利伽羅の手を、鶴丸はまじまじと見つめた。
    「こいつぁ、シーグラスってやつだな」
    「シーグラス」
    「ビーチグラスとも呼ぶらしいぜ」
     硝子片が、波に揉まれて角が取れるとこのような形になるらしい。
    「綺麗だな」
     鶴丸の金色の瞳が、シーグラスを見つめている。
    「あんたの、」
     気がつけば大倶利伽羅は口を開いていた。
    「あんたの捨てたという、醜いものも、今はこうなっているかもしれない」
     鶴丸は瞬きをし、視線を海へと移した。
    「わからないぜ」
    「見てみなければわからないだろう」
    「見つかるとも思えんさ」
     俺が、と大倶利伽羅が口を開いた。
    「俺が、見つける」

     大倶利伽羅が内側にずっと抱え込み続けたものと、鶴丸が捨ててしまったもの。
     どう違うのか、大倶利伽羅は見てみたくなったのだ。

     大倶利伽羅の言葉に、鶴丸は目を見開いた。
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    silver02cat

    DONEくりつる6日間チャレンジ2日目だよ〜〜〜〜〜!!
    ポイピク小説対応したの知らんかった〜〜〜〜〜!!
    切望傍らに膝をついた大倶利伽羅の指先が、鶴丸の髪の一房に触れた。

    「…………つる、」

    ほんの少し甘さを滲ませながら、呼ばれる名前。
    はつり、と瞬きをひとつ。 

    「…………ん、」

    静かに頷いた鶴丸を見て、大倶利伽羅は満足そうに薄く笑うと、背を向けて行ってしまった。じんわりと耳の縁が熱を持って、それから、きゅう、と、膝の上に置いたままの両手を握り締める。ああ、それならば、明日の午前の当番は誰かに代わってもらわなくては、と。鶴丸も立ち上がって、その場を後にする。

    髪を一房。それから、つる、と呼ぶ一声。
    それが、大倶利伽羅からの誘いの合図だった。

    あんまりにも直接的に、抱きたい、などとのたまう男に、もう少し風情がある誘い方はないのか、と、照れ隠し半分に反抗したのが最初のきっかけだった気がする。その日の夜、布団の上で向き合った大倶利伽羅が、髪の一房をとって、そこに口付けて、つる、と、随分とまあ切ない声で呼ぶものだから、完敗したのだ。まだまだ青さの滲むところは多くとも、その吸収率には目を見張るものがある。少なくとも、鶴丸は大倶利伽羅に対して、そんな印象を抱いていた。いやまさか、恋愛ごとに関してまで、そうだとは思ってもみなかったのだけれど。かわいいかわいい年下の男は、その日はもう本当に好き勝手にさせてやったものだから、味を占めたらしく。それから彼が誘いをかけてくるときは、必ずその合図を。まるで、儀式でもあるかのようにするようになった。
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