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    鶴丸の墓作りの話

    ##くりつる
    ##本丸軸なふたりの話

    悲しんでいる貴方を愛する 僕が死んだら、ここに葬って欲しいな。
     そう審神者が言い出したのは、確か、本丸が開かれて一年かそこらのことだったと記憶している。主には本丸以外に帰るような場所もなく、自分を看取ってくれるような人間もいなかった。だからこそなのだろうか。主はこの本丸を終の棲家であり、自分の墓所として定めたようであった。僕が死んだら、この樹の根元へ埋めて欲しいと事前に場所まで決めた。周囲を整備し、長椅子を置き、暇なときはそこに腰掛けのんびりと過ごすこともある。
     そんな主を真似してか、刀たちも次第に自分たちの理想の墓所を作り始めるようになった。大抵は、小さな庭のように花を植えたりする。自分の墓所というのも忘れ、丁寧に世話をするのだ。

    「なァ、伽羅坊。俺が折れたらここに埋めてくれ。約束だぞ」そう鶴丸が指定した場所はお世辞にも綺麗な場所とは呼べない。誰も入り込まないような山の中で、辛うじて拓けた場所である。雑草も生え放題で石もごろごろと転がり、景観は最悪と呼べなくとも荒地と評して違わない。鶴丸はそこを世話する様子もなかったが、時折訪れては長い時間を過ごしているようだった。鶴丸の墓所の位置は、おそらく大倶利伽羅しか知らなかった。大倶利伽羅も、一度しかそこを訪れたことはない。ただ、ふらりと鶴丸がいなくなるときは、おそらくそこでひとり静かに過ごしているのだろうと思い、探すようなことはしなかった。自分の墓所と定めた場所で、どうしてそのように時を過ごそうとするのか。主のように死後に自分が埋められる場所だから周囲を綺麗に整備しようという行為は少し理解できるものがあったが、鶴丸はそういった行為をする気配もなかった。
     大倶利伽羅は自分の墓所を持たない。特に興味がなかった。つまらんやつと鶴丸が唇を尖らせたのははるか過去のことである。だいたい、ほかの刀のように自分の墓所を自分で世話するのには向いていない気がしたし、自分が折れたあとに誰かに世話を任せるのには気が引けた。

     ――鶴丸が折れた。
     冬の入り口のような夜のことである。
     破片を持ち帰ったのは大倶利伽羅だった。
     ぽっかりと胸のどこかに穴が空いたような心地がした。
     あんな男であったが、約束は約束だ。たとえ勝手に、それも一方的に告げられたような約束であっても、最期の願いくらいは叶えてやりたいくらいには情がある。
     かつての記憶を頼りに鶴丸が自ら望んだ墓所に訪れ、円匙を突き立て土を掘り起こす。するとそこだけ雑草がすっぽりとなくなり、なんだか荒れ放題の周りと合わなくなった。
     仕方がなく、周囲の雑草を取り除くことにした。当然、数刻で終わるはずもなく、毎日通っては雑草を引き抜く。そうすると今度はごろごろと転がった石が目立った。石も取り除くと空き地が生まれたが、またすぐに雑草に埋もれるだろうし、これでは墓所の位置がわからなくなりそうで、仕方がなく大倶利伽羅はそこに花を植えることにした。
     大倶利伽羅は花には詳しくない。大倶利伽羅が勝手にやっていることだ。ほかの刀たちに聞くのも憚られて、記憶を掘り返して、鶴丸の好きだと言っていた植物を植えることにした。竜胆である。
     あの男がいたころよりもあの男のことを考えているのは、過去の記憶を遡っているからだろう。なにが好きだったのか、こうなる前は思い出すこともなかった。しかし、思い出そうとすれば、自分の想像以上に記憶のあちこちに転がっているものだった。あの男は自分の好きな物についてよく語っていたからだ。
     長い時間をかけ荒地はすっかりと様変わりしてしまった。鶴丸が望んだのはこのような墓所ではないのかもしれないが、やってしまったものは仕方がない。たまに世話をしにきては、鶴丸のことを思い返した。考えれば考えるほど虚しさは増すかと思っていたがそんなことはない。不思議なほど、穏やかな気分だった。
     いつの日か感じた胸の空白はいつの間にか埋まっていたようだった。過去の記憶を掘り返せば掘り返すだけ、もとの穴がわからなくなった。なにせ、思い出す記憶というものは溢れるほどにあったからだ。
     風に揺れる花を眺めながら、自分も折れたらここに埋めてもらうのも良いかもしれないと、大倶利伽羅は思っている。


     墓は死者のためにあるべきか生者のためにあるべきか。おそらく大倶利伽羅は前者で考えて、鶴丸は後者で考えている。鶴丸はかつて前者で考えていたが、墓を暴かれ死者の尊厳とはなにか考えたときに結局のところ生者の記憶の中にしか安寧は存在しないと悟ったのである。
     それと同時に、生者が死者について考えるときに蘇るのは悲しみばかりではないこともまた、鶴丸はよく知っていたのだ。墓所はそれを思い出すきっかけになるだろう。
     残念なのは、きっと自分はそれを確かめることができないということだけだった。 
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    DOODLEドッペルゲンガーだった鶴丸と一振り目の大倶利伽羅の話
    ドッペルゲンガー、恋を知る。第四話 窓辺に吊したてるてる坊主がこちらを見ている。
     鶴丸が顕現した春から季節は過ぎ、本丸には梅雨が訪れた。遠征先で雨は体験していたものの、毎日続く雨には驚きもなくうんざりとさせられる。じめじめとした湿気は気分を憂鬱にさせられるし、気晴らしに外へ出ることもできない。なにより、いつもの習慣であった大倶利伽羅との手合わせができないのは辛かった。道場は手合わせの相手を求める刀剣男士たちでいつもより溢れかえっていて、彼らと一汗流すのもよかったが、やはり大倶利伽羅との手合わせが鶴丸にとって格別なのだというのを再認識してしまうのだった。
    「ええと、これは、美術の棚か」
     書庫の中、鶴丸はワゴンを押す。
     青江の勧めに従って、鶴丸は書庫の管理人となった。司書と呼ぶには知識は足りないので、本当にただの管理人に近い。それでも返却された本を棚に戻したり、今まではなかった貸し出し管理簿を作ったり、やることはそれなりにある。特に、書庫の書籍をリスト化する仕事はなかなかやりがいがあった。鶴丸が顕現するまで本は適当に管理されていたらしいというのは青江から話には聞いていたが、終わるまでにどれくらいの時間がかかるものか。
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