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    鶴丸が鶴を折ったり、祈ったりする話

    ##本丸軸なふたりの話
    ##くりつる

    祈り鶴 非番の日、ぶらり廊下を歩いていると空き部屋の方から笑い声が聞こえてきて、鶴丸はそこを覗き込んだ。本丸の中にはいくつか空き部屋が存在する。いずれ顕現する仲間たちのために用意されたものであるが、今のところ昼間は非番の刀たちが集まって暇を潰したり、夜には小規模な飲み会の会場として使われている。今日も、短刀たちが集まり折り紙で遊んでいるようだった。誘われ、一枚手に取った。
     ほら、と折ったばかりの蛙を見せてやれば、鶴を折ると思ったのにと言われて苦笑する。緑色の鶴なんていないだろうに。まあ、折り紙なのだから本来あり得ないような色とりどりのものが出来上がって当然であるのだが。

     昔々のことである。
     叶って欲しい願いがあった。自分ではどうすることもできない、まさに神頼みをするしかないような願いだ。
     それを叶えたくて季節が移りゆくたびに、一羽、また一羽と、鶴を折ったことがある。
     綺麗だなと最初に褒めてくれたのは鶯丸だった。そうだろう、と誇らしくなる。千羽折れれば、俺の代わりに飛んで逢いにいってくれるかもしれないと思ったんだ。
     誰に、と鶯丸は尋ねてくることはなかったが、鶴丸が鶴を折る姿を、よくとなりで眺めていたのだった。
     春が過ぎれば一羽折り、夏が過ぎれば一羽折り、秋が過ぎれば一羽折り、冬が過ぎれば一羽折る。
     そうして集まる鶴に願いを託そうとして恐ろしくなったのは、折り続けた鶴が千羽に届く前のことだった。
     唐突に、何も変わらないかもしれないということが恐ろしくなったのだ。
     もう二度と大切なものに触れられないかもしれないと思い知ることが恐ろしくてたまらなかった。祈りを重ねれば重ねるほど、現実に向き合うことが苦しかった。
     そうしてぱったりと鶴を折るのをやめてしまった鶴丸に対しても、鶯丸がなにかを問いただすことはなかったが、鶴を折っていた時と同じように、ただ黙ってとなりにいてくれた。それがどこか救われた気持ちになったのだった。

     そんなこともあったなあ、と鶴を折る短刀たちを眺める。ふと廊下を誰かが歩く気配を感じ、顔を上げた。
     やあ伽羅坊、きみもどうだい。ほら、見てくれ。俺が作った蛙、可愛いだろう。
     我ながら綺麗に折れた蛙を手のひらに載せてみれば、大倶利伽羅は部屋へと入ってくる。任務から帰還したばかりの彼は怪我こそないものの衣服に汚れがある。おそらくこれから湯浴みでもするつもりだったのだろう。大倶利伽羅は鶴丸の手のひらの上から蛙を摘まみ上げた。
     意外だな、と大倶利伽羅が言う。鶴でも折るかと思っていた。
     鶴丸は笑った。折らないさ、と。

     願いは叶ったから、鶴はもう折らない。


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