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    舞木ヨモギ

    @yomogibl

    松をあげる垢。24多めの予定。

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    舞木ヨモギ

    DONE『息巻く成功への道 【GREAT CHAMPION ROAD】』展示小説となります。パスワードは『青薔薇の不死鳥』でした!
    夢を 松野カラ松には憧れの人がいた。その人はカラ松と同い年で、プロのボクサーだった。猫のように軽い身のこなしで舞うように相手を倒していく。一度も黒星をつけることがなく、彼は超新星と呼ばれた。そんな彼の影響でカラ松はボクシングを始めた。プロ一年目にして彼がタイトルを奪取した時は数々のメディアが彼を取り上げた。彼はその後も出場した大会のタイトルを掻っ攫っていった。一松と名乗る彼は、普段は気怠そうな目が印象的だった。リングに立つとたちまち殺気を纏い、まるで別人のようになることから彼のギャップに惹かれる者が後を絶たなかった。虎を相手にしているようだと、対戦相手のボクサーは言っていた。取材はほとんど断っていたらしく、そのミステリアスさも彼の人気に拍車をかけた。カラ松は一松のことをデビュー当時から知っており、さらに同い年のボクサーという共通項もあってか、彼が活躍する度に自分のことのように嬉しくなった。正直、カラ松自身のスケジュールより一松の試合日程ばかりを把握していた。リング上の猫と出会ってから、文字通りカラ松の人生は一変した。いつだって彼の中心はあの超新星だった。しかし終焉はあっけなかった。ボクシングの試合でも最高峰と言われるAKATSUKA選手権の日だった。このタイトルを獲得すると、一松は晴れて階級完全制覇となるはずだった。決勝前、一松は突然姿を消した。
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    舞木ヨモギ

    DONE『風と来たりし猫の恋』展示小説その4です!パスワードは『旅日記に君をのせて』でした!
    グラいちオムニバス第肆話 戦姫 暖かい風が吹いていた。まるで何かのアニメのコスプレのような古風な格好の男は、大きく息を吸った。
    「春だな……」
    優しい日の光を浴びて男、カラ松の顔は思わずほころんだ。こんな天気の日は気分が良い。近くの和菓子屋で団子でも買おうかと思ったその時、カラ松の前に何かが立ち塞がった。人ではない。カラ松の三倍くらいの大きさをした、何か。一つ目でこちらを睨んでいる。ドブのような色で鼻をつく臭いがする。思わず後ずさる。何だこの化け物は。化け物が歩いた後にはヘドロのようなどろどろした何かが湯気を立てて残っていた。背中に壁が当たる。しまった。もう逃げ場が。化け物が迫る。オレの旅もここまでか。これまでの思い出が蘇る。道を間違え正反対の方角へ歩いたこと。何もない所でバランスを崩し、かなり派手に転んだこと。『あなたに心奪われました』と言われ……たことは無かった。カラ松の旅先の子は皆内気だったのだろう。様々な思い出が走馬灯となって流れていく。不思議と後悔は湧かなかった。ただ今は、流れゆく記憶の欠片に思いをはせていた。あの世とは、どんな所なのだろうか。悪人はいるのだろうか。化け物がカラ松のすぐ側まで来た。カラ松は何も抵抗しなかった。化け物の頭部だけがずる、と伸びてくる。恐怖はもう無かった。カラ松が手を伸ばす。その時だった。
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    舞木ヨモギ

    DONE『風と来たりし猫の恋』展示小説その2です!パスワードは『旅日記に君をのせて』でした!
    グラいちオムニバス第弐話 歯車 日が昇る前から出勤して、サービス残業は当たり前。社食は硬いパンと薄いスープ。作業員には何を作っているのか知らせず、就職したら最後、骨になるまで利用される。そんな悪しき噂が後を絶たない工場、ブラック工場にグラサン風来坊は来ていた。外見から黒々としていて、名実ともにブラック工場であることを隠そうともしていなかった。あまりの黒さにグラサン風来坊―カラ松はサングラスを外した。一筋の月明りだけが彼を照らしていた。幸い警備は薄いようで、まるで駅に入るみたいに自然と建物の中に入ることができた。建物の中は暗かった。機械の錆と油の臭いが鼻につく。入ってすぐに案内図があったが、真っ黒で何も読めなかった。他の看板も黒く、手探りで向かうしかなさそうだ。工場の中は思ったよりも広かった。地下に通じる階段を下りる。臭いがさらに強くなった。あまりの異臭にカラ松は口元をいつもマントのようになびかせている布で覆った。暗闇にようやく目が慣れてきた。相変わらず道案内の役割を果たすはずの看板は、真っ黒。辺りを見回すと、ほんのりと明かりが漏れ出している部屋があった。部屋のプレートも真っ黒で読めない。思い切って扉を開けてみるとそこはこれまでカラ松が見てきたブラック工場とは似つかわしくない光景が溢れていた。まずはその明るさだ。おそらく一般的な照明のそれと変わりないのだろうが、目が暗闇に慣れたせいでかなり眩しい。カラ松はサングラスをかけた。やはり机やソファといった家具は黒いが、所々にフィギュアや金庫で別の色があるのを見つけた。そして部屋の奥、人影があった。カラ松は声をかける。
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