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    namidabara

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    namidabara

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    5/20 進捗
    3日目/書いているうちにキャラが持つ理論が分からなくなってきた。考えれば考える程オメガバースの設定は薄気味悪くてしんどくて最高ですね。

    #尾月
    tailMoon



    「ブラックで良かったですよね」
    「平気だ。ありがとう」
    助手席に乗り込んできた尾形から、既に汗をかき始めているプラスチックのカップを受け取る。掌から伝う冷たさが気持ちよくて、ストローで一気に半分程吸い上げた。やけくそに冷やされた苦みがするりと喉を伝い落ちる感覚。一口で半分を飲み干した月島に、尾形はやや眉を顰めて「肺活量」とぼやいた。
    暦上は一月だというのに、今日は随分と陽が照っていた。昼過ぎの太陽はじりじりと社用車ごと二人を焼く。ヒートのαを抑え込むという重労働をした上にこの天気もあってか、いつも涼しい顔で澄ましているの尾形の首筋にも、うっすらと汗が滲んでいた。
    作り物めいた男の確かな生物としての証が物珍しくて、思わず横眼でじっと見つめる。尾形はその視線に気づいて器用に片眉だけを上げて笑って言った。
    「何ですか、あてられて欲情しました?」
    「馬鹿なことを言うな。ぶちのめされたいのか」
    「まさか。俺は勝てん勝負はしない主義です」
    アンタとやりあったら五秒で負ける自信がありますよ。捲られたシャツから覗く太い腕を一瞥して、男は真意の分からない冷ややかな笑みを浮かべたまま言った。
    手の甲で汗を拭いながらため息を吐く。この男はどういうわけか、身体を重ねたあの日から随分と距離が近くなった。月島が喫煙室に向かえばついてくるし、残業中にはよく声をかけてくるようになった。この男は月島基という人間の面白みに味を占めたのだ。何か面白いことは無いか、どこを突けば甘い蜜が出てくるか、虎視眈々と狙いを定めているのだろう。厭らしい男だ。

    「はああ、疲れた……。これならデスクで仕事してた方がマシだったぜ」
    いつものように汗でじっとりと濡れた髪をかき上げながら、肩を鳴らしてそう愚痴る。
    「お前は車で待ってただけだろう。往復したのは俺だ」
    月島の言う通り、これからヒートを迎える二人の為に買い込んだ食品を部屋まで運んだのは月島である。最近二人が同棲を始めたアパートに帰る前にコンビニに寄り、ゼリー飲料やレトルト食品、経口補水液など、とにかく手間なく栄養補給が出来る食料を用意した。車をアパートの近くに止めて先に野間を連れて行き、準備をさせる傍ら月島はそれらを部屋にせっせと運んだのだった。尾形はその間、後部座席で三島を押さえていただけに過ぎない。
    「いやいや、αを抑え込むのだって相当労力が要りましたよ。三島の野郎、痕になったらどうするつもりだ」
    随分としわくちゃになってしまった黒いシャツの上から、腕を摩って肩を竦める。ずっと強い力で掴まれていたのだろう。番が近くに居る時のαはタガが外れ気味になるものだ。
    「それでも三島は暴れなかっただけマシだったな」
    「まるで発情期のケモノですな」
    「まるで、じゃない。まんま、発情期のケモノだよ」
    発情期、なんてものがある時点で自分たちは何ら獣と変わりない。より良い種を残す為、子孫の繁栄の為。遠い昔に人間が捨ててきたはずのそれらは、今も我が物顔で自分たちの身体に巣食っている。悍ましい、と思った。
     尾形は面白そうにくつくつと喉奥を鳴らして笑う。月島は時折、こうしてαやΩのことを獣と同列に語る。当たり前のように吐き捨てるその姿が本当に面白くて、どうにも滑稽なのだ。その価値観を形成するにあたって月島に起こった出来事にますます興味が湧く。

    「それにしても、月島係長は甲斐甲斐しいですなあ。勝手に盛る番なんて、部屋に放り込んで放っておけばいいじゃないですか」
    「番が出来て初めてのヒートはどうしても重くなる。周囲がしてやれることをやるべきだ」
    「へえ。月島係長もそうだったんですか?」
    月島の首のベルトを見ながら薄ら笑いを浮かべる尾形を一瞥して、母親譲りの低い鼻を鳴らしてみせた。
    「忘れた」
    「そんな訳ないでしょう」
    嘘ではない。月島はあの地獄のような日々の中で、いつ自分が初めてのヒートを迎えたのかなど覚えていなかった。あの日々はいつも同じ色をしていて、どこを切り取ったって苦痛しかない。
    黙り込んだ月島を見て、尾形はこれ以上追求しても無駄だと悟ったのか飽きたのかは知らないが、外の街並みを見ながらコーヒーを一口飲む。薄く汗をかき始めたプラスチックのコップは、尾形の掌をじっとりと濡らした。もう少し休憩したら会社に戻らねば、月島はストローを噛みながらぼんやりと考えていた。

    「何か月持ちますかね、アイツら」
    喉仏をごくりと鳴らした後、尾形は何でもないことのように言い放つ。それはまるであの二人がいずれ破局するのが分かっているかのような口ぶりだった。
    「……は?」
    「三島と野間ですよ。まさかあのまま上手くいくとお思いで?月島係長は随分とロマンチストなんですね」
    「思っているに決まっているだろう。三島の愛も野間の愛も本物だ」
    ——おれは、しあわせになるべきじゃないのでしょうか。何も映さないガラス玉のような真っ黒い目で呟く野間。俺が好きなお前の事、お前自身がもっと大事にしてくれよ。休憩室の前を通りかかったときに聞こえた三島の懇願。
    二人は幸せになるべきだ。彼らの道中は歪んでいたかもしれないが、その先は平穏であるべきだ。それとも、べきだ、と思ってしまうこと自体が月島の傲慢なのだろうか。月島の理想の幸せ像に、二人を押し込めているだけに過ぎないのだろうか。
    「俺はそうは思えませんね。だってあの野間ですよ?口ではどうとでも言えるが、幼い頃から抱き続けた運命への憧れはそう簡単には消せんでしょう」
    「仮に運命の番が現れても、野間は三島を選ぶだろ」
    二人の間に絶望的に広がっていたあの距離を、三島がどのようにして飛び越えて、野間がどのようにして橋を架けることを選んだのかは知らない。知る気もないし、それを知っているのは本人たちだけでいいと思っている。
    だがそこに至るまでに心の移り変わりは、決して生易しいものだけではなかったはずだ。赤の他人同士がその決して一つにはなれない掌を、それでも一つに混ざり合おうと繋ぐことは、生半可な覚悟では成し得ないことだと分かっている。だから。

    「運命に出会ったとたん捨てられちまった哀れな番を、俺たちは痛い程知っているでしょう」
    目を細めた尾形は、“俺たち”の部分を殊更強調して言った。ギロリ、と鋭い横眼だけで男を睨みつける。新入社員どころか上司まで震え上がらせて泣かせる鬼軍曹の一睨みも、尾形はどこ吹く風でさらりと受け流す。
    「どこで知った」
    「おや、否定せんのですか」
    「否定した所で諦めないだろう。で、どこで聞いた」
    「潔いですなあ。何、ほんの噂ですよ。上層部の奴らがピーチク言ってました」
    月島は短く舌打ちをした。どこか古臭い体制のまま昨今まで生き抜いてしまった自社の上層部は、変わりゆく世間より固く黴臭い思考をお持ちな人間が多い。彼らの中の古い価値観では、Ωはいつまでも“最下層”の人種なのである。だからΩなのに人一倍仕事をこなし、会社利益にうんと貢献している月島のことが気に食わないのだ。
    「俺の母親はね、捨てられましたよ。父は運命の番を本妻に迎えて母を捨てました。そうして母親はおかしくなった。愚かですよね、たかが男に捨てられたくらいで正気を失うなんて。馬鹿らしいにも程がある」
     尾形はまるで映画のあらすじかのように、つらつらと自身の母のことを語った。尾形の複雑な家庭事情のことはあらかた鶴見より聞いていたため、特別驚くことは無かった。が、まさかこの男が自分から話してくるとは思わなかったので、その点については面食らった。他人と距離を置くことに情熱をかけるようなこの男が、一番距離を置きたいであろう上司という生き物の自分の前で自分の過去を語った。どういう意図があってそうしたのかは分からないが、月島の動揺を誘うには十分だった。
    「お前の母親のことは知らないが。俺の父親は獣で、クズで、人でなしだった。だから捨てられた。運命がどうとかじゃない、人間性の問題だろう」
     三島は野間を捨てないだろう。逆もしかりだ。そうでなければあんまりにも報われないだろう。

    「じゃあ、月島係長の母親はアンタを捨てることを選んだってことになりますね。俺の母親だって、俺を置いて行った。それは本能に抗えなかった末に仕方なく、じゃない訳だ」
     そう言われて息が詰まる。抗えない本能であるならば仕方ない、と諦める言い訳にしてきた理論が崩されてしまえば、それをよすがに保っていた月島の心の幼い部分がぺしゃんこになりそうだった。
    「月島さん、アンタはあの二人を信じてるわけじゃない。真実の愛で結ばれた二人なんていう構図を信じたいだけだ。真実の愛とやらが俺たちの本能に抗えるって構図をね。それを肯定できれば、俺たちは本能で生きる獣じゃないと、他と同じ理性ある人間だって言う証明になるからな」
    悪魔がせせら笑う。違う、俺はただ純粋に二人のことを。そう呟きながら、心のどこかで「図星だろう」とせせら笑う己が居た。
    運命の番が出会ったならば、例外なく結ばれてほしい。それが我々特殊なバース性を持つ者たちの本能なのだから仕方ない。そう願っているのは、運命の番を見つけて父から逃げ、月島を捨てて行った母親を肯定したいからだ。否、正しく言えば逃げた母親が決して月島を捨てたのでは無いのだと、母親から僅かにでも愛されていたのだと信じたいのである。
    そしてその反面、真実の愛を得た番が、いずれふらりと現れるかもしれないポッとでの運命なんぞに引き裂かれてほしくない、と願う自分も居た。人間としての理性ある愛が、獣としての汚らわしい本能なんぞに屈してほしくない。屈してしまったら、自分たちも獣であると証明されてしまう。
    月島の心の内では相反する二つの感情がせめぎ合っていた。どちらかを肯定すれば、どちらかは否定されてしまう。運命なのだから仕方ないのだと諦めたい心と、本能なんかに人間としての尊厳を踏み躙られたくないという願望。その揺らめきをいとも簡単に探り当てられてしまった。この、底の知れない深海のような笑みを浮かべる男に。
    「……あの二人は、人間だろう」
    「アンタが言ったんでしょう、αもΩも結局はただの獣だって」
    尾形はせせら笑った。それはどこか己さえも嘲笑しているような歪な笑みだった。
    「賭けましょうよ、月島係長。別にアイツらじゃなくたっていい。次に身近な番の前に運命の番が現れた時、そいつらがどうなるかに。俺は勿論運命に、獣の本能に負ける方に賭けますけどね」
    下卑た発想だ。そもそも、運命の番などそう簡単に見つかるものでもない、と反論しようとして辞めた。月島の周りでは既に三組、目の前の男のケースを含めれば四組だ。都市伝説として片付けるには、月島は些かその都市伝説に遭遇しすぎであった。
    運命の番。苦々しく、眩く、美しいその関係性は、周囲には時折猛毒の爪を立ててくる。それを月島も尾形もその身をもって理解していた。
    「俺は乗らないぞ、そんな賭け」
    「賭けは二人でやらなきゃ意味がないじゃないですか。俺は負ける方に賭けますから、アンタは打ち勝つ方ですね。いやあ、どの番かな。野間たちか谷垣のところか、門倉部長のとこってのもありますなあ。あの人のことは良く知りませんが、番はΩなんでしょう?」
     
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    DONEメタル吉さんの可愛いイラストを見て、SSを書かせていただきました。
    あの素晴らしいイラストの世界がとても好きです。
    許可頂きありがとうございます!
    アイドルのぐんそーとぐんそー強火担のおがたアイドルのぐんそーとぐんそー強火担のおがた

    ぐんそー!こっち見て~
    ぐんそー!投げキッスして~
    ぐんそー!ムンキック見せて~

    そう、ここは熱狂と狂気が入り交じる通称少女団のコンサート会場。「樺太少女団」は非常に熱いファンが多いことで有名な二人組アイドルユニットである。
    「マタギ」ことゲンジロちゃんと「ぐんそー」ことツキシマからなるユニットで、ムキムキな肉体美をもつ二人が可愛いフリフリなスカート姿で踊るギャップが受けている。
    最初は「こんなムキムキなオッサンたちの女装とか誰得?」「冷やかしに行ってみるか」と、アイドルというよりは見世物小屋という感じで始まったユニットだった。しかし、マタギがワンテンポ遅れたダンスを必死に踊る姿が、観客たちの母性本能などをくすぐり、「なんかマタギ可愛く見えてきたんだが」「俺はゲンジロちゃんの同担拒否」などの声が大きくなっていった。それに連れて、チケットが取りにくくなり、次第に大きな会場でコンサートをするようになっていく。
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