尾月原稿②尾形百之助に恋人が出来たのは、二週間前の土曜日のことである。
恋人。あの尾形に、恋人。性根が腐っていると言われ、人の心が無いと言われ、人を人とも思わぬ冷血野郎と言われたあの尾形に、恋人である。まさか他人を愛おしいと思えるだけの心があったなんて、と驚いているのは尾形自身も同じであった。
その恋人——月島基は、別の会社に勤める立派な企業戦士である。社畜とも言う。職場も業種も違う二人が何故知り合ったかというと、理由は簡単。『そういう人間向け』の出会いの場として用意された会場で偶然会ったからである。要するに、一夜だけの関係。名前も性格も過去もどうでも良い、肉欲だけを相手に求めた爛れた始まりだった。
その後お互いそこそこ気に入り、連絡先を交換して何度も同じ夜を過ごし、何の因果か取引先として対面することになるのだが、そこは割愛とする。
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