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    Sarururu

    @Sarururu00

    FFTとFF16ほかの二次小説書き。こそっとぽいっと時々置きます。
    FFT:ディリータ、オーバル
    FF16:テラディオ、クラジル

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    POIPOI 16

    Sarururu

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    8月31日は「I Love Youの日」なのだそうで、テラディオで書いてみました。ED後生存ifから少し時間が経った頃のふたりと隠れ家の皆です。

    #テラディオ

    ただ ひとつの ゆいいつの 依頼された魔物退治と、その後に反省会と称して行われた「石の剣」の練兵を終わらせてテランスが隠れ家へ戻ってきたのは、宵も半ばという頃合いだった。当然、舟守のオボルスには「陽が暮れてから舟は出したくねえんだよ」と文句をたっぷりと言われたが、同乗したドリスとコールが宥めてくれたので、テランスは割増料金を払わずに済んだ。
     隠れ家には、久々に滞在することになっている。別の場所に住まうようになってしばらく経つが、隠れ家が持ち合わせている空気感は今も慕わしい。ドリスとコールとは別れ、ひとりで昇降機に乗り込んだテランスは「何故だろう」とぼんやりそんなことを思った。
     ──おそらく、本当に様々なことが此処で起きたから。
     喜怒哀楽のすべて、隠していたもの、隠されていたもの、新しい世界と未来へ向かう時の狭間、自分にとっての真実、そして、「彼」にとっての真実。誓った言葉。約束。
     何年も住んでいたわけではないが、短くはない時間を此処で過ごした。多くの「人」と接し、世の広さを思い知った。塔のように積みあがった問題を切り崩していく覚悟を目の当たりにした。世界を壊して新たなものにした、その理由や真相を広く伝えるべきかどうかはさておくとして、責はとらなければならない。責というべきか──、役目というべきか。
     長き逡巡の末に、「彼」はその役目を担うひとりとなることを選んだ。周囲の期待はあったのだろう、だが、突き付けられたわけではない。少なくとも、「彼」は──、ディオン・ルサージュはそんなふうに自分に打ち明けた。救われた命を、恩を、返していきたいと思ったのだ、と。贖罪という形ではなく、己の心が赴くままに。
     ディオンの選択を、テランスは受け入れた。十割望んでいたわけではない。自らに課していた重荷を、別の形とはいえまた背負うのかと思ってしまったのは事実だ。心穏やかに、自らを労わって、平穏な日々を享受してほしい。そんな願いを心の片隅に抱えてはいたが、よく考えずとも「ディオン・ルサージュ」という人間は、荒波に飛び込む性質だった。本人に自覚はあまりないかもしれないが。
     所々に置かれたランタンの灯火を頼りに、テランスは居住区へと向かった。滞在中、ディオンと共に一室を間借りしたので、まずはその部屋へ戻るつもりだった。途中、顔馴染みのある住人数名と挨拶をかわし、新たに増築された区域に入る。
     割り当てられた部屋をテランスは常の打音でノックしたが、反応はなかった。てっきり、ディオンは在室していると思ったが、不在なのだろうか。それとも、もう就寝してしまったか。再度ノックし、入室する。やはり、誰もいなかった。ひとつしかない寝台も空だった。
     テランスが外に出ていた期間、ディオンはハルポクラテスとそその助手達の手伝いをすると言っていた。読み解くのに時間を要する書物が山積しているが、そのなかに今後の問題解決の鍵となるものがあるかもしれない。ということで、流し読みを進めて口頭で伝えていくのだということだった。
     まだその作業を続けているのだろうか。根を詰める性分だからその可能性は大いにあり得るが、良いこととは言い難い。ひとまず書庫へ向かうか、と思ったそのとき、整えられた文机に紙が一枚置かれてあることにテランスは気付いた。
    「?」
     扉を開けたまま、廊下から入り込む灯火の光を頼りに文机へ向かう。置かれた紙を手に取ると、そこにはディオンの筆致で『書庫へ』とだけ書かれてあった。


     そこから、テランスの「ディオン探し」が始まった。
     真っ先に書庫へ向かい、退室寸前のハルポクラテスと行き合った。ディオンのことを訊ねると、「先程、お出になられましたよ」ということだった。てっきり此処で待っているのかと思ったのに、と首を捻ったテランスに、ハルポクラテスが「ほっほ」と笑う。
    「殿下からこちらを預かっております」
     そうハルポクラテスは言うと、紙片を取り出した。
     両手で紙片を受け取り、テランスは書いてある内容を読む。やはり、ディオンの筆致だった。先程のと同じような紙片に、『ルカーンに「八文字の歌」を頼め』と書かれてあった。
    「これは……ディオン様は何を?」
    「謎解きゲームですかな?」
     興味深げに訊いてきたハルポクラテスに首を傾げ、テランスは溜息をついた。行って参ります、と礼をし、書庫を出る。
     ラウンジは既に満員御礼で、オーケストリオンが陽気な楽曲を奏でていた。どっと笑い声が上がり、賑やかで楽しげな雰囲気のなかにルカーンを探す。
     ルカーンはいつもと同じ場所で調弦をしているようだった。こんな騒がしい場所でもできるのだろうか、とテランスは思ったが、専門外だから分かりようがない。とりあえず、何か歌っているようでもなかったので、遠慮なく声をかけた。
    「ああ、殿下から承っております」
     斯々然々とテランスが説明すると、ルカーンはにっこり笑った。「ですが、此処では賑やかすぎますので、少し場所を移しましょう」と言う彼に付き従い、昇降機へ向かう階段を下りた。
     喧噪が遠のき、夜の静寂が忍び寄る。ルカーンは月を見上げ、リュートを爪弾いた。「外つ国の短い歌ですよ」と言い、彼は歌った。

     ひとつひとつ もじをかく
     きみはよめるかな そうだといいけれど
     ねがう いのる つたわれと
     たった やっつの それだけの
     はじめのことばは わたし
     さいごのことばは きみ
     ぜんぶでことばは みっつ
     いのる ねがう つたわれと
     ただ ひとつの ゆいいつの

     知らない、不思議な旋律と歌詞だった。すぐには吞み込めず、テランスはルカーンに再度歌ってもらった。
     願い。祈り。彼が伝えたい歌なのだろうか。何を指しているのだろうか。八という文字数とは? 初めと終わりがああならば、真ん中の言葉の意味は。
    「私も仔細は知りませんが、殿下は楽しそうでしたよ。お言付けがございます」
     カローンを訪ねろとのことでした、と言うルカーンに礼を言い、テランスは再び階段を駆け上がった。
    「ようやくのお出ましだね」
     書庫から出た後のルカーンとのやり取りを眺めていたらしいカローンは、テランスの来訪にニヤリと笑った。用意してあったらしい二枚のカードを取り出し、それをテランスに手渡した。
     手触りの良いカードだった。華やかさはないが、気品を感じさせる二種類のカードをテランスは眺めた。一枚には何も書かれていない。もう一枚には、彼──ディオンではない筆致で読めない言葉が書かれてあった。区切りの数から考えて、単語数は三。ヴァリスゼアの文字ではない。
    「そっちのは、外大陸産さ」
     助け舟を出してくれたカローンに、テランスは頷いた。先程のルカーンの歌と通じるところがあって、そのカードの文字の数は八だった。
     そして、何も書かれていないカードが残る。おそらく、「これ」は自分のものだ。
    「クライヴからストラスの羽根ペンを預かってる。インクも。見ないでおくから、此処で書いていきな」
     そう言ってカローンは卓の上を少し片づけて、横を向いた。場所を空けてくれたことに礼を言い、テランスはペンを走らせた。彼の名と、自分の名と、そうして。



     ──アトリウムにいるってさ。
     カローンの言葉に従い、裏デッキ経由で階段を上る。日中は小さな学び舎として使われているその場もやはり今は静かで、人影はひとつしかなかった。
     自分で用意したのだろう、机に火が灯されたランタンが置かれてあった。その灯火から伸びた影に向かってテランスは歩いた。足音を隠すこともなく。
    「ディオン」
     テランスが呼びかけると、人影が振り向いた。持っていた本を閉じ、木椅子から立ち上がる。「おかえり」と彼に言われて、テランスは「ただいま」と返した。
    「どうしたの、いきなり」
     少しばかりの笑みを浮かべてはいるが、どこか緊張した面持ちのディオンに、テランスは問いかけた。手にしているカードを損ねないように気遣いながら、彼に手を伸べる。
     ディオンは、テランスの促しのままにその身を傾がせた。テランスの肩に頭を乗せ、腕を背に回してきた彼は寂しがりの猫のようだった。
    「何かあった?」
    「……あった、といえば、確かにあったが。憂えるものではない」
     ぎゅ、と力を込めてディオンがテランスを抱きしめる。溜息をついて身を離したディオンは、「疲れていただろうに」とテランスの手の内のカードを眺めやって苦笑した。
    「なかなか楽しかったよ。久々に君に振り回されたんだもの」
    「……それならば、よかった」
     そう言うと、ディオンは机の上のカードを手にした。唇にそのカードの端を当て、艶やかに微笑む。

     ねがう いのる つたわれと
     はじめのことばは わたし
     さいごのことばは きみ
     ぜんぶでことばは みっつ
     いのる ねがう つたわれと
     ただ ひとつの ゆいいつの

     口ずさむ彼に、テランスは先程書いたカードを差し出した。
     目を細めて彼はそれを受け取った。そうして、自らのカードをテランスに手渡す。
     ありがとう、と互いに告げて、視線を合わせる。
     同時に、カードを開く。ランタンの灯火で、文字は容易く読めた。

     短い、文。同じ、言葉。唯一人に捧げる、切なる想い。

     そういう日なのらしい、と言い訳めいてはにかむディオンをテランスは抱きしめた。
     ──愛している。
     ごく短い、世にありふれた、しかしそれでいて、時として蔑ろにしがちな言葉、想い。……そう、捉える者も多いだろうけれども。
     自分にとっては。
     ──何よりも大切な、自らの命を燃やすための言葉。
     テランスが伝えると、ディオンも頷く。想いの強さや向きは完全に一致しているわけではない、それは分かっている。……分かっているけれど、それでも。
     お前が私の唯一だ、と囁いた彼の言葉は、テランスの心の水底まで沁みわたっていった。
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    mizutarou22

    DONEテラディオの二人がコスタ・デル・ソルへバカンスに行く話です。謎時空な現パロです。FF7リバースをプレイしていたら二人にも行ってほしくて…。リバースのネタバレは無いと思いますが一応注意してください。
    あなたが一番綺麗 遠くからさぁ……と音が聞こえる。その音は私を落ち着かせ、身体が勝手に胎児のように丸くなろうとする。しかし足を丸めようとしたところで、ふと温かい何かに当たった。そこで私は意識が少しずつ覚醒していく。目をふっと開け、視界に映ったのは……。

    「おはようディオン……目、覚めた?」

     目を開いた先にいたのは私の最愛の夫、テランスだった。テランスが微笑みながら私の髪をそっと撫でる。私はその撫でられる気持ちよさにうっとりとして、テランスがしてくれている腕枕に唇を近づけ、キスをする。

    「ああ……波の音で目が覚めてしまったようだ」

    「綺麗な音だね、ディオン」

    「ああ……」

     そう、私たちは今コスタ・デル・ソルというリゾート地へ来ている。温かい……というよりカッと太陽が照り付ける暑い気温で、ここにいる人々は薄着や水着で街中を歩いたりしていた。街も活気があり、皆楽しそうに催し物に参加したり、また様々なお店が軒を連ねており、そのなかでショッピングを楽しむ者もいた。
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