Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    rinne_bl

    @rinne_bl

    ※投稿作品の転載・複製・改変・自作発言は一切禁止です※
    二次創作文字書きです。
    オル光♂、ウツハン♂など。
    オリジナル設定、捏造強めです。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🍮 🍖 🐥
    POIPOI 21

    rinne_bl

    ☆quiet follow

    3.0後に教皇庁の出来事がトラウマになり不眠症になったヒカセンがオルシュファンと一緒のベッドで寝るだけの話。

    ---------------------

    オルシュファン限界オタクが自己救済のために書くシリーズ。自設定捏造改変なんでもあり。

    ※蒼天3.0ネタバレ有

    ■ヒカセン設定
    名前:ルカ
    ミコッテ/男/吟遊詩人
    仏頂面がデフォルトだが内心はそうでもない

    #オル光♂

    薄明に微睡むおぞましい程に赤い夕日が染め上げた長い天廊を走っていた。
     
     閃光が奔り、崩れ落ちた体躯から夕日よりも紅い血が溢れ出て白い石床を汚す。
     
     握りしめた手から砂のように命が零れ落ちていく。

     いやだ、いかないで。

    「――っ!」

     叫んで飛び起きた自分の声で目を覚ました。
     
     冷たい汗で張り付いた髪が不快で乱暴に拭い、シャツの胸元を掴んで内臓が掻き回されるような気持ち悪さと乱れた呼吸を宥める。それでも胸の奥に染み付いた恐怖は消えてくれなくて、ベッドの上でぎゅっと体を縮めた。

     そう、あれはただの悪夢だ。

     実際彼は生きているし、同じフォルタン邸の一室で療養している。昨日も見舞いに行って顔を合わせたばかりだし、寝てばかりで退屈だ、体が鈍るとぼやいていた。

     オルシュファンは生きている。わかっているのに脳裏にこびり付いた恐怖があの日の悪夢を何度も繰り返させ、その度に体を震わせて飛び起きるのだった。

     しばらくして呼吸の乱れや震えは収まったが、胸のつかえは取れず、じりじりと不安に炙られたままだった。無理に寝ても再び悪夢を繰り返す気がして体を横たえる気にもならず、しばらく逡巡してそっと寝室を抜け出した。

     使用人すらも寝静まった真夜中、明かりの灯らない廊下を冴えざえとした月の光が照らしている。纏わりついた寝汗が夜の冷気に冷やされ体温を奪っていくが、悪夢から意識を遠ざけるには丁度良かった。
     
     足音を消して目的の部屋へたどり着き扉をそっと開けると、よく手入れがされているだけあって軋むことなく扉は開いた。寝ている人物を起こさないよう滑るように足を運び、枕元にしゃがみこんで顔を覗き込む。穏やかな寝顔が月明かりに青白く照らされるのが、悪夢の死に際の彼と被って心がざわついた。

     嫌な想像を振り払って、起こさないよう慎重に首筋に触れた。柔らかい皮膚の下、とくとくと規則正しく命を刻む音が伝わってくる。

     心臓が動いてる。
     息をしている。
     温もりがある。
     ……生きている。

     穏やかなリズムに触れてようやく安心して、静かに溜息をついた。

     こうして寝ているのオルシュファンのもとを訪れるのは何度目だろう。
     
     不安を打ち消すためだけに寝室に忍び込んで寝ている彼に触れ、起こさないように部屋に戻るだけ。悪夢にうなされてはわかっているはずの現実を確認して、安心するための行動を何度も繰り返している。

     外では英雄なんて呼ばれているくせに、起こりえなかった恐怖を打ち払うこともできない自分のなんと情けないことか。

     ただ、本当にギリギリだったのだ。

     飛来する光の槍に渾身の一撃で矢を射ったおかげで、ほんのわずかに射線がブレた。それにより放たれた槍はオルシュファンの脇腹を抉るに終わったが、狙い通りなら体の中心を貫いていただろう。

     バリスタのごとき勢いで飛んでくる槍を弓でどうにかしようなんて、我ながらどうかしているとしか思えない。そしてどうにかなってしまったのだから火事場の馬鹿力というのは侮れないものだ。
     
     それでも治療の最中何度か心臓が止まりかけ、治療後も意識が戻るかは五分五分と言われたオルシュファンがこうして穏やかに眠っているのは奇跡としか言いようがなかった。

     だからこそルカは、あの日の恐怖からいまだに逃れられないでいる。

    (長居しては起こしてしまうかもしれない。「確認」は済んだのだから早く戻ろう)

     触れていた首筋から手を離し、音をたてないように静かに立ち上がろうとした。

    「なんだ、もう帰ってしまうのか?」
    「っ!」

     びくっと体を竦めて硬直したルカを薄い青の双眸が面白そうに見つめていた。

    「起きてっ……いや、俺が起こしたのか」

     バツが悪く視線が泳ぐ。
     
     療養で臥せっているとしても前線の砦を預かる騎士だ。いくら気配を殺しても毎夜のように繰り返せばいつか気取られるのは明白だった。

    「夜這いにしては慎ましすぎるな。もっと大胆に触れてくれてもイイのだぞ?」
    「夜這いの訳があるか。……嫌な夢を見ただけだ。起こして悪かったな」

     居心地の悪さにさっさと退散しようと踵を返すが、それよりも早く布団の下から伸びた手に引き寄せられ、とっさにベッドへ手をついた。

    「っ、何を――」
    「お前、しばらくまともに寝ていないな?」

     険しい目つきで見つめられ、ぐっと言葉に詰まる。

     教皇庁へ向かったあの日から毎日のように悪夢に苛まれるせいで、確かに睡眠は十分に取れていない。

    「こんな夜更けに私のもとへ来たということは、あの日の夢でも見たか?」
    「………………」

     完全に言い当てられ、居たたまれなさに目を反らし口をつぐむ他ない。しかしそれは肯定と同義だった。

     オルシュファンが苦笑しつつ濃い隈ができているだろう目の下を撫でる。剣だこのある硬い指に目の下の薄い皮膚を撫でられて、擽ったさに身をすくめた。

    「お前の命を守れたことを誇らしく思っていたが、それがこうしてお前を悩ませてしまうことになるとは儘ならないものだ」
    「あんたが悪いわけじゃ……というかその、そろそろ離してくれ」

     オルシュファンの顔の横に手を着いて覆い被さっている状態だ。傍から見れば押し倒している体勢が落ち着かず体を起こそうとするが、掴まれた腕を離してくれないので身動きが取れない。

    「どうにかお前の不安を取り除いてやりたいが、そうだな……一緒に寝るか?」
    「……はっ?」

     なんてことないように言われた言葉の意味がわからず、間抜けな返事をしてしまう。

    「すぐ隣で私が生きていると実感できれば、お前も安心して眠れるのではないか?」
    「それは、そうかもしれないが……いやいやないだろ。男同士で一緒のベッドで寝るのは」

     提案の意味をようやく理解すると体温が上がった気がして、動揺を押し隠して否定する。

    「他人に見られるわけでもあるまいし、お前と私が良ければ構わんだろう。私と同じベッドで寝るのは嫌か?」
    「…… 嫌、では……」
    「なら良いな」
    「え、まっ」

     嫌かと聞かれて思考が揺らぎ、気づいたら布団に引きずり込まれ、オルシュファンの長い腕に捕らわれていた。

    「っおい!寝るとは言っていないだろ!」
    「嫌でないのなら構わんだろう。お前の素晴らしい体と精神が寝不足で損なわれるなど耐えられんのでな!」

     怪我人相手に本気で抵抗することも出来ず、諦めてそのまま収まることにした。上に布団が掛かっているだけで雑魚寝と変わらない。
     包み込むオルシュファンの体温と香りを知覚から追い出し、自分にそう言い聞かせた。

    「……わかったよ。今夜だけだ」
    「うむ!あぁ、イイ抱き心地だ。しっかりついた筋肉の感触と腕に収まるサイズ感、最高だぞ友よ。ふふふ、これは私もよく眠れそうだ」
    「そりゃ良かったな……」

     こちらは悪夢どころじゃなくなって眠れるかすら怪しいというのに。上機嫌なこの友人が恨めしくため息をつくと、子供を寝かしつけるようにぽん、ぽんと緩やかに叩かれる。

    「幼い頃、嫌な夢を見て泣くと母上がこうしてくれたのを思い出してな」
    「ガキじゃないんだが……」
    「たまには子供に戻ってもいいだろう。お前はいつも頑張っているからな」

     口ではそう強がっても、背中に感じる暖かく大きい手のひらになぜだか泣きそうになる。

     もっと、近くに彼を感じたい。
     
     いつも起こさないように僅かに触れるだけに留めていた温もりがすぐ傍にあることで、もっと触れたくなってしまう。くっついても変に思われないだろうか、いや一緒のベッドに入ってるだけで今更な感じもするが。

     もぞもぞと体を寄せて逞しい胸元に頭を押し付ける。手触りのいい寝巻き越しに力強く脈打つ鼓動が聞こえ、それが愛おしくてぐりぐりと額を擦り付ける。頭上からくつくつと静かな笑い声が聞こえ、じとりと睨みつける。

    「……なんだよ」
    「いや、まるで猫だなと」
    「……温かい、から。あんたがちゃんと生きてるんだなって」

    背中を叩いていた手が動き、髪を梳くようにして頭を撫でる。無骨な手に相反した繊細な手つきが心地よく、撫でる手に従って耳がぺたりと倒れる。

    「あぁ、生きているとも。生きて、こうしてお前の隣にいる。だからもうお前が恐れることなど何も無いのだ」
    「……っ、なら」

    安心させるように言い聞かされ、目の奥が熱くなる。

    「もうあんなのは勘弁してくれ……!あんたを犠牲にして生き延びるなんて絶対にごめんだ!命捨てて守られる奴の気持ちも考えろよ!守るのが騎士の誉だっていうなら、ちゃんと生きて守ってくれ……」

     情けない顔を見られたくなくて、胸板に額を押し付けたまま震える声で激情を吐き出した。
     
     腕の中で温もりが失われていく絶望も、信じたくなくて頭が真っ白になる感覚も、自分がもっと注意深ければ、もっと速く動ければ、なんて後悔も記憶に焼き付いている。それこそ、忘れるなと何度も思い起こさせるように。

    「そうだな、守る者の心まで守れてこそイイ騎士というものだ。だが、何せ我が友の危機とあらば考えるより先に体が動いてしまうのでな。善処はするからどうにか許してくれぬか?」

     伏せた頭の上に落ちるすまなそうな声色に、嫌だと言えるはずも無い。
     
     ふんと不満げに鼻を鳴らして返事の代わりにすると、宥めるるように耳の付け根を掻かれぴるぴると耳が踊る。やめろ、猫じゃないんだからそんなところを掻いて機嫌を取れると思うな。
     
     しかしそんな心の内とは裏腹に、心地良さに瞼が落ちていく。

    「眠れそうか?」
    「ん……」

     眠れるわけないと思っていたのに、体は正直なのか閉じかけた瞼は重く、包み込むような温かさに意識が溶けていく。こんな風に安らかに眠るのは何日ぶりだろう。

    「――おやすみ。愛しき友よ」

     眠りに落ちる寸前、そんな言葉を聞いた気がした。愛しき、だなんて。それが自分の抱える思いと同じならいいのに。

     そんなことを感じながら意識は闇の底に溶けていった。


    ――――――――――


     どのくらい眠ったのだろう。ぼんやりした意識の中、重い瞼を開けるとすぐ目の前に彫刻のように整った寝顔があった。ここで叫ばなかった自分を褒めてやりたい。

     徐々に意識が覚醒してきてどうして自分がここで寝ているのかを思い出すと、恥ずかしさに頭を抱えたくなる。寝不足で弱っていたのもあるが、こうも簡単に他人の布団で寝こけるってどうなんだ。
     おまけにここ最近なかったほどの熟睡ぶりで頭がスッキリしているのが尚のこと腹立たしい。

     というかまず、オルシュファンの顔が近すぎて落ち着かない。惚れた人間の顔面が至近距離にあって平然としていられるものか。冒険者として多くの修羅場をくぐり抜け多少のことでは動じない自信があるが、それとこれとは話が別だ。

     少しでも間合いを取りたくて相手を起こさないよう、じりじりと横たわったまま後ずさるが、ベッドの端まできたところでやたらと肌触りの良いシーツのお陰で滑り落ちてしまった。

    「――ッ!?ぉうわっ!!」
    ドスンッ!!

    「んん……どうした友よ……」
    「いや、なんでもない……自分の部屋に戻るよ。邪魔したな」

     派手な落下音と間抜けな声を上げたせいで、オルシュファンを起こしてしまったようだ。普段の溌剌とした声とかけ離れたぼんやりとした寝起きの声に、珍しいものを聞いたなどと場違いな感想を抱いた。
     
     衝撃の目覚めに眠気はとうに失せてしまっていた。そうでなくともオルシュファンと同じベッドなどもう恥ずかしくて入れる気がしない。

    「まだ暗いではないか……もう少し寝ていればいい」
    「使用人達にあんたの部屋から朝帰りするのを見られたら気まずいだろ。それに……多分、もう大丈夫だから」

     ベッドに引きずり込まれたとき乱雑に脱ぎ捨てたガウンを羽織りそう言うと、安心したように微笑みを返される。

    「そうか……夜明け前が一番冷え込む。部屋に戻ったら暖かくして寝るのだぞ」
    「ああ。アンタも起きるには早いだろ?まだ寝てなよ」

     そう言ってオルシュファンの部屋を出る。夜明け前のキンと冷えきった空気に身震いして、足早に自分に貸し与えられた部屋へと戻った。
     寝る前に暖炉の火は落としたが、燃えさしが燻っているお陰で廊下よりは暖かい。ベッドまで歩いていくと、ボスンと音を立てて倒れ込んだ。

    「はああぁぁぁ……」

     肺のそこから空気を全て絞り出したようなため息が出た。久々に熟睡したお陰で体はスッキリしたが、いろんな事が起こりすぎたせいで頭の中はぐちゃぐちゃだ。
     なんせ恋焦がれてきた人間と同じベッドに入り、抱きしめられ、頭を撫でられ、極めつけに――。
     
    『おやすみ、愛しき友よ』

     眠りに落ちる間際に甘く愛おしげに囁かれた声が耳の奥で蘇り、きゅうっと胸が苦しくなり枕を抱き込んで顔を埋める。

    (愛しき、なんてどういうつもりなんだ)

     信頼と、尊敬と、初めて抱いた友情と、隣にいることの安堵感。それらがない混ぜになって友情というには少し行き過ぎたものだったかもしれないが、別にそれだけたった。
     
     しかし、彼を失いかけて自分の本当の気持ちに気づいたのか、はたまた失いかけたことへの反動で精神的に不安定になっているからか、自分が抱いていた感情は恋というものに変わってしまったらしい。
     その上であんな風に触れられたら、淡い期待の1つも抱いてしまう。

    (これからどういう顔をして会えばいいんだ)

     幼いころからの癖で頑なになってしまった表情筋に、頑張ってくれとこの時ばかりは願ってしまった。

     自分の体温で暖まった布団が中途半端だった眠気を誘ってくると、あれこれ考えていたことはふわふわとしたモヤに包まれてしまった。まぁいいか、とりあえず寝よう。
     
     面倒なことは起きてから考えることにして、思考を諦めるとするすると意識が解けていく。
     また夢を見るかもしれないとふと考えたが、ついさっきまで自分を包んでいた温もりや、穏やかな鼓動、耳を擽る吐息を思い出し、胸の奥が暖かくなり、くふ、と顔が綻んだ。

     薄青い空が分厚いカーテンの隙間から覗く中、穏やかな闇に包まれ睡魔に身を委ねる。きっと、悪夢はもう見ないはずだ。


    ーーEndーー

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works