サニーの隣を歩く時、ちょっとしたことで「ああ、好きだな」と感じることがある。
ひとつは、だらりと下されたままの長い腕に俺の指先が触れると、腕と身体の間に俺の手が通るだけの隙間を作って腕を組みやすいようにしてくれること。服にほんの僅かに触れるだけで、何も言わず、視線すらこちらに寄越すこともなく当たり前に受け入れてくれるその仕草が好きで、嬉しさについ腕を組むに止まらずぎゅぅっと腕に抱きついてしまう。まあ、流石に歩く時は片手をサニーの腕に掛けるに留めるけど。べったりと引っ付いて歩いているカップルなんかもたまに見るけど、足が引っかからないように上体を傾けて無理やり身を寄せて歩いているのは正直格好が悪いと思ってしまうから、俺はしない。こんなにいい男の隣を歩くなら、俺自身も美しいと思われる姿でありたいと思うのは当然でしょ。
体温が高めのサニーはいつも俺より薄着なのに、服越しにしっかりと温かさが伝わってくる。その心地よい温かさと腕の筋肉の感触を堪能しつつ並べば嬉々とした心中がそのまま足取りに反映され、アスファルトを叩くヒールの音もいつもより軽やかに、そして楽しげに聞こえるし、思わず鼻歌だって零れる。
もうひとつは、信号待ちの時。澱みなく進む足を止めると、チャンスとばかりに一層サニーに近づき両腕でぎゅうぎゅうと抱きつきながら肩に頬を寄せる。そうするとほんの一瞬サニーからも頬を寄せてくれて、時にはこつん、と戯れるように頭を軽くぶつけられることもあり、そんな仕草が可愛くてきゅんとしてしまう。
この程度のことで浮かれ過ぎだという人もいるかもしれないけれど、そんなのは知ったことじゃない。俺が嬉しくて幸せなんだから、それが全て。
「サニー」
少し甘えた声で名前を呼べば、俺の大好きな瞳がこちらを向く。
「ねぇ、サニー」
もう一度名前を呼べば、怪訝そうな顔をして首を傾げる。
「…なんでもない。忘れちゃった」
どうかしたのかと問う視線に首を振って、へらりと笑ってみせる。無理やり飲み込んだ言葉に味なんてあるはずもないのに、舌の根から喉奥がひどく苦くて、横隔膜がひく、と震え、えずきそうになる。
こうして必死に彼の腕を捕らえた所で、一番欲しい彼の心はいつでも俺じゃない人に捕われている。そのことが悔しくて、悲しくて、辛くて堪らないのに、俺を選んでと喚く無様で醜い姿なんて見せられないから、溢れそうになる想いを全部無理やり飲み込んで、いつものように美しく口角をあげ笑って見せた。