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    はもん

    @hamon_samon

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    はもん

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    ・恋を自覚できないアラスターの話
    ・アラスターの影に勝手に設定付けてます
    ・今回ルシファーの出番はほぼありません

    #ルシアラ

    アラスター視点 3 ルシファーの“友人になろう”宣言から約数週間。彼の思惑通りアラスターとの距離が縮まったかというと、全くそんなことはなかった。
     なにせアラスターは忙しい。ホテルの業務以外にも、上級悪魔の会議やラジオ放送など、やることが山ほどある。ルシファーに構っている暇など全くなかった。(趣味の時間や友人との時間はちゃんと確保していたが)
     しかもここ数週間は不埒な来客・・・・・が後を絶たず、アラスター以外のメンバーもその対応に奔走する羽目になっていた。
     そんなスタッフの労いも兼ねて、アラスターは久しぶりに手製の鹿肉料理を皆に振る舞う予定を立てていた。以前のホテルで出した時は絶賛の嵐だったから、きっと今回も満足してもらえるだろう。
     アラスターは料理に使うワインを求めて、一人地下へと向かっていた。
     新しいハズビンホテルの地下にはワインセラーがある。建替え時に増設された設備の一つだ。
     ルシファーがどれだけの来客を予想していたのかは知らないが、やたらと広い。広すぎて室温管理が大変だとハスクが頭を抱えたくらいだ。
     そんなワインセラーには、ついさっきまで買い出しで一緒にいたハスクがいた。アルコール類の管理は彼に任せているので驚きはしないが、問題は赤子の如く大事そうに抱えている見慣れない酒瓶だ。ラベルを見てすぐ、ハスクには到底手が出せない代物だと見抜くアラスター。

    『立派な子を授かりましたね、ハスカー』
    「さっき王様が来てな」

     揶揄には応じず、ハスクは近くの棚を指さした。見覚えのないワインがいくつか増えているのを見付けて、アラスターは片眉を上げる。

    「会わなかったか?」
    『いいえ。入れ違いのようです。しかし、何故?』

     ハスクは明後日の方を向きながら答えた。

    「使ってねぇ棚が寂しかったんだろ」
    『ハスカ〜?』
    「分かった、悪かった。だからその猫なで声はヤメロッ」

     羽と尻尾を体に巻き付け、ハスクは震え上がった。甘やかな声音はアラスターに惚れた者なら垂涎ものだろうが、ハスクにとっては鳥肌ものだ。ハスクは指先を擦り合わせる。

    「賄賂だよ。あの王様、とうとう痺れを切らしておまえのことホテルのヤツらに聞いて回ってるみたいだぞ」
    『それはそれは』

     アラスターは複雑そうな顔をする。

    『ご苦労なことです』

     ルシファーへの対応を決めあぐねている状況は、今もなお続いていた。忙しさを理由に距離を取っていれば彼の気持ちが薄れていくかと期待していたのだが、チャーリーに似て諦めが悪いらしい。未だに熱い視線を向けてくる。
     それなのに無自覚なままときた。鈍感なのか、のんびり屋なのか。アラスターには分からない。
     何度も懲りずに誘ってきては断られているルシファーだが、毎度不満そうにしながらも無理を通そうとはしなかった。好感が持てる対応だ。しかしアラスターは不満だった。

    (もっと強引になってもいいのでは?)

     そんな考えが浮かぶのが嫌だ。実際無理に時間を作らされたら怒りを抱くのは分かりきっているのに。どうしてこんな矛盾した思考になるのか。
     アラスターは頭を振って切り替えた。

    『それにしても……暇なんですかね、あの人?』

     ルシファーは最近、新しく事業を始めた。アラスターに言われたからなのかチャーリーに賛同されたからなのかは知らないが、ペンタグラムシティに娯楽施設をいくつか作るつもりらしい。
     何世紀も罪人の街に関わってこなかった王直々の事業に、ペンタグラムシティはかつてないほど湧き上がった。ちょうどルシファー人気が罪人の間で高まっていることも相俟って、発表当時の熱狂ぶりといったら凄まじかった。ルシファーが引く程度には凄かった。
     お陰で資金がすぐに集まったらしい。貴族や他の階層の悪魔も注目していると、チャーリーが大興奮で話していた。
     ただ、その割にルシファーはずっとホテルに入り浸っている。本人曰く部下に任せているらしいのだが、それにしたって彼にしかできない仕事があるだろうに、毎日アラスターをお茶に誘うくらいには時間があるようだ。

    (もしや仕事をしていない?)

     そんな可能性が脳裏に過ぎる。揶揄うネタができるのはいいが、せめて今の事業はきちんとしてほしい。劇場や映画館も作る予定と聞いて、アラスターも楽しみにしているのだ。

    「気を付けろよ。あの王様、思ったより手強いぞ」
    『ふぅん?』
    「カマかけられた。おまえと生前からの付き合いだって知られた」
    『おやまぁ。引っかかったんですか、ハスカー』

     無言で中指を立てるハスク。アラスターはそれを無視しながら、増えたワインのラベルを確認していく。
     なかなかお目にかかれない品々にアラスターの鹿耳がピルピルと揺れた。予定では今朝買ってきたワインを使うつもりだったが、もしメニューに合う物があるならここから選ぼうか。

    『特に隠している訳でもありませんから、話して構いませんよ。前にも言ったでしょう。聞かれたら答えていい、と』
    「ああ。おまえが生前やらかした殺人鬼だったことも言っておいたぞ」
    『そうですか』

     棚からワインを二本拝借し、アラスターは踵を返した。ハスクの視線を背中に感じる。

    「……時間の問題だぞ、アル」

     何が、とは聞かない。
     アラスターは無言のまま階段を上って行った。



     ハスクの忠告からたった数時間後。とうとうルシファーが自分の恋心を自覚した。そう気付いたのは、ディナー後に誘われた酒の席でだ。
     今までルシファーからの誘いは全て断ってきたアラスターだが、その日の誘いは断らなかった。丁度業務が落ち着いたのも理由の一つだが、彼の探偵ごっこがホテル内で済んでる内に、外の友人には迷惑をかけないよう釘を刺すつもりだった。
     そうしてつまみを作って部屋を訪ねてみたら、何故か顔を真っ赤にしたルシファーに迎えられた。
     自分を見上げる目を見て、彼が自覚したんだとすぐに分かった。アラスターを見る目付きが明らかに変わったからだ。
     ぼうっと見つめてくるルシファーの眼差しは熱い。うっとりと、酒も入ってない内から酔っ払っているのかと言いたくなるような目を向けてくるものだから、アラスターはたまったものではなかった。
     お願いだから見ないで欲しい。そう思いながらも、いざ彼が自分から目を離すと怒りに似た寂しさを感じる。アラスターはそんな自分の情緒に困惑した。
     アラスターは動揺を隠すように口を動かし続ける。正直、提供された酒の味は分からなかった。それを悟られないように必死でいつもの態度を演じる・・・

    「デートしよう」

     会話の流れでそう切り出されて、アラスターの思考が止まる。
     デート。そういえば、したことがない。恋人がいた経験がないので当然ではあるが。友人と遊びに出かけるのをふざけて“デート”と称することはあったが、恋愛的な意味合いのものは全て避けてきた為、一度もなかった。
     受けるべきか、断るべきか。適当にはぐらかし、答えを先延ばしにしながら思案する。
     最終的には断ろうと思ったのだが、どうにかしてアラスターとデートをしたがるルシファーの姿があんまりにも愉快で滑稽だったものだから、つい受けてしまった。
     部屋に戻ったアラスターは早速後悔した。

    『……服、どうしよう……』

     ティーンのような悩みを前に、アラスターの鹿耳がしんなりと垂れ下がった。



     デートは順調だった。ルシファーの信者ファンが突撃してきたりヴォックスが乱入してきたりしたが、アラスターにとっては大した問題ではない。
     恙無く終了した初デート。仕事があるからと、ご機嫌で城に戻ったルシファーを見送ったアラスターは、一人シャワーを浴びながら考え込んでいた。

     ──なら、その蛇はいいって言うのか

     ヴォックスに言われて初めて気付いた。
     ──自分はいつからルシファーに接触を許していた?
     アラスターは他者との接触が嫌いだ。自分から触る分には構わない。だが勝手に触られると、その箇所から汚れが広がるような不快感が湧き上がってくるのだ。
     接触を許したのは、母を除けば数名の友人だけ。この地獄では生前からの付き合いであるハスクとニフティ、それとミムジー。後はロージーとチャーリーと、そう多くない。
     なのに何故──いつから?
     必死で記憶を掘り起こす。だが思い出せない。あまりにも自然に、ルシファーから触れられるのを許容していた。

    (どうして……)

     分からない。分からない。自分のことなのに、ルシファーのことになると何も分からなくなる。何故。どうして。
     考え込みながら、排水口に流れていく湯をぼうっと眺める。
     どれほどそうしていたのか。アラスターの足元から影が伸び、真っ黒な友人が姿を現した。
     切り裂いたような目と口で笑う、自分そっくりな友人。いつもの笑い声はシャワーの音に掻き消されて聞こえない。
     友人がハンドルを捻ってシャワーを止める。誘導するように出口に向かう姿に、ようやく自分が長い時間湯に打たれていたことに気付いた。
     頭がぼうっとする。もう今日は考えるのをやめよう。
     友人は脱衣室でバスローブを広げて待っていた。苦笑しながらそれに腕を通す。
     鏡に映るアラスターの顔は赤らんでいた。すっかり逆上せてしまったようだ。友人に手伝ってもらいながら、全身を乾かしていく。
     地獄に落ちてから、アラスターは鹿の悪魔として獣の特徴を体に宿していた。耳以外にも尻尾や蹄もあり、胸元はふわふわの毛で覆われている。お陰で入浴後の乾燥がいつも大変だった。
     ある程度水分が抜けたところで友人へ振り返る。

    『いつも助かりま……』

     アラスターは息を飲んだ。真っ黒な友人の輪郭が、不自然に蠢いている。
     粘土細工を捏ねくり回しているように、何か、他の形に変わろうとしているような──アラスターは咄嗟に魔力を巡らせて友人を影に戻した。静かな脱衣室に、アラスターの乱れた呼吸音が響く。

    『ハアッ……ハアッ……!』

     アラスターは震える手で首に触れる。そこには何もない・・・・。自分の肌の感触だけが指先から伝わってくる。

    『……ッ』

     アラスターは震える体を叱咤して指を鳴らす。バスローブが一瞬でいつもの赤い服に変わった。

    (しっかりしろ。乱れるな。己を保て)

     何度も深呼吸を繰り返す。鏡には、先とは違い青ざめた自分の顔が映っていた。
     アラスターは震える指で口端を持ち上げる。引き攣っているが、笑顔の自分を見て徐々に心臓が落ち着いていく。
     ようやく平静を取り戻した時には、重労働をした後のように体が重かった。

    (……何か飲もう)

     夕飯はまだだが、食欲はなかった。とにかくアルコールを摂取したくてたまらない。
     アラスターはいつものように姿勢を正しく背筋を伸ばしながら、一階へ下りていった。



     ラウンジでは、ホテルメンバー勢揃いでテレビに齧り付いていた。チャーリーが一人、右往左往してはヴァギーに縋ったり頭を抱えたりと忙しくしている。
     また何かトラブルだろうか。気晴らしになるような面白い話だといいのだが。
     数分前の出来事を笑顔に隠して、アラスターはマイクステッキを突き立てながら声をかけた。

    『みんなしてそんな箱に夢中とは気に入りませんねぇ。私のラジオより面白いことでも?』
    「ア、アラスター!」

     チャーリーは素早い動きでテレビを背に隠した。その顔色は悪い。冷や汗も凄いし、目があちこちを彷徨っている。
     テレビからはヴォックスの下品な声が聞こえてきた。映像は隠せても、テレビはつけっぱなしなのだから音は消せない。昼間の報復だろうか。
     そうして耳に入ってきた言葉の羅列に、アラスターは数十秒、意味が理解できずに固まった。
     ──蛇? 鹿? 交尾? 何?
     時間が止まったかのように動かないアラスター。
     ハスクは目を輝かせるニフティを無理矢理回収し、静かにその場を離れた。エンジェルも後を追う。ヴァギーがテレビに張り付くパートナーを回収すれば、もう障害物はなくなった。
     途端、アラスターの目に入り込んでくる、とんでもない映像の数々。明らかに合成だと分かるが、分かるからといって何の意味もなかった。
     アラスターの体中を不快感と嫌悪感が這い回る。そしてそれはすぐに怒りと混じり合い──黒い触手がテレビを貫通した。
     明日の朝刊の一面は、街中を暴れ回った触手についてで決まりだろう。
     バーカウンターにひっそりと身を潜めながら、ホテルメンバーは爆発する怒りの気配に身を縮こませた。
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