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    海外行った後に変なタイミングでうっかり告白しちゃったじゅんくん1
    書いといてなんだけどこのいばら解釈違いな気がするから供養 いったん収めた負の感情が再燃するか否か(審議)

    いち「茨、……あの、泊まっていきません?」
    「……。は?」
    ――付き合うって、恋人って何なんですかねぇ?? 用事を済ませてさっさと帰ろうとする茨に、結構勇気を出して聞いてみたけど、3オクターブは下がったんじゃないかって音程と眉間の皺に思わず口ごもった。
     オレはオレなりにいろんな覚悟を持って告白して……、茨は、……よく分かんねぇけど。でも「構いません」って言ったのは、普通に考えりゃ「恋人になります」ってことっすよねぇ? それともオレの解釈が間違ってた? 間違ってたのかもしれない。だって今までは全然普通だったのに、こうやってちょっとでも恋人っぽいことを言うと、急に機嫌が悪くなるから。
     茨はオレをじろりと睨んだ後、低音のまま「ホテルを取っていますので」って早口で答えてすぐに出ていこうとする。これってどういう、いや、もう全然分かんないんで、本人に聞くしかねえでしょ!
    「茨、待って!」
     勢いよく手を掴む。さらに迷惑そうに一瞥されて、けどまだ振り払われてはいない。
    「なんです?」
    「……送っていきます」
    「必要ありません」
     隙一つない冷たさで返される言葉。何でだろう。こういうことさえ言いださなければ、茨は結構優しい。まさに今もそうだけど、仕事とはいえわざわざオレの所まで来てくれたり、困ってたらアドバイスだってくれるし、へこんでたら分かりにくく応援してくれたりもする。
     茨が手助けしてくれてるなんて前は全然分からなかったけど、最近はおひいさんとナギ先輩がこっそり少しずつ教えてくれて。おひいさんは「さすがに不憫だからね!」とかなんか怒ってて……? あの人、オレがこっちに来てからいっつもぷりぷりしてる気がしますねぇ~。茨は「殿下ですか? 変わりありませんよ」って言ってましたけど……。ああ、そういえば、オレのために歌詞を書いてくれたことすら、ナギ先輩が教えてくれなきゃ知らないままだった。
     まあとにかく、茨はオレに結構優しい、はずなのだ。なのになんでこんな急に不機嫌になるんですかねぇ? オレは茨の手を握った右手に少し力を込めた。
    「もう少し、一緒に」
     言いながら、腹の下辺りがむずりと揺らぐのを感じ取る。涙が出る前、みたいな。唇を噛んで腹筋に力を入れると治まった。
    「……どうしたらいてくれますか」
     恋人って何なんだ、マジで。オレのほうも喧嘩腰みたいになってしまう。本当は、どうでもいい話して笑ったりとかしたい。前はもっと、友達みたいに笑ってくれてたはずなのに。
     茨はオレのセリフにちょっとだけ驚いたみたいだった。大きな目がまるくなって、あ、かわいい、と思う。握られた手を視線が撫でて、また真っ直ぐにオレを見つめ返す。
    「いつまでですか?」
    「え?」
    「いつまでいれば?」
    「えっ、と、そりゃできるだけいてほしいですけど……」
     透き通るみたいな青が、ゆらゆら波立っていた。
    「ジュンが、自分にくれた分だけ、返します」
    「……はい?」
    「それ以上はお断りします」
     青はフイっと逸らされる。難しい。何を言われているのか分からなくて首を傾げると、茨は強めに掴んでたはずのオレの手を、あまりにも軽く外してしまった。
    「ジュンは帰ってきたときに自分のそばにいてくれたことはないので」
    「……あ」
     いや、でもそれは、そんな時間の隙間、1分だってないスケジュールにしてるのは茨のほうなのに。言い訳が頭に浮かぶけど、茨の言うとおり、日本に帰ったときは仕事だけで手いっぱいで恋人らしいことなんて何もできていないのは本当だ。
    「あなたが言う『好き』に、自分は返事をしました」
    「本当は好きじゃなかった?」
    「好きじゃなければそう言いますよ。けれど」
     けれど? 続く言葉を待つ。茨は僅かに口を開いて、結局閉じて。
    「……とにかく、きょうは帰ります」
    「茨!」
     だったらもう一回。やっぱり帰ろうとする茨の、今度は全身を包み込む。
    「じゃあ、抱きしめるから、抱きしめ返して」
     茨は数秒じっとしてたけど、オレの腕の中で器用にくるりと振り向いて、オレの背に両腕を回した。軽く抱き合っているだけなのに、あったかくてまた腹の下辺りがぐずりとする。
    「捨てるものなら欲しがらないでくださいね」
    「……え?」
     囁かれた声は掠れてほとんど空気だったのに、妙に耳に残った。
    「俺はもう、搾取されたくはないので」
     サクシュ。さくしゅ。……搾取? オレが呆気に取られているうちに、茨は今度こそするりと身を翻してドアを開く。
    「ではまた! 引き続き頑張ってください!」
     きれいな敬礼ポーズ。作り上げた笑顔。振り返ってもくれず、ドアは無情な音を立てて再び閉じた。

     
     恋人って何なんだろう。
    『構いませんよ。自分もジュンのことは好きです』
     あの大きな青がまあるく見開かれて、それから優しく細まった、あれはきっと嘘じゃない。でも茨は。
    「信じてない……?」
     じゃあなんで断らなかったんだろう。オレのメンタルに影響すると思った? 形だけでも受け入れればオレが満足すると思った? 違う。茨もオレのことが好きだって言った。そんなことで嘘をつくやつじゃないはずだ。
     捨てるつもりなんてない。捨てる、なんてのも変な言葉だけど、オレはたくさん考えたはずだったし、茨にもっと笑ってほしかったのに。搾取。搾取って、茨はオレが、茨のことを使うだけ使ったら捨てるって思ってる? そんなわけないのに。でも、信じてもらえてないってことだ。

     だから言ったでしょう、とおひいさんの呆れ声がやかましく頭に響く。
     なんでか急に、さっきまで普通に会っていたはずの茨の全身が、傷だらけで血まみれだった気がした。
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