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    shidu_k13

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    #赤黒
    redAndBlack

    自分からプロポーズしたい赤黒「黒子が好きだ。オレと、恋人になってほしい」

     そう言われた某月某日。数時間後には赤司の乗る予定の新幹線の時間が迫っている。東京駅近くのカフェでお茶をして、駅に向かう道中だった。
     ひたり、と、冷たい風が頬を撫でる。日差しは暖かくても、連日の最低気温は徐々に低くなっていた。ぴゅうぴゅうと吹くビル風に、歩幅の速い都会の人は皆寒そうに肩をすくめて歩いている。二人も、つい先ほどまではそうだった。
     まっすぐに黒子を見つめる赤司の耳が、僅かに赤いことに気付く。駅前の喧騒の中で、黒子は、今しがた言われたことを反芻した。

     黒子が好きだ。オレと、恋人になってほしい。

     普段無表情を貫く黒子の頬がみるみるうちに赤くなる。何て言っていいのかわからず、何度も口をぱくぱくさせた。頭の中で、ぐるぐると言葉が彷徨っている。
    「…ひどいです!」
    「え…?」
     黒子にしては大きく張り上げた声が、ちょうど通った車の音にも掻き消されずに赤司の耳に届いた。道端ですったもんだしている二人を、行き交う人はさして気にも留めないようにすたすたと抜かして歩いてゆく。
    「ひどいです、赤司くん…!」
    「そんなに嫌だったか…?」
    「はい…」
     ガーン!と赤司の頭の上に、東京駅の駅舎から剥がれ落ちた煉瓦が落っこちたような衝撃があったが、黒子には知ったこっちゃない。厚着をしてきたせいで背中には汗が滲んで、冷たい風は火照った頬を冷ましてはくれなかった。
    「そ、そうか…。悪かった、今言ったことは忘れて…」
    「だって、ボクから言いたかった!」
    「……え?」
     本当は、ずっと言いたかった。久しぶりに赤司に会えて嬉しかった。今日が終われば、次に会えるのは何ヶ月も先だ。高校生の二人にとっては、東京と京都の距離は遠すぎる。電話もメールも出来ないことはないけれど、友達としてではなくて、特別な相手として、用がなくてもいつでも連絡したかった。さっきすれ違ったカップルみたいに、手を繋いで歩くことは少し恥ずかしいかもしれないけれど、でもきっと嫌じゃない。
     たまに見せる無邪気な笑顔を、一番近くで見たいと思うし、疲れた顔も見せてほしい。彼の力にはなれないかもしれない。でも、少しでも寄りかかれる存在ではいたい。そう思ったら、好きだと思う気持ちが溢れてくる。
    「今言われたことは…忘れないですけど」
    「…うん」
    「ボクからも言わせてください」
     好きです。赤司くん。ボクの恋人になってください。
     そう言えば、彼はとろけるような笑顔で笑った。さっきカフェで食べたいちごのタルトのような甘さだ。触れた手はほんのり汗ばんでいて、そのせいで汗が冷えていて少し冷たい。ぎゅ、と軽く手を握られる。赤司の手は骨張っていて、マメの残る、大きな手だった。

     そんな感じで始まった二人は、たまに小さな喧嘩をしながらも概ねなかよしで、楽しく幸せに過ごしている。ただ、黒子には一つだけ不満があった。
     二人は今、一緒に暮らしている。大学を卒業したら一緒に住まないかと赤司から持ちかけられたものの、黒子は悔しかった。
     どうしてかって、だって、黒子から言いたかったのだ。赤司と一緒に住みたいと、黒子から伝えたかった。悔しさゆえに不満げになってしまった表情で頷けば、赤司は苦笑気味に黒子の手を取る。あの時と同じで、赤司の手は大きく、いつも少し冷たい。
     告白も、同棲の話も赤司からだった。不思議と、黒子も言いたいと思ったタイミングで赤司が言うものだから悔しい。でもそれ以上に嬉しい。すごく嬉しいからこそ、赤司にも同じ気持ちになってもらいたかった。黒子だって、赤司に喜んでもらいたかった。
     だから絶対、決めていた。次こそは絶対に、自分から伝えるって。

    .

    「黒子」
     日曜日の夕方過ぎの時間は、休日の終わりを感じてなんとなく気持ちが落ち着かない。ソファで文庫本を読み進めながらも、そろそろ晩御飯の支度に取り掛かろうかと思っていた頃だった。
     二つ持ったマグカップのうちの一つを黒子に渡して、赤司はソファの空いたスペースに座り込んだ。受け取ったマグカップはほわりと温かくて湯気が立っている。優しい甘さのミルクティー。黒子の好きな味だった。
     隣の赤司をちらりと盗み見る。リビングのソファでコーヒーを飲んでいるだけなのに、やけにさまになるその姿は、ついいつまでも眺めたくなるような所作だった。
     そんな赤司くんがかっこよくて、でも本当はコーヒーを少し冷めた状態で飲んでると知っているのはボクだけだと思うと、なんだかくすぐったい気持ちになって。きっかけなんて、そんなものだと思う。だけど、急にふと思ったのだ。この人と、一生、一緒にいたいと。
    「赤司くん」
    「ん?」
    「あの、赤司くん!ボクと、けっこ…むぐっ!」
     思った言葉は声に出せずに、赤司に遮られてしまったけれど。
    「んぐ!んー!?」
    「ダメ。それ、オレから言いたい」
    「ん"ー!」
     急に思いきり口元を覆われて(というより掴まれて?)黒子の言葉は赤司の手のひらの中に吸い込まれた。ぱたぱたと足を動かせば、危ないから、と黒子が手に持っていたマグカップをそっと取ってテーブルの上に置かれる。
     どうしてだ。黒子だって言いたいのに。理不尽にも程がある。
    「オレとしては、シチュエーションは色々考えていたんだけどな」
    「むぐっ…」
    「でも先回りされてしまったから、もう今言ってしまうけど…。黒子、オレと、けっ…」
    「んん"ー!」
     口を塞がれたまま言われそうになったので、黒子は慌てて両手で自分の耳を塞いでしまった。さすがに耳を塞がれるとは思っていなかったのか、赤司がぽかんと中途半端に口を開いている。口元の手が緩んだ隙に、黒子は赤司の手を掴んで退けた。
    「イヤです!ボクから言いたい!」
    「ダメだ。オレに言わせてほしい」
    「告白も、同棲の話もキミからでしたよね?これくらいボクから言わせてください」
    「その流れなら今だってオレから言うのが自然じゃないか」
    「そんなこと誰が決めました?ボクだって男です、言わせてください」
    「オレが言った後にならいいよ」
    「それじゃあ意味ないです、先に言わせてください」
     オレが、いやボクから、どうして、なんで、とわけのわからない攻防を繰り返して、最終的にじゃんけん…。は赤司に勝てるわけがないので、もう、せーの、で同時に言おうと決めた。
    「じゃあ、いくよ」
    「はい」
    「せーのっ」
     ーー結婚してくださいっ!
     綺麗にハモった言葉に、数秒の間の後、二人でけらけらと笑った。ボクたち、何をやってるんでしょう。本当だね。黒子は本当に予想出来ないことをしでかして楽しいね。なんて、褒められてるんだかなんだかよくわからないことを言いながら、赤司は声を上げて笑っていた。
     この人の、こういう顔を見られるなら、この先どんなことがあっても乗り越えられる。根拠はないけど、そう思った。

    .

    「ねえねえ、テツくんたちって、どっちからプロポーズしたの?」
     居酒屋の個室はもはや出来上がった人たちでどんちゃん騒ぎだった。青峰と黄瀬、それから火神は三人で延々と飲み比べをしているし、紫原は我関せず黙々と何人前もの料理を一人で食べている。赤司と緑間が奥の方で何かを話していた。やっとテツくんと話せる、と上機嫌な桃井の片手には、美しい見目とは裏腹に度の強いワインのグラスがある。
    「ボクからですよ」
    「そうなんだ!ちょっと意外」
    「ふふ。告白は彼からだったので、ボクからプロポーズするって決めてたんです」
    「わあ、素敵!テツくん男前!」
     ゆったりと喋りながら、黒子は日本酒をぐいっと煽る。喉の奥がちりちりと熱い。もう一杯、とグラスに注いだところで、それを赤司にひょいっと奪われた。
    「あ」
    「そろそろ飲み過ぎだ」
    「赤司くん。戻ってくるの早いよ」
    「緑間が連れて行かれてしまったからね。二人で何の話をしていたんだ?」
    「テツくんと赤司くん、どっちからプロポーズしたのかなって聞いてたの」
     黒子の日本酒を勝手に取った赤司が、そのグラスを傾けてこくりと飲み干す。いつの間にか緑間と紫原は青峰たちの騒ぎに巻き込まれていた。ふむ、と頷いた赤司の頬が僅かに赤い。彼も少しは酔っているのだろうか。
    「テツくんからだったんだね。赤司くんも嬉しかったでしょ」
    「嬉しかったのはそうだけれど、でもプロポーズしたのはオレからだよ」
    「またキミはそうやって見栄を張る!」
    「本当だ。オレのほうが0.2秒早かった」
    「はぁ〜?それを言うならそもそも言い出したのボクですからね、ボクからプロポーズしたも同然です」
    「でも最後までは言ってなかっただろう。オレのほうが言い切るのは早かったよ」
    「それ、ただの屁理屈です」
    「何言ってるのかよくわかんないけど、二人ともここで痴話喧嘩しないでよ〜」
     と言いつつ、桃井は楽しそうだ。ふわふわとアルコールの回った頭で、あの日のことを思い出す。果たして本当に0.2秒早かったのか。赤司が言うなら本当かもしれないけど、早いとか遅いとか、まあ別にどっちでもいい。
     居酒屋の薄暗い照明に、二人お揃いの指輪がつるりと光っている。すっかり気の抜けた表情で、赤司はへたりと笑った。彼からグラスを奪い返して、もう一度酒を注ぐ。
     飲み過ぎたって、帰る場所は同じなのだから良いだろう。家に着いたらわざと足元をふらつかせて、あのソファに寝転がって赤司を困らせてみようか。小難しい屁理屈ばかり言う仕返しだ。そういうのも、きっと悪くない。
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