猫/百々秀「にゃ~ん」
甘えるような鳴き声で、少し小柄な猫が足元に擦り寄ってくる。
この猫は事務所の近くに住むおばあさんに飼われている猫らしいが、日中は自由に外を出歩き、こうやって近所の人たちに甘える。夕方のご飯の時間になると帰宅して、ご主人であるおばあさんに甘やかしてもらう。
美しく青みを帯びたグレーの毛並みに、少し深みのある透き通った海のような青い瞳。僕はこの猫を『しゅーくん』と呼んでいた。
もちろん、飼い主であるおばあさんが名付けた本当の名前があるけど、そのおばあさんとは面識がないし、この子の名前は分からない。
だから、その青く大きな瞳と、小さくて愛らしいところが、なんとなく僕と同じユニットに所属する彼に似ている気がして、そう呼んでいる。
それに、
「こんにちは、しゅーくん」
僕の足にしっぽを絡めてくる『しゅーくん』に挨拶をすると、「にゃん」と短く返事を返してくれる。
人懐っこいから、僕の挨拶に返事をしてくれただけなんだろうけど。この子の名前ってもしかして、本当に『しゅーくん』なのかなと少しだけ考えてしまう。
足元に転がり、撫でて欲しいと言わんばかりに『しゅーくん』はお腹を見せる。
ふわふわの毛並みに手を添えて、優しく撫でてやると、嬉しそうな声が漏れる。お腹、気持ちいいのかな?
僕もキミみたいに素直になれればいいのにな。
「大好きだよ、しゅーくん」
「えっ、先輩?」
「あっ」