僕の色/百々秀事務所に行く前、僕は絵を描くための画材を買いに1人で店に立ち寄った。そこにちょうどアマミネくんが通りがかって僕に気づいて声を掛けてきた。
アマミネくんは12色の絵の具セットを手に取とって、懐かしいなぁ、と眺める。
「これ、中学の時にも使いましたよね」
そういえば、彼はつい昨年までは義務教育を受けていたんだ。ほん少し前の出来事なのにあまりにも昔のことのように懐かしむんだから、ちょっと可笑しいな。僕が小さく吹き出すように笑うと、彼は「俺、変なこと言いました?」と焦って顔を少し赤くした。こういうところは年相応で可愛らしい。
「そういえば、先輩はどの色が一番好きなんですか?」
絵の具セットを手に取りながら、アマミネくんは僕に質問をする。
「好きな色・・・、一番使うのはやっぱり白かな?」
「白か、白って他の色と混ぜたり、何にでも使えますからね」
百々人先輩みたいでいい色ですね、とアマミネくんは笑顔を見せる。彼の性格だから、純粋に褒めてくれてるのだろう。
「白なんて、それだけじゃ何も描けないよ」
そう答えた僕の顔を見ながら、アマミネくんは少し考え込むような表情を見せる。
「もしかして、俺、先輩に嫌なこと言いました?」
「ううん、大丈夫だよ」
僕が少し落ち込んだ顔をしたから、キミに気を遣わせてしまった。
僕の返事を聞いたアマミネくんは、今度は歯を見せて笑う。
「じゃあ、先輩が持ってない色は俺のを使ってくださいよ」
それで先輩の好きなもの描いてください、だってさ。
やっぱり僕にはキミが眩しい。
僕のことを真っ白な絵の具だなんて。
真っ白な僕は、結局キミという色に塗りつぶされちゃうのに。