お誘い/百々秀 僕たち2人のオフが被る前の日に、しゅーくんは僕の家に泊まりに来る。
僕の家の洗面所には2人分のコップと歯ブラシが仲良く並ぶ。
元々3人分置いてあったそれは、お父さんとお母さんが家を出て行ったあの日から僕1人の分だけ取り残されていた。
その光景も当たり前になってきた頃、キミの分が追加された。
家族が戻ってきてくれたみたい、ううん、新しい家族が増えたみたいで、なんだか嬉しかった。
シャンプーも僕が使うのとは別のものを、しゅーくんが自分で用意して持ってきたんだよね。僕は、キミが同じものを使ってくれるのが、嬉しかったんだけど。
しゅーくん曰く、僕たちはアイドルだから、シャンプーの香りひとつでも気をつけた方がいいって言ってた。
今は、一緒に夜ご飯を食べて、しゅーくんは先にお風呂に入ってる。
楽しい時間ってあっという間に過ぎていっちゃうよね。
「あっ、おかえり」
お風呂から帰ってきたしゅーくんに声をかける。お先です、と言いながら、ソファでテレビを見ていた僕の隣にキミも腰を掛ける。
広々としたソファの上、僕の隣にくっ付くように座ったしゅーくんは、三角座りをして、首にかけたタオルで顔を半分隠す。
まだ濡れたままのキミの髪からは、僕と同じシャンプーの香りがした。
今日はダンスレッスンもあって、しゅーくんも疲れてるかなって思って僕からは何も言わなかったんだけど。
最近はアイドルのお仕事やレッスンがいつもより少し忙しくて、僕たちの関係はご無沙汰だった。
だから、今日のしゅーくんは少し長風呂だったから、もしかして、ってちょっと期待してた。下心満載の予感は、嬉しいことにアタリだったみたい。
いつもは僕と違うシャンプーを使ってるしゅーくんが、僕と同じ香りになる。
これは少し照れ屋さんなキミからのお誘いの合図。
「しゅーくん、今日、いいの?」
顔を隠すキミからは、小さく「はい」と返事が返ってくる。俯いたまま、顔は見せてくれない。
ソファから立ち上がり、しゅーくんの濡れたままの髪を優しく撫でる。子供扱いしないで下さい、と言いたげな上目遣いが僕を見つめ返す。
「僕も準備してくるから、ちょっとだけ、待っててね」
そう言うってキミのおでこにキスを落とす。キミは亀みたいに首をすくめて、また小さくなる。
かわいい。そう小さく呟くと、お風呂上がりで上気したキミ頬が、また赤くなった。