扇風機の風に揺れる、良守の黒髪に目を奪われた。今日は一段と蒸し暑い日だ。風にあたる良守は気持ちよさそうに目を細めている。熱を帯び上気した頬には汗が滴っており、襟足まで伸びた髪が首筋に張り付いてひどく扇情的だ。ごくり、生唾を飲み込んで釘付けになる。炎天下から帰宅した喉の渇きがよりいっそう増した気がした。
リリーン。良守と正守の間で風鈴が鳴る。
広い実家は酷く静かで、まるで二人きり大きな結界に包まれていると錯覚してしまう。
正守はそっと良守の側へ忍び寄り、フワフワ揺れる黒髪へ指を伸ばす。軽く掬って遊ぶと良守が正守を見上げた。そのまま隣に腰かけて頭を撫でると、ゆっくり肩に寄りかかってきて微笑を浮かべる。
「いつ帰ってきたんだよ…」
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