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    mame

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    DONE千ゲン(造船中:ゲと南しか出てこないけど千ゲ)ふと気付いた。気付いてしまった。

     まさか。偶然よね。でも、と南はすぐに今まで撮りためてきた分厚い鏡のフィルムに転写された愛しい日々の写真たちを見返す。
     こういう気付きというのはスピード勝負だと三七〇〇年前から相場が決まっている。記者という仕事に誇りを持っている南は、己の勘を信じている。怪しいと思った自身の勘で暴いた真実だってあった。でも勘なんて所詮勘だ。真剣に向き合ってきたからこそ地道に人脈を作り、仕事の成果に繋げてきた。裏取りもしっかりし、真実だけを報じてきた。だから今回も、ちゃんとやってきたはずだった。ただ、己の勘が叫んでいた。何枚も何枚も調べた。そして疑惑は確信に変わる。
    「ゲンがメインの写真、全然ない……」
     写真を保管するため作ってもらった簡易の作業小屋で南はひとり言葉を落とした。テーブルに広げた数々の写真を呆然と見つめる。
     カメラを手にしてから、本当にいっぱい、いっぱい、南は写真を撮ってきた。もちろん記録として残す意味合いもあったので、千空の周りにいる人物の写真が多くなるのは必然だったが、それでも意識して村人や旧帝国の人間も満遍なく撮ってきたつもりだったし、実際いま 3900

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    TRAINING千ゲン(携帯作成中:どっちも無自覚片想いな千ゲ)昇ったばかりの朝日に照らされ、川の表面がきらきらと光る。その光を掬うように両手で器を作り差し入れた。掬った水を顔にパシャとかける。冷たい。おかげでようやく目が覚めてきた。もう一度同じ動作を繰り返してから水面に映る自身の姿に気付き、ゲンはうーんと唸る。明らかに伸びている。何って、髪がだ。
     二ヶ月に一度くらいの頻度で美容室に通い髪型をキープしていたゲンとしては、襟足が肩につきそうな伸びっぷりは体感として数年ぶりだった。間に意識のない三七〇〇年が挟まるのだけれど。復活してから切っていないのでかれこれ三ヶ月以上切っていないことになるだろうか。そりゃ眉も前髪で隠れるわけだ。
     気になりだしたらいてもたってもいられなくて、ゲンは羽織りの内側にある仕込み用のポケットから小刀を取り出した。以前氷月を出し抜くためにスイカ便で千空から貰った小刀だ。一度は返却したものの、入り用で一度借り受け、そのまま拝借している次第だ。借りパクともいう。
     川の水面を鏡代わりにして、右手に小刀をもつ。ちょっとドキドキするな、と前髪の毛先をひっぱり真っ直ぐにし、刃をそっと当て──
    「お、ゲンじゃねーか。おはよ」
     突然背中 2191

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    MOURNING千ゲン(復興後if:様子がおかしい千と様子がおかしいゲが仲良く喧嘩する千ゲ)出会い頭に凄い勢いで視界を遮られた。何事かと思えばワークキャップを目深に被らされたらしい。
    「だぁからテメーは帽子かぶれ耳に横髪かけろ目を隠せマスクしろ!!」
     ゲンの視界を遮ってくれた犯人はそんなことを捲し立てる。イラッときてキャップの鍔を掴みガッと脱ぐと、犯人である千空が眉を跳ね上げながら「っ! てめっ!」と声を出す。キャップを脱いだことに不満があるらしい。視界が復活し分かったことだが、どうやらゲンがすでに脱ぎ、手に持つキャップは、千空が今し方まで被っていたものだったようだ。髪を後ろの低いところでひとつに結んだヘアスタイルは千空の整った顔立ちを引き立てる。燃えるような赤い瞳がゲンを真っ直ぐ射抜いてくる。ウッ、顔が良すぎる。好きすぎる。しかし。しかしだ。千空の主張通りのことをするとするならば。
    「かえってゴイスーに目立つでしょ、それはさあ!?」
     キャップにメガネにマスク。しかも十中八九、千空が言っているメガネは外からは目が見えないサングラスだ。この冬空の下で! サングラス! ゲンならこの世界でそんな人間とすれ違ったら二度見する。なにか事情があったとしても、初見は驚く。却下だ、却 3636

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    TRAINING本誌ネタ千ゲン(あったらいいな、な千ゲの幕間/付き合ってない)静かな気配が隣に訪れた気がした。
     ここは手負いの千空が落ち着いて寝られるように、臨時で作られた簡易ベッドしかない空間だ。夜半、誰がくるわけでもないはずだが、と重い目蓋を押し上げれば、電気を落としたはずの部屋に灯りがあり、寝床に転がる千空の横に腰を下ろす藤色を見つける。千空が目を開いたことに少し驚いた様子の相手──ゲンに、千空は深く考えず、緩慢な動作で落とされていた左手を握った。つるりとした、しかし、しっかり筋肉がついた手。マジシャンの手だった。薬剤で荒れた親指の腹でなぞるのが申し訳ないと思ってしまうほど、ゲンの手は指先まで意志が通っている。その手に優しい力で握り返されて、凪いだ自身の心に表に出さず千空は笑った。
    「寝てていいよ」
    「なんか用があって来たんじゃねえのか」
    「んーん、千空ちゃんの様子見にきただけ」
     落ち着いた喋り口調に音色。久しぶりに聞いたゲンのそれに、ゆるゆると眠気が再び訪れる。でももう少し、と目を閉じた状態で言葉を紡いだ。
    「メンタリスト様は今回も大活躍だったな」
    「千空ちゃんこそねえ。まだ緊迫した状況ではあるけど、とりあえずはお疲れ様」
    「テメーが船に乗んなきゃや 2205

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    TRAINING千ゲン(造船中:あと1日で付き合う千ゲ)「好きだ、付き合え」
    「えっ、趣味悪っ」
    「オブラート使用放棄してんじゃねえよ、クソメンタリスト」
     隣で盛大に歪められた顔に「しまった本音が出た」とゲンが呟けば「出過ぎだろ」と呆れられる。たったいま告白してきた人物とは思えない。誰が誰に告白したかって、千空が、ゲンに、だ。
     えー、ほんとに? なんて思いながら、ゲンは自らの頬を抓ってみた。痛い。夢ではないようである。
    「一応確認なんだけど」
    「ん」
    「千空ちゃんが好きでお付き合いしたいのって、交際の意味かつ相手は俺?」
    「……この状況で別の人間の話してたらコエーだろ」
     現在、天文台でドラゴをふたりで集計している最中である。とっぷり日は暮れて、良い子はすでに寝る時間だ。階下では良い子のクロムが高鼾をかいて眠っている。一方、千空とゲンの手には紙の束。本日の千空デパートでの売上金だった。今朝方、一気に寒くなったので羽織り物がどっと売れたのだ。ランプの小さな灯りの中、その集計作業をしていたわけである。
     基本的に千空とゲンのふたりの会話は話し合うことや報告すべきことが片付けば、ゲンがぺらぺらと話し続けている。その大体の内容は作業に没頭する千 2229

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    TRAINING千ゲン(造船中:無自覚両想い千ゲ)これ持っとけ。あ、これも。これもあった方が便利だな。おい、まだ持てるよな? 待て、これもだ。
     そう言って次々渡される鉱物や試験管に入った液体を受け取りながらゲンは頬をひくつかせる。鉱物はまだしも液体の方は容器が割れたら皮膚が溶けるとかそういうのはないだろうか。べらぼうにこわい。っていうか。
    「ねえ、千空ちゃん。俺のことなんだと思ってんの」


     造船中のペルセウス内のラボはカセキの力作だ。まだ作業は途中だが、外観はすでに完成している。カセキとわくわくした表情で設計書を眺めて話をしていた千空の元へクロムが話に混ぜろと突入し、わーわー騒いでいたのを思い出す。ゲンがそれをかわいいねえと笑ったのは記憶に新しい。
     王国のラボで千空の手伝いをしていたゲンの作業に一区切りがついた。一緒にラボの中にいる千空はゲンには理解できない難しそうな作業をしていて、声をかけるのが少し憚られた。集中しているようだったし。だから、造船所で毎日ヘトヘトになりながらも張り切ってペルセウス用ラボを作っているカセキの元へ差し入れしにいこうかなと思いついたのだ。フランソワが皆様でどうぞ、とマフィンをさっき焼いていたので、そ 3039

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    TRAINING千ゲ(宝島帰還中、ペルセウスにて)白い髪が沈む夕日でうすきはだ色に透けていた。眼下に広がる波の動きと連動してゆらゆらと揺れている。あの柔らかそうな髪は、潮風で軋むことはないのだろうか。
     そもそも目線の先にあるのはツートンカラーと言う不思議な髪だ。髪の毛の染め粉など千空は作っていないし、作り方を指南したこともないので科学王国の人間で染めてる人間は千空が把握している限りではいない。大体千空の記憶にあるクソみたいな心理本の表紙といま現在目に映っている髪の毛は違うわけで──石化前最後にテレビを通して見たときはおそらく現在と一緒だ。
     出会って年単位になるくせに、本当に今更ながらどういうわけなのか気になってきて、しかしおそらく別にいま話を聞き出すことでもないこともわかっていて、千空は小さく舌打ちをした。まあ、そのうち。気になることは答えを導き出すところまで持っていかなければ気持ち悪いので。急ぎではまったくないが、そのうち。多分近々。
     そんなことを思考の隅で考えながら、爪先をその背中に向けて歩を進める。
    「落ちるなよ、メンタリスト」
     落下防止柵にである手すりに両肘をついて夕日を眺めているらしい藤色の背中に声をかけた。
    「だい 3776

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    TRAINING千ゲン(宝島:石化中、千ゲ未満のゲのつらつら)もう二度と味わいたくないと思っていた、意識が底無し沼へ沈んでいくような、そんな感覚。ああ、そうだった。すっかり忘れていたけれど三七◯◯年前もこんな感じで、最初は意識があったのだ。やだなあ、この感覚。
     そんなことを考えながら、ゲンはきっと陣営でひとり残してしまった歳下の男の子のことを思う。大丈夫だろうか、千空ちゃん。
     絶対に大丈夫だと、あの子が残りさえすれば、みんな大丈夫だと本気で思っている。ゲンだってそうだ。きっと千空本人も。
     それでも、それでも。やはりあの子はまだ子どもだ。大層な夢を抱いているだけの、ただの科学が大好きな少年だ。その少年の心は、果たして大丈夫だろうか。
     ゲンの視界は既にまっくらだ。腕を上げて石化したはずだが、その感覚すらわからない。やはり油断すればずぶずぶと意識が沈みそうだった。必死で意識を繋ぎ止める。
     あの子の心に寄り添えずとも、もし少しでも影が差すことがあればそこに電気でも照らしてあげれるような、そんな存在でありたい。もうあれから随分時間が経ってしまったけれど、綺麗な冬の星空のもと、目隠しをした布の下で見せた千空のあの表情を見た時から。科学王国の心理担当 1358