Knights of Night⑥「──じゃがそれは、やろうと思えば可能、というだけの話じゃ、朕にその気は微塵もないからそう構えんで良い」
「その言葉を『そうなんだ〜』なんてすんなり信じられると思うか?」
先輩はますます眉間の皺を深くしてる、なのに吸血鬼は相変わらずの上から目線だ。ほんと気に入らないな、さっきの声色は聞き間違いか?
耐えかねて声だけで突っかかった僕にも吸血鬼は悠々としたものだ。
「信用に値する情報は語るつもりでおるよ、ただ時が迫っておるから追々と、と請うておるのじゃ」
「……俺に、どうしろと?」
吸血鬼の言葉に今度は先輩が返した。
そのとき、視界が少し、細く、狭くなった。
吸血鬼は微笑んだのだろう、僕の身体で。
「朕の願いを聞き入れてくれたこと、感謝する」
「礼など要らん、何をすればいいのかを言え」
そうだ、今はそうするしか──すんごい癪だけど言いなりになるしかない。
腹が立ってるのは先輩も僕も同じなんだ、この吸血鬼の隙を探すには一旦応じるしかない。ほんとに、むかつくけど。
だったらやっぱり聞くに徹して綻びを探そう、と僕は今一度気持ちの腰を据えた。
「ぬしは今、朕の気配を捉えておるな? 朕の一部でしかないそれを頼りに、同じ気配でありながらより大きな気配の元を探り当てておくれ、そこに朕の肉体があるはずなのじゃ」
終始、ゆったりと話している吸血鬼。時間が無いと言ってた割には悠長で焦ってはいないように見えるけど、そこにも何か理由があるのか?
これは手掛かりになるかも知れない、忘れないでおこう。
「……貴様の気配は微かだ、そしてこの街だけでも他にいくらでも吸血鬼はいる……その中から、いやこの街の中にいるとは限らない者を探すなど──」
先輩の言うとおりだ、にもかかわらず吸血鬼は先輩に頼んできてる、ということはこの街の事情にあまり詳しく無いのか?
うん、これも手掛かりだ、覚えておこう。
先輩はもう刀に手を掛けてはいない。でも一粍も気を抜いてはいない、それはこっちを刺すような目つきと搾り出される声からも明らかだ。
「行う前から己を諦めるな、試してみる価値はあろう」
なのに吸血鬼は全く怯まない、恐れない。口調と同じくゆったりと、一歩、二歩と、歩いて──
「ふむ? もしやそれが妨げになっているのではないのか?」
それ? ……ああ先輩のマスクのことだな、視界がそこ中心になった。でもマスクと気配の感じ方にはあまり関係ない気がするけど、そういえばどうなんだろう、聞いたことはなかったな。
距離が近付くにつれ、苛立ちと焦燥の混じったものから困惑に変わる先輩の両眼。
歩みを止めて、揺れのおさまった、吸血鬼の、そして僕の視界──
「外してみよ」
その端に、ゆっくり入ってきたのは指先、僕の手。
それが、何の躊躇いもなく、先輩のマスクに触れ、て──
「外して、そしてしかと感じ取れ、朕の気配を──」
そこでようやく、吸血鬼の手掛かり探しに集中しすぎていた僕は、気付いた。
「……バッッカかお前ぇぇー 近いわぁぁ」
視界に、先輩の顔しか入らないほどに接近していると。
おかげで、さっきよりも一層大きな僕の叫びがまた、路地に響き渡った。