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    ドクター

    はるち

    DOODLEサボテンを育てるドクターのお話
    太陽と水、風に土、そして 植物を適切に育てることは、なかなかどうして難しい。
     ドクターは自室の窓辺に置かれたサボテンを見て眉をひそめた。数日前にサルカズの傭兵から受け取ったものだ。ある種の気紛れ、戯れの一種だろう。花が咲いては散り、朽ちていくさまを楽しむ彼にとって、この植物はあまり好みではなかったから押し付けられただけという説もあるが。
     植物は水をやれば良い、と思っていたのだが、それは大きな思い違いであるということを理解するのにさほど時間はかからなかった。水をやり過ぎれば根腐れを起こす、さりとてやらなければ枯れてしまう。人間にとって適切に管理された温度と湿度がこの植物にとっても同様であるかと言われればそういうわけでもなく、可能な限り日光を浴びられるよう腐心する必要もあった。そもそも水を上げるだけで済むような単純な性質を有しているのであれば、ラナを始めとする療養庭園の面々が日夜苦労をする必要もないのだ。研究室で自分が実験用の細胞を培養していたときも、適切な温度管理と栄養状態の管理は必須だったことを思い出し、ドクターは改めて眼前にある生命の神秘を見つめた。いっそのことフィリオプシスにも相談して植物の管理用プログラムでも作成したほうが良いかもしれない――と思ったところで、あのサルカズの皮肉げな笑みが脳裏をよぎる。果たしてお前に本当にできるのか、と言わんばかりの笑みで、この鉢植えを手渡した彼のことを。
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    はるち

    DOODLEドクターが他の人の料理でぷくぷくになってたら先生は浮気だって怒ると思いますか?
    「浮気じゃないですか」
    「浮気にはならないだろ」
    「じゃあこの腹はなんですか」
    「やめろやめろ触るな揉むな! 気にしているんだよ!」
     腕の中でぎゃいぎゃいと騒ぐつがいを、リーは不承不承と言った体で解放した。唇を尖らせる様はくたびれた中年の風貌に似合わずまるで少年のようだった。そんな振る舞いも似合うんだからこの男は狡い、とドクターは内心で溜息を吐いた。それが惚れた欲目と呼ばれるものであることに、本人だけが気づいていない。
     手を離せ、という言葉に従ったリーだったが、その視線は尚もドクターの腹部に注がれていた。とはいえそもそもの発端はリー自身であり、だから強くは出られないのだろう。
     きっかけはリーが自身の仕事のためにロドス本艦を一ヶ月ほど離れたことだった。出発前に、彼は龍門にいた頃からの馴染みであるジェイにこう言ったのだ。――おれがいない間、ドクターの食事の面倒を見てやってくれませんか、と。そして根が真面目なジェイは、その頼みを忠実に果たした。ドクターが夜遅くまで仕事をしているときは夜食を差し入れ、形態栄養食品やインスタントラーメンで食事を済ませようとしたときには代わりに食事を作っていた。
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