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    バーム

    韮山小田

    DONEキスブラ身内ワンライ2 バームクーヘンエンド普段立ち入ることがないという理由だけで、こうも妙な気分になるものだろうか。
    古い古い記憶のひとつに、片手で数えられるだけの回数訪れたことがあった。
    その頃のキースはまだただの子供で、特別なことと言えば人一倍痩せて薄汚れていることくらいだった。
    母が見知らぬ男と出て行って。酒浸りの父はキースなど見えていないかのように振る舞う。空腹を訴えればようやく気付いたというように鋭い舌打ちを響かせて重い拳を打ち下ろした。
    生きるために家を出た。盗みを働くほどの知恵も体力もなかった子供を僅かでも生き永らえさせたのは、ここだった。

     ◆

    「ブラッドもようやく結婚か~俺たちもそろそろかなあ?」
    「どうかねえ。恋人に振られたばっかの誰かさんにはまだまだじゃねえの」
    「うう…。でも、俺が悪いんじゃあないからね、たぶん…」
    自身なさげに俯くディノは、つい先日恋人と別れたばかりなのだという。
    かく言うキースも、結婚を考えるほどに付き合いを続けた女性は一人もいなかった。
    ヒーローにはありがちな話である。
    「『仕事とわたしどっちが大事なの』なんて台詞を聞くとは思わなかったよね…」
    自分からアプローチしたのだという 1332