Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    一真

    3k89737169

    PAST2019...? 年頃に書いた亜双義一真の夢小説です
    亜双義一真様へ亜双義一真様へ

     倫敦への御留学、おめでとうございます。何の関係もありませんはずの私も、とても誇らしい気持ちでございます。私には貴方のくださった学しかありませんから、多少の文章のおかしさや文字の書き損じは、お許しください。文字は、一真様と、一真様の貸してくださった書物でお勉強しただけなのです。少々私の思い出話に付き合っていただけますでしょうか。
     貴方は私のような学もなく金もなく、みっともない格好をした女である人間を、見下すこともなく構ってくれ、更には書物ですらいくつもいくつも貸してくださいましたね。私はありがたくて気後れする心持ちがしたことだってございます。ありがたいことでした。おかげさまで、貴方への手紙をこうしてなんとか書くことができます。あの日。ええ、はっきりと覚えています。あの日私が一真様に「文字が読めないのです」と恥も知らずに申し上げた時に「ならば教えます」と、何もかもが覚束ない私に筆を持たせ書を開き教鞭を取ってくださった貴方の、なんと格好良かったことか。毎日厚かましく貴方の御家のご本の沢山ありますお部屋へ通う私を、嫌な顔一つせず迎え入れてくださったことの、なんとあたたかかったことか。すべてあの日から変わらずに私の中で温度を持ち続けています。貴方はその時私と同じくらいに背が小さく、ええ、幼い頃は女子の方が成長が早いのだそうです。貴方の方がいくつか歳が上だったと記憶していますが、私は数もうまく数えられませんで。とにかく、背の高さばかり貴方と同じで頭の中身がすっからかんであった私に文字という、とても尊いものを詰め込んでくださいました。貴方は五十音順に平仮名を教えてくださりましたので、最初に覚えた文字はやはり「あ」であり、「亜双義」の「あ」でございました。私は物覚えの悪い馬鹿頭で、習ったばかりの「あ」だとか「お」だとか「め」などを、とても識別などできない程ののたくった字でいくつもいくつも書きましたが、それを貴方は笑って「いい文字だ」とばかりおっしゃられました。私は貴方にそう褒めていただけると胸がいっぱいになり、ずうっと貴方のそばで、貴方の教えてくださるだけ文字を練習していたくなりました。「一真さま、一真さまの『あそうぎ』でございます」「ああ、良い字だ。お前は腕がいい」などと、何度も何度もあさましく、貴方のお言葉で私の中に渦巻く承認欲求を満たしては、貴方のお勉強
    4057