怪鳥
@t_utumiiiii
DONE謎時空の泥庭(青髭と怪鳥) おわり(8) 怪鳥が今庭に咲いている一通りの花の種類に見慣れ、それまで毎日のように庭に通っていたものが、二、三日と間遠になっていった頃のことだ。もう夕方だと言うのに、まるでたった今起き出したように開き切らない充血した目をしていたピアソンは鳥籠の部屋の扉を開けると、行儀よく椅子に座りながら、すっかり乾きつつある白いバーベナの、こまごまとした花の集まって球体のように咲く花弁をなぞっていた怪鳥を、睨むというには強張った顔で見遣り、その場にじっと立ち尽くしていた。
しかし、来訪者に気付いた怪鳥がバーベナの花から顔を上げ、思えば随分久しぶりに顔を出したピアソンをきょとんと見遣り、口を開きかけて、彼に向かって何かを声を掛けるなり、ため息めいた吐息を音もなく吐きながら、その男を見なかったことにするなりを決めるよりも早く、ピアソンは瞑目というには短く瞬きというには長く目を目を瞑っていたところから、鳥籠の内側を覗き込まないようにと言わんばかりに俯いて視線を逸らした。
6329しかし、来訪者に気付いた怪鳥がバーベナの花から顔を上げ、思えば随分久しぶりに顔を出したピアソンをきょとんと見遣り、口を開きかけて、彼に向かって何かを声を掛けるなり、ため息めいた吐息を音もなく吐きながら、その男を見なかったことにするなりを決めるよりも早く、ピアソンは瞑目というには短く瞬きというには長く目を目を瞑っていたところから、鳥籠の内側を覗き込まないようにと言わんばかりに俯いて視線を逸らした。
@t_utumiiiii
MAIKING謎時空の泥庭(青髭と怪鳥) ※モブキャラ(7) ここのところ青髭の調子が良くないらしい、という噂が町に流れ、事実として彼はふさぎ込んだように部屋に閉じこもり、そこから滅多に出てこようとしなかった。彼の身の回りの世話をする使用人はやたらと安酒を買い込まされ、どうせ買いに出るなら、もっと高い酒をお使いさせてくれればいいんだが、というぐらいの軽口を店主相手に叩いた。
部屋と籠の鍵を持つ彼の来訪が無い限り、怪鳥は鎖に繋がれた上、幾重にも鍵のかかった鳥籠の中、しかも外側から鍵のかかる部屋の中に閉じ込められている筈なのだが、有能な技師の手腕により満足な両脚を取り戻した彼女は、どういう仕組みかそれを容易く開くと、絨毯の上を滑るように裸足で歩き回り、何か興味を惹くところがあったのか、手際よく適当に仕事をこなしていく掃除婦の後をついて回って、その手元の仕事ぶりをじっと見つめては気味悪がらせ、掃除婦から「あれを何とかして下さい」という訴えを受けた青髭に肘を掴まれながら、無理やり鳥籠に引き戻されたりもした。
3323部屋と籠の鍵を持つ彼の来訪が無い限り、怪鳥は鎖に繋がれた上、幾重にも鍵のかかった鳥籠の中、しかも外側から鍵のかかる部屋の中に閉じ込められている筈なのだが、有能な技師の手腕により満足な両脚を取り戻した彼女は、どういう仕組みかそれを容易く開くと、絨毯の上を滑るように裸足で歩き回り、何か興味を惹くところがあったのか、手際よく適当に仕事をこなしていく掃除婦の後をついて回って、その手元の仕事ぶりをじっと見つめては気味悪がらせ、掃除婦から「あれを何とかして下さい」という訴えを受けた青髭に肘を掴まれながら、無理やり鳥籠に引き戻されたりもした。
@t_utumiiiii
MAIKING謎時空の泥庭(青髭と怪鳥) ※日記のないキャラ(機械技師・狂眼(?))の言動を背景推理等から無理やり捏造してる。(6) 丸い形のヘッドライトが特徴的な社用の軽自動車(店主は「お前さんの顔に似ている」と言い、その車をトレイシーに宛がった)で出先から戻るなり早速シルクハットを取り、その内側で冷や汗を掻き通していたボブヘアに風を通しながら、行きがけに店主が入れ知恵をした「青髭」の屋敷でのことがどんな具合に薄気味悪かったかを、さながら飲まされた毒を吐き出すような勢いで喋り続けていたトレイシーは、「そうやって可哀そうだって言い出したのが、いちばん不気味だった。」と、苦いものを噛み潰したように顔を顰めてそう零す。作業台の上で酒瓶を傾けていた老店主は、それを興味もなさそうに聞き流していた。
老人相手に話をしているとも、一人で必死に言葉を吐き出しているとも取れない調子で、トレイシーはぶつぶつと零す愚痴の内容を次々変えていった。「青髭の妻」が、トレイシーの目から見るとあからさまに人間であったこと。それにも関わらず、彼女はまるで鳥籠のような大きな釣り鐘型の檻の中に、一瞬人形と見まがうようなやり方で閉じ込められていること。トレイシーの見立てでは、彼女は高機能の義手義足を着用した生身の人間であるが、そもそも何故、彼女がそのような傷を負うに至ったのか? その大きな怪我が、彼女に正気のありかも見失わせてしまったのでは?
5315老人相手に話をしているとも、一人で必死に言葉を吐き出しているとも取れない調子で、トレイシーはぶつぶつと零す愚痴の内容を次々変えていった。「青髭の妻」が、トレイシーの目から見るとあからさまに人間であったこと。それにも関わらず、彼女はまるで鳥籠のような大きな釣り鐘型の檻の中に、一瞬人形と見まがうようなやり方で閉じ込められていること。トレイシーの見立てでは、彼女は高機能の義手義足を着用した生身の人間であるが、そもそも何故、彼女がそのような傷を負うに至ったのか? その大きな怪我が、彼女に正気のありかも見失わせてしまったのでは?
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MAIKING謎時空の泥庭(青髭と怪鳥) ※日記のないキャラ(機械技師)の言動を背景推理等から無理やり捏造してる。(5) ピアソンは慣れない手つきで電話帳を手繰り、それらしい工房に電話を掛けて「一番腕の良い技師を」と注文を付けたのだが、翌日やってきたのは、シルクハットを被り全身をそれらしい黒スーツで固めてはいるが、白い色をした顔立ちは幼い程の若い女だった。ハイヒールを履いてこそいるものの、身長はピアソンよりやや低い。
それが、取次の厳つい男相手に、(若干気おくれするように表情を強張らせつつも)肩肘を張って見せながら堂々と歩き、連れて来られた彼女の立ち姿を見るなり、あからさまに訝って顔を顰めた――しかも椅子の上に偉そうに踏ん反り返っているどころか、椅子に深く腰掛けながら机の上に組んだ足を載せているピアソン相手に、「一番腕の良い機械人形師だよ」と不遜に言い放つ態度は癪に触らないでもなかったが、これで逆に、非の打ちどころのないような偉丈夫が来て、それを例の鳥籠まで案内しないとならないのかと思うと、かえって女の技師というのは、ありがたい存在かもしれない。
5109それが、取次の厳つい男相手に、(若干気おくれするように表情を強張らせつつも)肩肘を張って見せながら堂々と歩き、連れて来られた彼女の立ち姿を見るなり、あからさまに訝って顔を顰めた――しかも椅子の上に偉そうに踏ん反り返っているどころか、椅子に深く腰掛けながら机の上に組んだ足を載せているピアソン相手に、「一番腕の良い機械人形師だよ」と不遜に言い放つ態度は癪に触らないでもなかったが、これで逆に、非の打ちどころのないような偉丈夫が来て、それを例の鳥籠まで案内しないとならないのかと思うと、かえって女の技師というのは、ありがたい存在かもしれない。
@t_utumiiiii
MAIKING謎時空の泥庭(青髭と怪鳥)(1) 「青髭」というのはグリム童話の一つであるが、郊外に大層な屋敷を構えている彼は、近隣の町の住人からそう呼ばれている。郊外に建てた屋敷に閉じこもるように暮らし、後ろ暗い経歴のある大勢のものがそうするように、近隣のまともな地域社会と関わり合いになろうとしない、偏屈な独り身の金持ちが彼だった。
青髭の屋敷には、得体の知れない連中が雇われている。日々飲み屋に入り浸って日銭を泡にしているような連中の間で、気前よく仕事を与える彼は「気のいい領主」のように親しまれているのだが、一方で、素行が良いと地元で折り紙付きの者が物は試しと乗り込んでみても、その男から仕事を賜ることはなく、追い出されるのがオチだった。
そうやって追い出されるのならまだ良い。その屋敷に入ってくると、二度と日の目を見ないものもある。例えば、クリスマスに買い与えられたサッカーボールやラジコン、糸の切れたタコなんかが、ひとたびその屋敷の敷地に吸い込まれると、子供がどれほど泣きわめこうと、二度とは戻ってこなかった。迂闊に取り返そうとして屋敷の扉を叩けば、その日以降、青髭が雇っているに違いない素行の悪い連中からしつこく絡まれ、遅かれ早かれ、夜逃げ同然にその町を追われることになるので、もう誰もそんなことをしない。
5741青髭の屋敷には、得体の知れない連中が雇われている。日々飲み屋に入り浸って日銭を泡にしているような連中の間で、気前よく仕事を与える彼は「気のいい領主」のように親しまれているのだが、一方で、素行が良いと地元で折り紙付きの者が物は試しと乗り込んでみても、その男から仕事を賜ることはなく、追い出されるのがオチだった。
そうやって追い出されるのならまだ良い。その屋敷に入ってくると、二度と日の目を見ないものもある。例えば、クリスマスに買い与えられたサッカーボールやラジコン、糸の切れたタコなんかが、ひとたびその屋敷の敷地に吸い込まれると、子供がどれほど泣きわめこうと、二度とは戻ってこなかった。迂闊に取り返そうとして屋敷の扉を叩けば、その日以降、青髭が雇っているに違いない素行の悪い連中からしつこく絡まれ、遅かれ早かれ、夜逃げ同然にその町を追われることになるので、もう誰もそんなことをしない。