汐
狭山くん
TRAINING2022-07-14/空閑汐♂夏祭りも実に14日目となりました!面倒臭い方の空閑を書くのは割と楽しかったりもする。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day14 月もなく、星々だけが煌めく中。構内の照明すらも落とされた真夜中のプロムナードを空閑と汐見はそぞろ歩く。常ならば煌々と輝いている筈の学校に隣接する宇宙港も、殆ど照明が落とされ心なしかひっそりとして。
「久々だな、この時間に外歩くの」
「そういえばそうかも」
真夜中の冷え切った空気が肌に心地いい。少し先を行く汐見の姿も闇に紛れてしまいそうで、空閑は彼に追いつくように足を早める。真夜中の散歩は高校生の身分であった頃から、時折汐見に誘われるままに行われていて。こうして歩き回るのは久々の事だった。
「まぁ、理由は分かりきってんだけどな」
少しだけ刺すような調子でそう重ねた汐見に、空閑は苦笑を漏らす。昨年までは夏の熱から逃げるように、この時期は幾度もこうやって外を歩いていた。その恒例行事のような夜の散歩が今年は今日まで行われていなかったのは、ひとえにこの時間に外を出歩ける状態になかったという事で。
1484「久々だな、この時間に外歩くの」
「そういえばそうかも」
真夜中の冷え切った空気が肌に心地いい。少し先を行く汐見の姿も闇に紛れてしまいそうで、空閑は彼に追いつくように足を早める。真夜中の散歩は高校生の身分であった頃から、時折汐見に誘われるままに行われていて。こうして歩き回るのは久々の事だった。
「まぁ、理由は分かりきってんだけどな」
少しだけ刺すような調子でそう重ねた汐見に、空閑は苦笑を漏らす。昨年までは夏の熱から逃げるように、この時期は幾度もこうやって外を歩いていた。その恒例行事のような夜の散歩が今年は今日まで行われていなかったのは、ひとえにこの時間に外を出歩ける状態になかったという事で。
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TRAINING2022-07-13/夏の空閑汐♂13日目!切手を舐める仕草ってえっちだよねって話。第二宇宙速度って単語がただただエモ。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day13 リビングルームとして使われている部屋に置かれたダイニングテーブルで紙片に向かう汐見へと、空閑は珍しげに視線を向ける。汐見の手に握られているのは、今年の誕生日プレゼントとして彼が空閑へと贈ったものと揃いのボールペンで。
どんなに難解な課題でもそんな表情は浮かべていなかったと思える程の渋面を晒し、白い紙にボールペンを走らせる汐見の様子を観察していた空閑は結局観察だけでは飽きたらず汐見の向かい側へと腰を下ろす。空閑に見られたく無いものであれば、汐見は図書館か格納庫にある飛行教官室に行く事を知っていたのだ。
「アマネ、何やってるの?」
顔を顰める汐見へと声を投げれば、汐見の切れ長な瞳は白い紙から空閑へと向けられる。深い茶色の瞳には、わかりやすく困惑が浮かんでいた。
1510どんなに難解な課題でもそんな表情は浮かべていなかったと思える程の渋面を晒し、白い紙にボールペンを走らせる汐見の様子を観察していた空閑は結局観察だけでは飽きたらず汐見の向かい側へと腰を下ろす。空閑に見られたく無いものであれば、汐見は図書館か格納庫にある飛行教官室に行く事を知っていたのだ。
「アマネ、何やってるの?」
顔を顰める汐見へと声を投げれば、汐見の切れ長な瞳は白い紙から空閑へと向けられる。深い茶色の瞳には、わかりやすく困惑が浮かんでいた。
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TRAINING2022-07-12/空閑汐♂の夏12日目!スイカといえば割らねば!という使命に燃えた結果。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day12 稽古終わりの道場にそれを持ち込んだのは、部活の終了時間を見計らいフェルマーを伴ってふらりと現れた高師だった。
「……お前がこういう事するの、珍しいな」
「姉から送られてきたんだ。俺一人だと持て余すからな、普通に部員で分けようと思って持ってきただけで……決してこんな事をしようと思って持ってきた訳では無いんだがな!?」
ひと汗かいたと首に手ぬぐいを掛け剣道着を纏ったままの姿で眉を寄せポツリと呟いた汐見に、高師はその理由を説明しながらも予想外の展開に転んだ空間に向けて叫んでしまう。
高師が持ち込んだそれの周りでは稽古終わりの部員達がワイワイと群がり手ぬぐいや木刀、どこから持ってきたのかビニールシートまで用意されていた。
833「……お前がこういう事するの、珍しいな」
「姉から送られてきたんだ。俺一人だと持て余すからな、普通に部員で分けようと思って持ってきただけで……決してこんな事をしようと思って持ってきた訳では無いんだがな!?」
ひと汗かいたと首に手ぬぐいを掛け剣道着を纏ったままの姿で眉を寄せポツリと呟いた汐見に、高師はその理由を説明しながらも予想外の展開に転んだ空間に向けて叫んでしまう。
高師が持ち込んだそれの周りでは稽古終わりの部員達がワイワイと群がり手ぬぐいや木刀、どこから持ってきたのかビニールシートまで用意されていた。
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TRAINING2022-07-11/空閑汐♂夏祭り11日目!ヤッター!空閑はなんでもかんでも汐見♂を優先するけど、汐見♂はそれを知ってて上手く誘導するよって話。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day11「あ、いたいた!」
燦々と降り注ぐ陽光に麦わら帽子のような髪を輝かせながら、無邪気に声を上げたのはフェルマーで。その声に大木を背に文庫本へと視線を落としていた空閑はゆっくりと晴れた空と同じ色をしたフェルマーの瞳へと視線を向ける。
「あれ? ヴィンどうしたの?」
不思議そうに首を傾げる空閑に、フェルマーの隣に立っている高師は呆れたようなため息を一つ。
「吉嗣先生がお前達を探してたぞ。学生向けのデモでフライトするのに空閑も汐見もどこ行ったって」
高師の説明にあっと声を上げながら左手に巻いた大ぶりな腕時計へと視線を落とす。
「やば、アマネ。起きて起きて」
胡座をかいた空閑の腿を枕にしてすやすやと眠る汐見を揺らしても、鬱陶しげに唸った汐見は空閑の手をパシリと払う。
1246燦々と降り注ぐ陽光に麦わら帽子のような髪を輝かせながら、無邪気に声を上げたのはフェルマーで。その声に大木を背に文庫本へと視線を落としていた空閑はゆっくりと晴れた空と同じ色をしたフェルマーの瞳へと視線を向ける。
「あれ? ヴィンどうしたの?」
不思議そうに首を傾げる空閑に、フェルマーの隣に立っている高師は呆れたようなため息を一つ。
「吉嗣先生がお前達を探してたぞ。学生向けのデモでフライトするのに空閑も汐見もどこ行ったって」
高師の説明にあっと声を上げながら左手に巻いた大ぶりな腕時計へと視線を落とす。
「やば、アマネ。起きて起きて」
胡座をかいた空閑の腿を枕にしてすやすやと眠る汐見を揺らしても、鬱陶しげに唸った汐見は空閑の手をパシリと払う。
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TRAINING2022-07-10/夏の空閑汐♂10日目〜〜!!クラゲって脳が無いらしいですね……文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day10「お前、クラゲっぽいよな」
ベッドサイドに置かれたスタンドに取り付けられたタブレットを指先で弄びながら、気怠げにベッドに寝転ぶ汐見は呟く。昼下がりの寝室で下履きだけを纏っただけで、シャワーを浴びさっぱりとした肌には朱い情交の痕が残されていた。
「え、俺そんなに脳味噌ない……?」
窓際に腰掛け燦々と差し込む太陽の光と初夏の爽やかな風を受けながら、空閑は汐見の言葉に首を傾げる。ベッドから動こうともしない汐見は、そんな空閑へと「何でそこ拾うんだよ」と呆れたように笑うのだ。
「そうじゃなくて。不思議な生き物というか、謎だよな」
「え、そうかな?」
「あとフワフワはしてるよな」
「やっぱり脳味噌無いって話じゃん!!」
1596ベッドサイドに置かれたスタンドに取り付けられたタブレットを指先で弄びながら、気怠げにベッドに寝転ぶ汐見は呟く。昼下がりの寝室で下履きだけを纏っただけで、シャワーを浴びさっぱりとした肌には朱い情交の痕が残されていた。
「え、俺そんなに脳味噌ない……?」
窓際に腰掛け燦々と差し込む太陽の光と初夏の爽やかな風を受けながら、空閑は汐見の言葉に首を傾げる。ベッドから動こうともしない汐見は、そんな空閑へと「何でそこ拾うんだよ」と呆れたように笑うのだ。
「そうじゃなくて。不思議な生き物というか、謎だよな」
「え、そうかな?」
「あとフワフワはしてるよな」
「やっぱり脳味噌無いって話じゃん!!」
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TRAINING2022-07-09/空閑汐♂夏祭り9日目!思いっきり事後である。すけべが書きたくなってる狭山くん、ギリギリラインを攻めている。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day09 ぺたりと肌に張り付く髪や背中に感じる濡れたシーツの感触を不快に思っていれば、ふわりとした風が汐見の身体を撫でていく。熱を持った身体を撫でる風は、心地がいい。
「アマネ、動けそう?」
「無理」
ベッドに仰向けになったまま、指一本すら動かせる気がしない。空閑の問いに答えた声は、ひどく掠れていた。
じゃれつくように肌を滑らされた指に翻弄された結果がこれだ。最終的に空閑の熱を強請ったのは汐見だったが、たっぷり三年の時間をかけて空閑によって拓きつくされた身体は我慢が利かなくなってきた。汐見は冷静さが戻り始めた思考の中で、そんな事を考える。
体力が無いわけでは決して無いはずなのに、汐見が持久力勝負で空閑に挑めば空閑に軍配が上がってしまう。それは嫌と言う程解っている筈で――強請れば結局ベッドに沈む未来が待っているというのに、それでもこの男を求めてしまうのだ。
1022「アマネ、動けそう?」
「無理」
ベッドに仰向けになったまま、指一本すら動かせる気がしない。空閑の問いに答えた声は、ひどく掠れていた。
じゃれつくように肌を滑らされた指に翻弄された結果がこれだ。最終的に空閑の熱を強請ったのは汐見だったが、たっぷり三年の時間をかけて空閑によって拓きつくされた身体は我慢が利かなくなってきた。汐見は冷静さが戻り始めた思考の中で、そんな事を考える。
体力が無いわけでは決して無いはずなのに、汐見が持久力勝負で空閑に挑めば空閑に軍配が上がってしまう。それは嫌と言う程解っている筈で――強請れば結局ベッドに沈む未来が待っているというのに、それでもこの男を求めてしまうのだ。
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TRAINING2022-07-08/空閑汐♂夏祭りも8日目。今日はいかがわしめの話ですが、表に出せるいかがわしい話のギリギリラインを攻めはじめているとこある。明日もいかがわしめです(予言)文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day08 鼻先を擽る汐見の頭髪から、ふわりとシャンプーの香りが立ち上る。結局ベッドが広くなってもこうやって汐見を抱きすくめて寝ようとする空閑に、汐見は諦めたように――しかし、一応は言っておきたいとでもいうような様子で「暑苦しい」と零す。同じ日本に育ったとはいえ、湿度も気温も高い空閑の生まれ育った地域より湿度も気温も低いこの土地で生まれ育った汐見からしてみれば夏の暑さの盛りなのだろう。
そういえば、気候区分も違うんだったもんな。空閑はそんな事を思い出しながら、触れ合う肌がじっとりと汗ばみ始めている事を感じていた。
「ヒロミ、夏くらいはちょっと離れても良いと思うぞ俺は……」
「嫌だって言ったら?」
「……好きにしろ」
953そういえば、気候区分も違うんだったもんな。空閑はそんな事を思い出しながら、触れ合う肌がじっとりと汗ばみ始めている事を感じていた。
「ヒロミ、夏くらいはちょっと離れても良いと思うぞ俺は……」
「嫌だって言ったら?」
「……好きにしろ」
狭山くん
TRAINING2022-07-07/星空を見る空閑汐♂夏祭り7日目!私は見えないものを見ようとして望遠鏡を覗き込むよりも、見えない星と星に繋がる線を結ぶ為に星座早見盤と夜空を見つめるのが性癖です。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day07 北の大地の海沿いに位置するこの町は、古くから続く漁業と林業の他は宇宙港と国際航空宇宙学院日本校で成り立っている。宇宙港にしても、そこから更に各地の空港へと飛行機が飛んでいる事もあり、この町に来ることを目当てにこの場所に降り立つ人間は基本的に学校に用事がある人物だ。
つまり、一般的には田舎と呼ばれるような場所と言われても仕方がない。買い物や娯楽と言えば学内のコンビニエンスストアか宇宙港に作られたショッピングモールになり、アウトドア志向の学生は校内で定期的に行われる地元の自動車学校の出張講習で免許を取り寮で貸し出しているバイクや自動車でドライブを楽しむ。しかしそんな田舎でも、利点というのはある。人工的な光が少ないこの場所では、満点の星空を見ることが出来るのだ。
1654つまり、一般的には田舎と呼ばれるような場所と言われても仕方がない。買い物や娯楽と言えば学内のコンビニエンスストアか宇宙港に作られたショッピングモールになり、アウトドア志向の学生は校内で定期的に行われる地元の自動車学校の出張講習で免許を取り寮で貸し出しているバイクや自動車でドライブを楽しむ。しかしそんな田舎でも、利点というのはある。人工的な光が少ないこの場所では、満点の星空を見ることが出来るのだ。
狭山くん
TRAINING2022-07-06/空閑汐♂夏祭り6日目にして空閑の誕生日が唐突に決まりました。ハッピーバースデー空閑!今日この日がお前の誕生日だ!文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day06 その箱の中に収められてたのは、美しい銀色のボールペンだった。部屋の照明を反射して艶やかに輝く白銀色のクロームメッキに刻まれた己の名前を見つめていた空閑は、その箱を放って渡した汐見へと視線を向ける。
「ねぇ、これってさ」
「フィッシャーのアストロノート、俺も欲しかったしな」
恐る恐る問いかけた空閑の言葉に、汐見はなんて事なくその商品名を口にする。学生の身分では思い切った買い物の部類に入るだろうその高級ボールペンは、百年以上昔に月に初めて立った人類達も使っていたそれで。
地球の重力を利用してインクを出すボールペンを無重力空間でも使えるようにと開発されたスペースペンとも呼ばれるそのペンは、その名の通り宇宙空間は勿論、暑さ寒さにも強く――本来ボールペンとしてはそんな使い方はしないだろうという上向きでも水の中であっても文字を書く事ができるという。
1427「ねぇ、これってさ」
「フィッシャーのアストロノート、俺も欲しかったしな」
恐る恐る問いかけた空閑の言葉に、汐見はなんて事なくその商品名を口にする。学生の身分では思い切った買い物の部類に入るだろうその高級ボールペンは、百年以上昔に月に初めて立った人類達も使っていたそれで。
地球の重力を利用してインクを出すボールペンを無重力空間でも使えるようにと開発されたスペースペンとも呼ばれるそのペンは、その名の通り宇宙空間は勿論、暑さ寒さにも強く――本来ボールペンとしてはそんな使い方はしないだろうという上向きでも水の中であっても文字を書く事ができるという。
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TRAINING2022-07-05/空閑汐♂夏祭り5日目〜!私もまさか線香花火ってお題から線香花火作り出すなんて思わなかったし、ハイブリッドロケットをぶち込めるとは思わなかった。何年か前に行った講演で聞いてからずっとどこかで使いたかったネタ。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day05 摘んだ指先に垂れる細い紙縒の先に火を灯せば、ジリジリと小さな音を立ててぽってりとした火の玉が橙色に輝く。しかし、その火球は美しい松葉型をした火花を散らす事なく地面へと落ちていった。
「くっそ、撚り方が甘かったか」
「あ、俺の上手くいってる!」
悔しそうな汐見の声を追うように、楽しげな空閑の声が飛ぶ。
「ボクのもいい感じじゃない? せんこ花火ってこのパチパチがメインなんでしょ?」
パチパチと火花を散らす光を嬉しそうに見つめながらフェルマーも声を上げ、高師は火花を散らす前に落ちた火球を見遣り鼻を鳴らした。それぞれの一喜一憂を見守りつつも、自身の手にあった火花を少しだけ散らし落ちた線香花火の紙縒を水を入れたバケツに落として篠原は笑う。
1755「くっそ、撚り方が甘かったか」
「あ、俺の上手くいってる!」
悔しそうな汐見の声を追うように、楽しげな空閑の声が飛ぶ。
「ボクのもいい感じじゃない? せんこ花火ってこのパチパチがメインなんでしょ?」
パチパチと火花を散らす光を嬉しそうに見つめながらフェルマーも声を上げ、高師は火花を散らす前に落ちた火球を見遣り鼻を鳴らした。それぞれの一喜一憂を見守りつつも、自身の手にあった火花を少しだけ散らし落ちた線香花火の紙縒を水を入れたバケツに落として篠原は笑う。
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TRAINING2022-07-06/夏の空閑汐♂祭も4日目になりました!夏の剣道部は死ぬ程暑いんですよね……大体防具のせい。剣部時代男子勢が稽古終わりに上脱ぎ捨てて非常扉の外で汗で濡れた道着を絞ってたのを思い出しました。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day04「あっづい!」
稽古が終わるや否や吠えるように叫んだ汐見は、開け放たれたままの非常扉から外へと駆け出していく。日の長いこの時期は、放課後の稽古が終わっても太陽の名残が空を淡く染めていた。防具をその場に置いたままで外に駆け出した汐見を追い、非常扉の前で顔を引き攣らせていたのは引退した筈の皆川で。
「汐見先輩何やってるんですか! ソレ、夏休みの昼間にやるやつですよ!?」
非常扉の前に置かれた共用サンダルを突っ掛け、水場へと一直線に走っていった汐見はそこに取り付けられたホースで頭から水を被っていた。小さく括れる程に伸びた髪も、彼が纏う剣道着すら水に浸されている様子に、思わず叫んでいた皆川の隣で空閑は笑う。
1940稽古が終わるや否や吠えるように叫んだ汐見は、開け放たれたままの非常扉から外へと駆け出していく。日の長いこの時期は、放課後の稽古が終わっても太陽の名残が空を淡く染めていた。防具をその場に置いたままで外に駆け出した汐見を追い、非常扉の前で顔を引き攣らせていたのは引退した筈の皆川で。
「汐見先輩何やってるんですか! ソレ、夏休みの昼間にやるやつですよ!?」
非常扉の前に置かれた共用サンダルを突っ掛け、水場へと一直線に走っていった汐見はそこに取り付けられたホースで頭から水を被っていた。小さく括れる程に伸びた髪も、彼が纏う剣道着すら水に浸されている様子に、思わず叫んでいた皆川の隣で空閑は笑う。
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TRAINING2022-07-03/夏の空閑汐♂3日目!ダブルベッドでもぴったりくっついて寝る空閑汐♂は可愛いなぁ。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day03 じっとりと熱が残る肌を触れ合わせながら、汐見はその肩口に鼻先を埋める空閑の腕に抱えられていた。結局、ベッドが広くなった所でこうやって肌を触れ合わせながら眠りに就く夜は変わることはなく――辛うじて下履きだけは身に付けた状態で、汐見は空閑の抱き枕となる事に甘んじていた。
身体に燻る快感の残滓が、火照りの引かない肌の奥で渦巻くのすら心地がいい。空閑の吐息が首筋を掠める感触に、ぴくりと身体が震える。
「アマネ」
心地のいい微睡の中、空閑は汐見の名を唇から零す。小さく鼻にかかった息を漏らす事で返事と変えた汐見の反応に、彼は言葉を繋いでいく。
「なんで、俺のことここまで許してくれるの?」
ぐりぐりと鼻先を肩口に埋め、首筋に吸い付く空閑の問いに汐見はどうしたものかと思案する。この男は、時折こうやって何かを確かめるように汐見へと問うのだ。その声色は不安の色が少しだけ混じっていて、何がそんなに不安なのだろうと空閑に背を向けたままで汐見は眉を寄せる。
1213身体に燻る快感の残滓が、火照りの引かない肌の奥で渦巻くのすら心地がいい。空閑の吐息が首筋を掠める感触に、ぴくりと身体が震える。
「アマネ」
心地のいい微睡の中、空閑は汐見の名を唇から零す。小さく鼻にかかった息を漏らす事で返事と変えた汐見の反応に、彼は言葉を繋いでいく。
「なんで、俺のことここまで許してくれるの?」
ぐりぐりと鼻先を肩口に埋め、首筋に吸い付く空閑の問いに汐見はどうしたものかと思案する。この男は、時折こうやって何かを確かめるように汐見へと問うのだ。その声色は不安の色が少しだけ混じっていて、何がそんなに不安なのだろうと空閑に背を向けたままで汐見は眉を寄せる。
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TRAINING2022-07-02/夏の空閑汐♂祭2日目!汐見♂と吉嗣先生の組み合わせ、あまりにも気安い関係過ぎて超楽しい。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day02 金魚鉢を模した透明なアクリルの中、赤く透き通った尾鰭を揺らめかせているのは金魚だった。誰も使っていないデスクの上に置かれたアクリルの下に置かれた機械はモバイル端末と繋がれ、草臥れたティーシャツを纏う青年は唸りながらもキーボードを叩く。カチャカチャとプラスチックが擦れあう音を響かせる自身の教え子でもあった青年――汐見の姿を横目で見つつ、吉嗣は訝しげな表情を浮かべながら紙巻きタバコを咥えていた。
「汐見お前、休みだってのにこんな所で何やってんだよ」
「センセにも同じ言葉が返ってくるってわかってます?」
春先に比べれば少し伸びた髪を後ろで括り端末の画面を睨んでいた汐見は、吉嗣が指先で弄んでいたオイルライターから涼しげな金属音が響いたのにジロリと視線を向けたかと思えばすぐに端末へと向き直る。
1669「汐見お前、休みだってのにこんな所で何やってんだよ」
「センセにも同じ言葉が返ってくるってわかってます?」
春先に比べれば少し伸びた髪を後ろで括り端末の画面を睨んでいた汐見は、吉嗣が指先で弄んでいたオイルライターから涼しげな金属音が響いたのにジロリと視線を向けたかと思えばすぐに端末へと向き直る。
狭山くん
TRAINING2022-07-01/文披31題夏の空閑汐♂祭始まるよ!!!!!そう言えば学祭の話って書いてなかったな〜って思ったので初夏は学祭の季節だろ!?と空閑汐♂には踊って頂きました。学祭で踊るタイプの男性アイドルユニット、うっかり某SとAを思い浮かべてしまった。地元じゃ負け知らずだぜ、アミーゴ。文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day01 太陽は山の奥へと隠れ、空は紺青と朱による美しいグラデーションを見せていた。校舎の屋上から遠くに揺れる海原を見つめていた汐見は、屋上に巡らされた柵に凭れて大きなため息を一つ吐き出す。
「おつかれ」
「お前もな」
からからと笑いながら疲れを滲ませた息を吐き出す汐見へと労いの言葉を掛けた空閑に、汐見は小さく笑い言葉を返す。卒業証書を受け取ってから数ヶ月、季節は夏へと差し掛かる頃で。互いに高校指定のジャージを纏う彼らは、次の進学先への渡航までの間をこの場所で過ごす事を決めていた。
実家に帰るよりも、渡航までの約半年をこの場所で知識を深めた方が有意義だという結論に達したのは何も彼らだけではない。彼らよりも前に卒業していった先達であったり、同学年で本校への進学を決めている者の一部も同じような選択をしており――学校もまた、それを受け入れる体制が整えられていた。
1208「おつかれ」
「お前もな」
からからと笑いながら疲れを滲ませた息を吐き出す汐見へと労いの言葉を掛けた空閑に、汐見は小さく笑い言葉を返す。卒業証書を受け取ってから数ヶ月、季節は夏へと差し掛かる頃で。互いに高校指定のジャージを纏う彼らは、次の進学先への渡航までの間をこの場所で過ごす事を決めていた。
実家に帰るよりも、渡航までの約半年をこの場所で知識を深めた方が有意義だという結論に達したのは何も彼らだけではない。彼らよりも前に卒業していった先達であったり、同学年で本校への進学を決めている者の一部も同じような選択をしており――学校もまた、それを受け入れる体制が整えられていた。
狭山くん
TRAINING2022-06-30/空閑汐♂デイリー6月完走!と共に高校卒業おめでとう!!明日からは文披31題参加も兼ねて高校卒業後、航宙士学院入学前の夏の空閑汐♂を1ヶ月書いてく予定です(*•̀ᴗ•́*)و ̑̑空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:30 特に約束はしていなくても、やっぱりこの場所に集まってしまう。そんな事を思いながら、三年ないしは二年間共に過ごしたフェルマーと高師と共に篠原は道場へと足を踏み入れる。そこには既に後輩達が集まっており、パイロットコースに所属していた同期たちもピッタリとくっついて――というよりも空閑が汐見の後ろから抱きつくような形で立っていた。
後ろにくっ付いている空閑の存在を気にもせず、普段通りの態度でひらりと手を振った汐見は彼らへと向けて言葉を投げる。
「お、エンジニアコースも解散したのか」
「パイロットコース、解散早くない?」
おんぶお化けの様相を呈している空閑の存在を完全にスルーしたフェルマーの言葉に「センセのホームルーム短いからな。卒業式でも通常営業」と汐見もなんて事ないように答えて。後輩達も何のツッコミも入れていないらしいその体勢へと言い難そうにツッコミを入れたのは高師であった。
1411後ろにくっ付いている空閑の存在を気にもせず、普段通りの態度でひらりと手を振った汐見は彼らへと向けて言葉を投げる。
「お、エンジニアコースも解散したのか」
「パイロットコース、解散早くない?」
おんぶお化けの様相を呈している空閑の存在を完全にスルーしたフェルマーの言葉に「センセのホームルーム短いからな。卒業式でも通常営業」と汐見もなんて事ないように答えて。後輩達も何のツッコミも入れていないらしいその体勢へと言い難そうにツッコミを入れたのは高師であった。
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TRAINING2022-06-29/空閑汐♂デイリー何とか日付変わる前に書けたねヤッター!!吉嗣先生が空閑汐♂に巻き込まれてるの見るのは楽しいね……空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:29 第一格納庫の隅に作られた教官室。そこはパイロットコースを担当する教員達に割り当てられた部屋で。校舎から離れた場所に位置する格納庫に仕事を持ち込む教員は少なく、その部屋は吉嗣が占有してしまっている。
そしてその場所では安っぽいデスクチェアに腰を下ろし軋ませる吉嗣の他、二人の青年が立たされていた。一人はぴしりと制服を纏い、一人は学校指定のジャージ姿で。
「空閑に汐見も。お前らこの卒業前のクソ忙しいタイミングで呼び出された理由は解ってるよな?」
既に自由登校になっている三年生の中でも、この二人は既にパイロットコースの生徒が一番に目指す場所である航宙士学院への入学資格を手に入れていた。他の生徒達とは異なり、受験勉強からも解放され校内の雑務を請け負うアルバイトもこなしながらモラトリアムを過ごす二人の男達へと吉嗣はじとりとした視線を向ける。視線を向けられた本人達は揃いも揃って――制服を隙なく纏った空閑は面白そうに、ジャージ姿の汐見は不思議そうに、首を傾げる。
1743そしてその場所では安っぽいデスクチェアに腰を下ろし軋ませる吉嗣の他、二人の青年が立たされていた。一人はぴしりと制服を纏い、一人は学校指定のジャージ姿で。
「空閑に汐見も。お前らこの卒業前のクソ忙しいタイミングで呼び出された理由は解ってるよな?」
既に自由登校になっている三年生の中でも、この二人は既にパイロットコースの生徒が一番に目指す場所である航宙士学院への入学資格を手に入れていた。他の生徒達とは異なり、受験勉強からも解放され校内の雑務を請け負うアルバイトもこなしながらモラトリアムを過ごす二人の男達へと吉嗣はじとりとした視線を向ける。視線を向けられた本人達は揃いも揃って――制服を隙なく纏った空閑は面白そうに、ジャージ姿の汐見は不思議そうに、首を傾げる。
狭山くん
TRAINING2022-06-28/季節感もへったくれもない今日の空閑汐♂デイリーは汐見♂のヤキモチ回。これは前から書きたかったのでにっこにこ。言うてチューしてるだけ。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:28「ハッピーバレンタインです!」
そんな声と共に廊下へと呼び出された汐見へ可愛らしい柄の付いた紙袋をひとつ渡すのは彼の後輩である女子生徒――皆川で。
「あぁ、何か机の上に山積みになってると思ってたけどバレンタインか」
ようやく合点が入ったとでもいうように頷いた汐見に紙袋を渡した女子生徒の隣に立っていた彼女の同期であり汐見の後輩でもある東間は「汐見先輩それマジで言ってます?」と眉を寄せた。
「マジだな。ヒロミも何か大量に渡されてたから、一体何事かとは思ってたが」
「名もなき女子達が地縛霊になりそうですね」
ナンマイダ、なんて言葉と共に手を合わせる東間を横目で見ながら、汐見は「でも何で東間まで来てんだ? お前ら二人って珍しい組み合わせだけど」と問う。
2353そんな声と共に廊下へと呼び出された汐見へ可愛らしい柄の付いた紙袋をひとつ渡すのは彼の後輩である女子生徒――皆川で。
「あぁ、何か机の上に山積みになってると思ってたけどバレンタインか」
ようやく合点が入ったとでもいうように頷いた汐見に紙袋を渡した女子生徒の隣に立っていた彼女の同期であり汐見の後輩でもある東間は「汐見先輩それマジで言ってます?」と眉を寄せた。
「マジだな。ヒロミも何か大量に渡されてたから、一体何事かとは思ってたが」
「名もなき女子達が地縛霊になりそうですね」
ナンマイダ、なんて言葉と共に手を合わせる東間を横目で見ながら、汐見は「でも何で東間まで来てんだ? お前ら二人って珍しい組み合わせだけど」と問う。
狭山くん
TRAINING2022-06-27/今日の空閑汐♂デイリーは空閑汐♂喧嘩編後半戦!これだけでも読めないことはないかな……仲直りする空閑汐♂が尊いね……空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:27 三人の男達を廊下に残し、一人道場へと足を踏み入れた篠原は眼前に広がる光景に思わず片手で顔を覆っていた。突然現れた先輩の姿に救いを求めるように後輩達の視線が向けられる。
「何の事件現場だ?」
篠原の口からは、あまりにも物騒な言葉が溢れていた。
「篠原先輩……! いい所に!」
「息はあります!」
「汐見先輩の上段蹴りで空閑先輩が宙を舞ったんです!」
「よし分かった。すげぇ分かりたくないんだけど、大体分かった」
汐見も頬を腫らしていたが、空閑はその比ではない。完全に伸びてしまっている空閑の元にしゃがみこんだ篠原は軽く彼の頬を叩く。ぼんやりとしていた焦点が篠原へと結び、空閑は幾度か瞳を瞬かせる。
「空閑、今の状況分かるか?」
3587「何の事件現場だ?」
篠原の口からは、あまりにも物騒な言葉が溢れていた。
「篠原先輩……! いい所に!」
「息はあります!」
「汐見先輩の上段蹴りで空閑先輩が宙を舞ったんです!」
「よし分かった。すげぇ分かりたくないんだけど、大体分かった」
汐見も頬を腫らしていたが、空閑はその比ではない。完全に伸びてしまっている空閑の元にしゃがみこんだ篠原は軽く彼の頬を叩く。ぼんやりとしていた焦点が篠原へと結び、空閑は幾度か瞳を瞬かせる。
「空閑、今の状況分かるか?」
狭山くん
TRAINING2022-06-26/本日のデイリー後半戦!思った以上に長くなってもう800字デイリーって何????みたいな感じになってる。汐見って割と何も言わずに極端な事するタイプだと思ってる。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:26.2「で、何があったんだよお前ら」
ギャラリーを押し退け、フェルマーと共に空き教室へと汐見を押し込んだ高師は呆れ混じりの声色で前置きもなくそう切り出した。
「あ! シュンメ誤解しないでね、これはビジネス浮気みたいなもので」
「フェルマーお前には訊いてないし、ビジネス浮気って何なんだそれは!」
あまりにも能天気なフェルマーの言葉へ思わず叫んでしまう高師を追うように「ヴィン、俺をダシにすんな」と不機嫌そうな声色で汐見の声が刺さってくる。
「汐見、お前は本当に何なんだ。いきなりこっちの教室まで来て」
「……別に」
尊大な態度で椅子に座りながら高師の言葉にはふい、と顔を逸らし一言だけを口にする汐見の態度は完全に拗ねた子供の仕草で。そんな汐見の態度にこの短い時間だけで何度吐き出したのかも分からない二酸化炭素を再び口から漏らした高師は、フェルマーへと視線を向ける。
2948ギャラリーを押し退け、フェルマーと共に空き教室へと汐見を押し込んだ高師は呆れ混じりの声色で前置きもなくそう切り出した。
「あ! シュンメ誤解しないでね、これはビジネス浮気みたいなもので」
「フェルマーお前には訊いてないし、ビジネス浮気って何なんだそれは!」
あまりにも能天気なフェルマーの言葉へ思わず叫んでしまう高師を追うように「ヴィン、俺をダシにすんな」と不機嫌そうな声色で汐見の声が刺さってくる。
「汐見、お前は本当に何なんだ。いきなりこっちの教室まで来て」
「……別に」
尊大な態度で椅子に座りながら高師の言葉にはふい、と顔を逸らし一言だけを口にする汐見の態度は完全に拗ねた子供の仕草で。そんな汐見の態度にこの短い時間だけで何度吐き出したのかも分からない二酸化炭素を再び口から漏らした高師は、フェルマーへと視線を向ける。
狭山くん
TRAINING2022-06-26/空閑汐♂デイリー、今日は前後編。収まらなかったとも言える。事情聴取編もとい後編はこれから書きます!笑空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:26.1 受験シーズンもそろそろといった三年の秋、放課後になっても教室から出ていく生徒は少なかった。そしてそれ故にその暴挙のような男の言葉を耳にした生徒というのもまた、少なくなかったのだ。
「ヴィンツェンツ・シエン・フェルマー! 俺と浮気してくれ!」
「わかった!」
勢いよく教室の引き戸が開かれたと思えば、フェルマーの名を一字一句違わず口にする頬を腫らした男が自慢の腹筋をフルに利用したような伸びのある大声でとんでもない事を叫ぶ。そしてその相手であるフェルマーもまた、神が自画自賛する程の美貌に笑みを湛えて頷いて。そんな唐突に繰り広げられた謎の寸劇とも思える会話に、教室はどよめいていた。
教室がどよめこうが静まろうが、高師は基本的に我関せずを貫く事が多いものの――流石にこの出来事を無視出来る程の図太い神経は持ち合わせていない。何故なら、この教室をどよめかせた二人の男のうちの片割れは同じ部活の同期という関係で、もう一方は普段高師を懸想していると公言して憚らない男であった為である。
1374「ヴィンツェンツ・シエン・フェルマー! 俺と浮気してくれ!」
「わかった!」
勢いよく教室の引き戸が開かれたと思えば、フェルマーの名を一字一句違わず口にする頬を腫らした男が自慢の腹筋をフルに利用したような伸びのある大声でとんでもない事を叫ぶ。そしてその相手であるフェルマーもまた、神が自画自賛する程の美貌に笑みを湛えて頷いて。そんな唐突に繰り広げられた謎の寸劇とも思える会話に、教室はどよめいていた。
教室がどよめこうが静まろうが、高師は基本的に我関せずを貫く事が多いものの――流石にこの出来事を無視出来る程の図太い神経は持ち合わせていない。何故なら、この教室をどよめかせた二人の男のうちの片割れは同じ部活の同期という関係で、もう一方は普段高師を懸想していると公言して憚らない男であった為である。
狭山くん
TRAINING2022-06-24/空閑汐♂デイリー2本目!たまには先輩っぽい空閑汐♂も書いておきたかった。近しい後輩には面倒見がいい先輩ぶる空閑汐♂可愛いな?空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:EX「剣道着姿のアマネ、久々に見たなぁ。ヒロミもだけど」
「そもそも会うのが久々って感じだけどな」
短い夏休みを終えて、秋学期が始まってから少し経った頃。道場に姿を現したのは、アメリカに行っていた筈の汐見と空閑であった。『放課後、剣道部顔出すわ』という汐見からの端的なメッセージを受け取った篠原とフェルマーがその場所へと向かえば、既に剣道着を纏い面手拭を首に掛けた二人の男がそこに居た。
「今日の昼にこっちに戻って来たんだ」
「学校の定期便、ホント便利だよね。流石にアメリカからだと体バッキバキでさ。運動しよっかって話になって」
世界各地にある系列校間では、生徒や教員の移動の為定期的に専用機が飛んでいる。彼らはそれに乗りアメリカへと渡り、そして日本校へと戻って来たらしい。大きく伸びをしながらそう口にした空閑に、篠原は呆れたように「お前も含めて、俺ら引退した筈なんだけどな」と肩を竦めた。
1594「そもそも会うのが久々って感じだけどな」
短い夏休みを終えて、秋学期が始まってから少し経った頃。道場に姿を現したのは、アメリカに行っていた筈の汐見と空閑であった。『放課後、剣道部顔出すわ』という汐見からの端的なメッセージを受け取った篠原とフェルマーがその場所へと向かえば、既に剣道着を纏い面手拭を首に掛けた二人の男がそこに居た。
「今日の昼にこっちに戻って来たんだ」
「学校の定期便、ホント便利だよね。流石にアメリカからだと体バッキバキでさ。運動しよっかって話になって」
世界各地にある系列校間では、生徒や教員の移動の為定期的に専用機が飛んでいる。彼らはそれに乗りアメリカへと渡り、そして日本校へと戻って来たらしい。大きく伸びをしながらそう口にした空閑に、篠原は呆れたように「お前も含めて、俺ら引退した筈なんだけどな」と肩を竦めた。
狭山くん
TRAINING2022-06-24/空閑汐♂デイリー1本目。乗り物だったらだいたい何でも好きな空閑汐♂がツーリングをはじめる話。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:24 片道で約一八〇〇キロ、今回は往復で三六〇〇キロ。それが今回の旅程で。飛行訓練を他のクラスメイト達よりも早く修了する事が出来た空閑と汐見は、日本校に帰る事なく数ヶ月の滞在に必要だった荷物だけを送り返し寮を出た。
二週間かけてルート66の一部を往復しようという計画を立て、必要最低限の荷物だけを手に飛び込んだのは訓練期間中にレンタル契約をしておいたバイクショップ。日本ではまだ乗ることの出来ない大型バイクに跨った汐見は楽しげに頬を緩めていた。
「相変わらず、乗り物なら何でも好きだよね」
「それはお前だってそうだろ。アメリカでハーレーに乗れるってのに、真顔でいられるわけないだろ」
揶揄うような空閑の言葉に、汐見は頬を緩めたままで言葉を返す。トランシーバーをセットしたヘルメットを被り、通信テストとばかりに二人は会話を交わしていく。
957二週間かけてルート66の一部を往復しようという計画を立て、必要最低限の荷物だけを手に飛び込んだのは訓練期間中にレンタル契約をしておいたバイクショップ。日本ではまだ乗ることの出来ない大型バイクに跨った汐見は楽しげに頬を緩めていた。
「相変わらず、乗り物なら何でも好きだよね」
「それはお前だってそうだろ。アメリカでハーレーに乗れるってのに、真顔でいられるわけないだろ」
揶揄うような空閑の言葉に、汐見は頬を緩めたままで言葉を返す。トランシーバーをセットしたヘルメットを被り、通信テストとばかりに二人は会話を交わしていく。
狭山くん
TRAINING2022-06-23/今日の空閑汐♂デイリーはアメリカ校に行ってる2人である。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:23 はじめて、空を飛んだ。誰かに乗せてもらう事もなく、誰かを乗せる事もなく。自分ひとりの命を操縦桿に乗せて、艶やかなプロペラ機を一人だけで飛ばした。
その事実を思い出し、汐見はひとり暗いベッドの中でほう、と息を吐く。両耳に入れた無線イヤホンからは陽気なメロディが流れていた。
すっかり慣れてしまった寮の硬く狭いベッドに良く似た――しかし彼が普段暮らしている寮ではないその場所で、ベッドと部屋を仕切るカーテンを締め切った一人だけの空間でごろりと寝返りを打つ。背中に空閑の体温はない。しかしそれでも、実家に帰った時に感じた一人寝の寂しさはなく――汐見の胸に残るのは高揚感だけだった。
自家用操縦士ライセンスの取得を目的にやって来た、カリフォルニアにある国際航空宇宙学院のアメリカ校。短期滞在用の四人部屋に用意された二段ベッドの上段。それが汐見に与えられた今の寝床で。下段には空閑が、そして反対側の壁にもう一つ置かれたベッドの上下段には同じ日本校から選抜されたクラスメイトがそれぞれ一人づつ。
1335その事実を思い出し、汐見はひとり暗いベッドの中でほう、と息を吐く。両耳に入れた無線イヤホンからは陽気なメロディが流れていた。
すっかり慣れてしまった寮の硬く狭いベッドに良く似た――しかし彼が普段暮らしている寮ではないその場所で、ベッドと部屋を仕切るカーテンを締め切った一人だけの空間でごろりと寝返りを打つ。背中に空閑の体温はない。しかしそれでも、実家に帰った時に感じた一人寝の寂しさはなく――汐見の胸に残るのは高揚感だけだった。
自家用操縦士ライセンスの取得を目的にやって来た、カリフォルニアにある国際航空宇宙学院のアメリカ校。短期滞在用の四人部屋に用意された二段ベッドの上段。それが汐見に与えられた今の寝床で。下段には空閑が、そして反対側の壁にもう一つ置かれたベッドの上下段には同じ日本校から選抜されたクラスメイトがそれぞれ一人づつ。
狭山くん
TRAINING2022-06-22/今日の空閑汐♂デイリーは海を見る汐見と汐見を見る空閑の話。汐見には夕暮れの海辺を添えたくなる。汐見だし。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:22 既に太陽は山の向こうへと沈み、空には昼の名残のような淡い青空とそれに影を付けるような雲の深い青が混ざり合い美しいコントラストを作り出している。
その濃淡がまるで水彩画かちぎり絵のようだなんて、ぼんやりと思いながらバイクを走らせていた空閑はようやく目的の人影をその視界の中に収めていた。
静かに舗装された道から逸れ、砂と礫と少しの雑草が生える地面にバイクを停める。そこには彼が乗るそれと同じフォルムをした一台のバイクが既に停められていた。後輪の泥除け部分に剥がれかけた校章のシールが貼られている事を確かめて、その先に積まれている消波ブロックの上に腰掛ける人影のシルエットを見上げる。
顔を確かめなくてもわかる。そこに佇んでいるのは、汐見だった。
1752その濃淡がまるで水彩画かちぎり絵のようだなんて、ぼんやりと思いながらバイクを走らせていた空閑はようやく目的の人影をその視界の中に収めていた。
静かに舗装された道から逸れ、砂と礫と少しの雑草が生える地面にバイクを停める。そこには彼が乗るそれと同じフォルムをした一台のバイクが既に停められていた。後輪の泥除け部分に剥がれかけた校章のシールが貼られている事を確かめて、その先に積まれている消波ブロックの上に腰掛ける人影のシルエットを見上げる。
顔を確かめなくてもわかる。そこに佇んでいるのは、汐見だった。
狭山くん
TRAINING2022-06-21/デイリーもういっちょ!空閑汐♂と担任がわちゃわちゃしてるのは楽しいなぁ。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:EX「お前ら相変わらずニコイチなのな。まぁ、丁度良かったが」
廊下を連れ立ち歩いていた二人の男に声を投げかけたのは、彼らの担任である吉嗣宇浩で。吉嗣の声に仲良く足を止めた空閑と汐見は同じタイミングでくるりと振り返る。それはまるでダンスのステップのようで、吉嗣は喉でくつりと笑い声を漏らしていた。
「で、何すかセンセ」
「課題は出したと思うんですけど」
口々に問いかける汐見と空閑の言葉にひらりと片手を振りながら、吉嗣は彼らの答えを否定する。
「違ぇよ、お前らだけだぞ。飛行訓練の日程希望出してねぇの」
ため息混じりの言葉に彼らの声は「あぁ!」とユニゾンする。しかしそれでも彼らは不思議そうに一方は首を傾げ、一方は眉を寄せる。
2645廊下を連れ立ち歩いていた二人の男に声を投げかけたのは、彼らの担任である吉嗣宇浩で。吉嗣の声に仲良く足を止めた空閑と汐見は同じタイミングでくるりと振り返る。それはまるでダンスのステップのようで、吉嗣は喉でくつりと笑い声を漏らしていた。
「で、何すかセンセ」
「課題は出したと思うんですけど」
口々に問いかける汐見と空閑の言葉にひらりと片手を振りながら、吉嗣は彼らの答えを否定する。
「違ぇよ、お前らだけだぞ。飛行訓練の日程希望出してねぇの」
ため息混じりの言葉に彼らの声は「あぁ!」とユニゾンする。しかしそれでも彼らは不思議そうに一方は首を傾げ、一方は眉を寄せる。
狭山くん
TRAINING2022-06-21/今日の空閑汐♂デイリーはデートに行こうぜって誘う汐見♂の話である。昨日のデイリーで恋の自覚をした汐見♂がちょっとだけ積極的になった……のかもしれない。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:21 唯一部活も授業もない日曜の朝、常ならば空閑の腕にすっぽりと抱き寄せられている筈の体温は既になく。空閑はその違和感に寝ぼけたまま、幾度か深い海と同じ色をした瞳を瞬かせる。
腕から消えた体温を探すようにのそりと起き上がった空閑は、窓際のデスクに腰掛け文庫本を開いている男の姿を視界へと入れた。
「起きたか」
いつもながらに短い言葉で空閑の起床を確かめた汐見の声に、半分以上寝惚けたままで空閑は笑みを彼へと向ける。
「早いねぇ、どしたの? いつもならまだ寝てるじゃん」
「寝てるっつか潰されてんだけどな、お前に」
幾分か不貞腐れた声で返ってきた言葉に空閑は眉を下げ、汐見の機嫌を伺うように言葉を探す。
「だって奥まで許してくれるの土曜の夜だけじゃん……嫌だった?」
1009腕から消えた体温を探すようにのそりと起き上がった空閑は、窓際のデスクに腰掛け文庫本を開いている男の姿を視界へと入れた。
「起きたか」
いつもながらに短い言葉で空閑の起床を確かめた汐見の声に、半分以上寝惚けたままで空閑は笑みを彼へと向ける。
「早いねぇ、どしたの? いつもならまだ寝てるじゃん」
「寝てるっつか潰されてんだけどな、お前に」
幾分か不貞腐れた声で返ってきた言葉に空閑は眉を下げ、汐見の機嫌を伺うように言葉を探す。
「だって奥まで許してくれるの土曜の夜だけじゃん……嫌だった?」
狭山くん
TRAINING2022-06-20/空閑汐♂デイリー20日目!3年生に突入ですよやったね!3年生編1本目は汐見とヴィンの恋バナである。恋バナ……?空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:20 汐見が吐き出した二酸化炭素を、フェルマーは目敏く指摘する。
「なに物思いに耽ってんのさ」
「別にそんなんじゃない」
再び汐見から吐き出される溜息に、小さく笑い「どうせ何で隣に居るのがヒロミじゃなくてボクなんだって思ってるでしょ」なんて言葉と共にペンを指先で弄ぶフェルマーへ視線だけをじとりと向けた汐見はパイプ椅子を鳴らしながら背を伸ばし、不本意そうに眉を寄せる。
寮のロビーに置かれた長机に並んで座る二人は、新入生の入寮受付を仰せつかっていた。入寮受付開始日に寮に居る三年生が少なすぎた為に、愛想の欠片すら捨て去ったような汐見までもが駆り出される事となったのだ。
「ヒロミが居ないと、何か落ち着かないというか、座りが悪いというか」
1205「なに物思いに耽ってんのさ」
「別にそんなんじゃない」
再び汐見から吐き出される溜息に、小さく笑い「どうせ何で隣に居るのがヒロミじゃなくてボクなんだって思ってるでしょ」なんて言葉と共にペンを指先で弄ぶフェルマーへ視線だけをじとりと向けた汐見はパイプ椅子を鳴らしながら背を伸ばし、不本意そうに眉を寄せる。
寮のロビーに置かれた長机に並んで座る二人は、新入生の入寮受付を仰せつかっていた。入寮受付開始日に寮に居る三年生が少なすぎた為に、愛想の欠片すら捨て去ったような汐見までもが駆り出される事となったのだ。
「ヒロミが居ないと、何か落ち着かないというか、座りが悪いというか」
狭山くん
MEMO空閑汐♂デイリー、こういう世界観ですっていう今更な設定メモ。3年前くらいに書いたやつなのでちょいちょい変わってるとこあるかもしれないけど、大体こんな感じ。【空閑汐♂】設定メモ国際航空宇宙学院 日本校
世界に数拠点ある宇宙開発に携わる人材を育成する学校。
略称はIAA(International Aerospace Academy)
高等部と大学部があり、高等部からは基本的にエスカレーター、大学部からの入学も少なくないが高等部からの進学組は高等部のうちから高いレベルの授業を受けており、大学での内部進学組と外部入学組の差が生まれている模様。
日本校は北海道某所にあり、国際宇宙港の近くにある。
高等部には専門コースと普通科が設置されているが、専門コースの方は授業のメインが専門的な知識の習得となる為、高校卒業資格は得られない為在学中に高卒認定試験を受ける者が大半(内部進学は進学可能?)
1793世界に数拠点ある宇宙開発に携わる人材を育成する学校。
略称はIAA(International Aerospace Academy)
高等部と大学部があり、高等部からは基本的にエスカレーター、大学部からの入学も少なくないが高等部からの進学組は高等部のうちから高いレベルの授業を受けており、大学での内部進学組と外部入学組の差が生まれている模様。
日本校は北海道某所にあり、国際宇宙港の近くにある。
高等部には専門コースと普通科が設置されているが、専門コースの方は授業のメインが専門的な知識の習得となる為、高校卒業資格は得られない為在学中に高卒認定試験を受ける者が大半(内部進学は進学可能?)
狭山くん
TRAINING2022-06-18/今日のデイリー空閑汐♂は空閑の独白回みたいになってしまった。ちょっと不穏なのは多分手癖……手癖で不穏にするな。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:18 落とさないようしっかりと抱き上げた男の肢体はずっしりと重い。平均から見れば長身であるとはいえ、自身よりも小柄で細く――時折どこに内臓が入っているのかと疑うこともあるような薄い汐見の身体ではあるが、その服の下にしなやかな筋肉を纏っている事を空閑は知っている。
帰省土産の交換と称して集まっていた友人たちもそれぞれの部屋へと戻っていく時間ような時間になっても、空閑にぴったりとくっ付いて寝息を立てる汐見が目を覚ます様子はなく、揺すっても叩いてもすやすやと深い眠りに落ちたままで。眠りに落ちる前に呟くように告げられた「お前が居ないと、眠れもしない」という言葉だけが、空閑の耳でずっと反響し続けていた。
空閑に抱きかかえられながらも器用に眠り続ける汐見の身体をようやくベッドに横たえさせながら、空閑は汐見のあどけない寝顔を見つめる。普段は仏頂面を晒し、神経質そうな印象を周囲へと与える細面が表情筋も緩まっているのか眠っている時には少年のようにも見えて。
983帰省土産の交換と称して集まっていた友人たちもそれぞれの部屋へと戻っていく時間ような時間になっても、空閑にぴったりとくっ付いて寝息を立てる汐見が目を覚ます様子はなく、揺すっても叩いてもすやすやと深い眠りに落ちたままで。眠りに落ちる前に呟くように告げられた「お前が居ないと、眠れもしない」という言葉だけが、空閑の耳でずっと反響し続けていた。
空閑に抱きかかえられながらも器用に眠り続ける汐見の身体をようやくベッドに横たえさせながら、空閑は汐見のあどけない寝顔を見つめる。普段は仏頂面を晒し、神経質そうな印象を周囲へと与える細面が表情筋も緩まっているのか眠っている時には少年のようにも見えて。
狭山くん
TRAINING2022-06-16/今日の空閑汐♂はひとり寝汐見♂の話。この4日いちゃつかせるぞ!って言った割に切なめの仕上がりじゃん……明日いちゃつかせる為に今日はしっとりさせとくんだ……空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:16 暗い部屋の中で、ごろんと寝返りを打つ。苦もなく寝返りを打てるベッドの上で、汐見は一人小さく息を吐き出した。
学校は冬季休暇、それに伴って寮も休暇開始の数日後には閉鎖すると寮から追い出された汐見は、数日前には学校からは特急で一本――高速鉄道の恩恵により車であれば五時間近い道のりを一時間程度にまで縮め、生まれ育った地元へと戻ってきていた。
最初の数日間は、前回は宇宙港に併設された空港から帰省したという空閑が汐見について特急へと乗り込み観光を兼ねて遊び歩いた。汐見もその間実家に寄ることもなく、空閑と同じホテルで眠っていた。普段寝ているものよりも広いベッドが一つあるダブルルームで、普段のようにぴったりとくっ付いて。
1345学校は冬季休暇、それに伴って寮も休暇開始の数日後には閉鎖すると寮から追い出された汐見は、数日前には学校からは特急で一本――高速鉄道の恩恵により車であれば五時間近い道のりを一時間程度にまで縮め、生まれ育った地元へと戻ってきていた。
最初の数日間は、前回は宇宙港に併設された空港から帰省したという空閑が汐見について特急へと乗り込み観光を兼ねて遊び歩いた。汐見もその間実家に寄ることもなく、空閑と同じホテルで眠っていた。普段寝ているものよりも広いベッドが一つあるダブルルームで、普段のようにぴったりとくっ付いて。
狭山くん
TRAINING2022-06-15/季節感があんまりにも無さすぎる空閑汐♂デイリー冬のデート回。汐見の地元は狭山くんの地元でもあるんですが地元イルミネーションが100年先も続いてたらいいね(忘れがち近未来設定)空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:15 光のアーチを潜りながら、白く固められた地面を踏み締める。ほう、と感嘆のため息を吐いた空閑の隣で、汐見は既に見慣れているとでもいうようにいつも通りの仏頂面を晒していた。
「すごいね、綺麗だ」
「お前の地元にだって、これより凄いのあるんじゃないのか?」
「まぁ、至る所にあるんだとは思うけどさ、あんまり興味なかったから」
二度目の冬季休暇を迎え、数ヶ月前に友人同士でありクラスメイトであり部活の同期であり寮のルームメイトでもある空閑と汐見の関係に恋人というラベリングが為された事をいい事に地元に帰るという汐見に着いて彼の地元までやってきた空閑は、今年で百数十回目になるというイルミネーションの下を歩いていた。
そこでは古くからある旧式の電灯で形どられる鈴蘭やライラックの電飾から最新式の電飾を使った光のアートまで、様々な輝きが市街地を貫く緑地である筈の雪が積もる公園を彩り観光客や地元の人々を楽しませている。
1823「すごいね、綺麗だ」
「お前の地元にだって、これより凄いのあるんじゃないのか?」
「まぁ、至る所にあるんだとは思うけどさ、あんまり興味なかったから」
二度目の冬季休暇を迎え、数ヶ月前に友人同士でありクラスメイトであり部活の同期であり寮のルームメイトでもある空閑と汐見の関係に恋人というラベリングが為された事をいい事に地元に帰るという汐見に着いて彼の地元までやってきた空閑は、今年で百数十回目になるというイルミネーションの下を歩いていた。
そこでは古くからある旧式の電灯で形どられる鈴蘭やライラックの電飾から最新式の電飾を使った光のアートまで、様々な輝きが市街地を貫く緑地である筈の雪が積もる公園を彩り観光客や地元の人々を楽しませている。
狭山くん
TRAINING2022-06-14/空閑汐♂デイリー、今日は篠原と空閑の話。汐見はあの後抱き潰された模様。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:14 日曜の昼下がり、広々とした寮の談話室に現れたのは篠原が呼び出した人物ではなかった。
「や、おはよ」
「もうおはようの時間じゃないだろ。空閑」
ジャージ姿で自身の端末を弄っていた篠原は、空閑の声に視線を向けながら溜息をひとつ。そこに立っていたのは十数時間前には恥も外聞もなく泣き喚いていたなんて忘れましたという顔をしてニコニコと笑みを浮かべる男である。
「俺は汐見を呼んだ筈なんだけどな」
昨夜の釣り銭を渡す為に呼び出した相手が空閑に変わった理由に見当が付かない程鈍くはないが、面倒臭い男二人に巻き込まれた篠原としてはそれでも文句の一つくらいは言いたくなるものだ。
「昨日アマネが出した分は俺が返したし、そうなると釣り銭の所有者は俺になるんだから間違いじゃないよ」
1370「や、おはよ」
「もうおはようの時間じゃないだろ。空閑」
ジャージ姿で自身の端末を弄っていた篠原は、空閑の声に視線を向けながら溜息をひとつ。そこに立っていたのは十数時間前には恥も外聞もなく泣き喚いていたなんて忘れましたという顔をしてニコニコと笑みを浮かべる男である。
「俺は汐見を呼んだ筈なんだけどな」
昨夜の釣り銭を渡す為に呼び出した相手が空閑に変わった理由に見当が付かない程鈍くはないが、面倒臭い男二人に巻き込まれた篠原としてはそれでも文句の一つくらいは言いたくなるものだ。
「昨日アマネが出した分は俺が返したし、そうなると釣り銭の所有者は俺になるんだから間違いじゃないよ」
狭山くん
TRAINING2022-06-10/空閑汐♂デイリー、遂に2000字超えてて800字チャレンジとは……?ってなってます。しかも空閑が出て来ない汐見独白回である。篠原は空気を読む男だよ!
空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:10 時折足を向けるその場所で篠原の視界に現れたのは、汐見の姿であった。
「珍しいな、こんな所で」
「お前こそ」
心底珍しいものを見るような視線を汐見に向ければ、汐見は鬱陶しそうに片手をひらりと振りながらも篠原へと言葉を返す。汐見が珍しい訳ではない、部活で飽きる程に顔を合わせているから。珍しかったのは、彼が一人で大学部に併設された図書館に居る事だった。
高等部と大学部――そして学生と教員たちの宿舎や食堂だのコンビニだのが併設された広大な敷地からなるひとつの町のようなこの場所で、高等部の生徒が大学部の図書館に揃うのは珍しい事だった。課題をこなす為の文献をあたるのであれば高等部でも事足りる。
篠原は大学部に在籍する学生との逢瀬の為に時折この場所を訪れていたが、篠原が入学してから一年半を過ぎた今までの間、汐見を含めた高等部の生徒と出会うという事はなかったのだ。
2324「珍しいな、こんな所で」
「お前こそ」
心底珍しいものを見るような視線を汐見に向ければ、汐見は鬱陶しそうに片手をひらりと振りながらも篠原へと言葉を返す。汐見が珍しい訳ではない、部活で飽きる程に顔を合わせているから。珍しかったのは、彼が一人で大学部に併設された図書館に居る事だった。
高等部と大学部――そして学生と教員たちの宿舎や食堂だのコンビニだのが併設された広大な敷地からなるひとつの町のようなこの場所で、高等部の生徒が大学部の図書館に揃うのは珍しい事だった。課題をこなす為の文献をあたるのであれば高等部でも事足りる。
篠原は大学部に在籍する学生との逢瀬の為に時折この場所を訪れていたが、篠原が入学してから一年半を過ぎた今までの間、汐見を含めた高等部の生徒と出会うという事はなかったのだ。
狭山くん
TRAINING2022-06-09/デイリー空閑汐♂に高師くん初登場。空閑汐♂に巻き込まれる高師くん、一匹狼気取ってる暇もなくツッコミ役に回るしかなくなってて笑ってる。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:09 人間というのは、こんなにも綺麗な弧を描いて飛ぶものなのか。高師駿馬はその光景を見ながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。
「アイツ、また汐見怒らせたな」
夏休みに入っても、全寮制のこの学校から帰らない人間は多少は存在している。高師しかり、隣でボソリと言葉を漏らしていた篠原しかり。そして彼らの目の前で模擬試合を行なっていた筈の汐見と空閑もまた、帰省をせず学校に残った生徒であった。
「……あれ、本当に汐見なのか?」
「汐見じゃなかったら誰なんだよ」
思わず防具で覆われ表情が見えない二人の男達が自分の認識と相違ないか確認してしまう高師に、篠原は苦笑混じりで相違ないと口にする。高師が知る汐見は長身の部類に入るだろう高師自身とあまり変わらない身長ではあるが、今宙を飛んだ空閑よりは背が低く、体格にしても空閑よりは薄い体つきをしていた筈だ。
1477「アイツ、また汐見怒らせたな」
夏休みに入っても、全寮制のこの学校から帰らない人間は多少は存在している。高師しかり、隣でボソリと言葉を漏らしていた篠原しかり。そして彼らの目の前で模擬試合を行なっていた筈の汐見と空閑もまた、帰省をせず学校に残った生徒であった。
「……あれ、本当に汐見なのか?」
「汐見じゃなかったら誰なんだよ」
思わず防具で覆われ表情が見えない二人の男達が自分の認識と相違ないか確認してしまう高師に、篠原は苦笑混じりで相違ないと口にする。高師が知る汐見は長身の部類に入るだろう高師自身とあまり変わらない身長ではあるが、今宙を飛んだ空閑よりは背が低く、体格にしても空閑よりは薄い体つきをしていた筈だ。
狭山くん
TRAINING2022-06-08/今日のデイリー空閑汐♂はおっぱじめてないのでギリギリセーフだと思ってる。文字数は800字って何だっけみたいになってた。いつもの事。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:08 シングルサイズの二段ベッド下段、それがこの学校で汐見へと与えられた寝床である。一応プライベートを保つという名目なのだろう、上段に打ち付けられたカーテンレールには重そうな布地で作られたカーテンがぶら下げられていた。そのカーテンは幾度かその役目を果たしていたが、すぐに使われることはなくなっていた。
汐見がこの学校に入学してから一年以上を経た今日も、ベッドの周囲を覆うカーテンは使われていない。
「……暑苦しい」
不服そうに漏らされた汐見の声に、彼を背後から抱きすくめる空閑は小さく笑い声を漏らす。
「でも、アマネ俺とくっついてるの好きじゃん」
汐見の首筋に鼻先を埋めながらそう口にする空閑は、彼の項へ唇を落とし小さく吸い付いて。しかしその行為はどこか性の予感とは別の所にあって、汐見は空閑の好きなようにさせていた。
1273汐見がこの学校に入学してから一年以上を経た今日も、ベッドの周囲を覆うカーテンは使われていない。
「……暑苦しい」
不服そうに漏らされた汐見の声に、彼を背後から抱きすくめる空閑は小さく笑い声を漏らす。
「でも、アマネ俺とくっついてるの好きじゃん」
汐見の首筋に鼻先を埋めながらそう口にする空閑は、彼の項へ唇を落とし小さく吸い付いて。しかしその行為はどこか性の予感とは別の所にあって、汐見は空閑の好きなようにさせていた。
狭山くん
TRAINING2022-06-07/空閑汐♂デイリー、距離感バグ警察ササハラくん頑張れの巻。汐見はマジで痕付けられてる事に気付いてないし、その後に空閑に鉄拳制裁食らわせてる。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:07 放課後の武道場に併設されている更衣室で並び立ち制服を脱いでいた篠原は、隣に立つ空閑の背中に走る幾筋もの朱い痕を目にしていた。
――お盛んな事で。
背中の爪痕を付けられた側も、おそらく付けた側であるだろうもう一人の男もそんな情事の痕など気にも止めずに制服を脱ぎ剣道着を纏っていく。経験者である汐見は元より高校入学を機に剣道を始めた空閑も手慣れたように袴の紐をキュッと結ぶ様を横目に、篠原も同じように紺袴の紐をきっちりと結んで。
そうして更衣室を連れ立って出て行こうとした所で、汐見の纏う剣道着の隙間に見えた朱に目を剥いた。
「待て待て待て待て汐見! 出るな!!」
思わずそんな叫び声と共に汐見を押しとどめようと身体ごと彼へぶつかって行った篠原は、びくともしない汐見に受け止められる。ひょろりとした長身の汐見は、体当たりでもすればよろめいてしまいそうな線の細さを持った男であるが――しっかりとした体幹としっかりと付けられた実用的な筋肉で、自身よりも体格のいい空閑ですら稽古中に体当たりで飛ばすような人間だという事は篠原もこの半年以上経った関係の中で知っていた。
842――お盛んな事で。
背中の爪痕を付けられた側も、おそらく付けた側であるだろうもう一人の男もそんな情事の痕など気にも止めずに制服を脱ぎ剣道着を纏っていく。経験者である汐見は元より高校入学を機に剣道を始めた空閑も手慣れたように袴の紐をキュッと結ぶ様を横目に、篠原も同じように紺袴の紐をきっちりと結んで。
そうして更衣室を連れ立って出て行こうとした所で、汐見の纏う剣道着の隙間に見えた朱に目を剥いた。
「待て待て待て待て汐見! 出るな!!」
思わずそんな叫び声と共に汐見を押しとどめようと身体ごと彼へぶつかって行った篠原は、びくともしない汐見に受け止められる。ひょろりとした長身の汐見は、体当たりでもすればよろめいてしまいそうな線の細さを持った男であるが――しっかりとした体幹としっかりと付けられた実用的な筋肉で、自身よりも体格のいい空閑ですら稽古中に体当たりで飛ばすような人間だという事は篠原もこの半年以上経った関係の中で知っていた。
mt_pck
MEMOCoC『ねずみとさえずり』KP⇒きくた
PL⇒おり(HO魚:七海 師)
PL⇒ぷちこ(HO人:八汐 瀬斗)
両生還にてシナリオ終了しました。
長期に渡りありがとうございました……良いシナリオでした。 17
狭山くん
TRAINING2022-06-05/今日のデイリー空閑汐♂はササハラとヴィンから見た空閑汐♂である。この時点で空閑汐♂お互い恋愛感情については無自覚。
距離感バク警察ササハラくんは頑張ってって感じ。
空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:05「アマネ! 今日部活休みになったから、浩介くんとヴィンくんが宇宙港行かないかって」
廊下に立つ篠原浩介は呼びに行った相手が居る教室から聞こえてきたその言葉を耳にして、少しの違和感に首を傾げた。隣に立つヴィンツェンツ・S・フェルマーはそんな篠原の仕草と、聴こえて来た言葉にどこか楽しそうな笑い声を小さく漏らす。
「ねぇ、コースケ。ヒロミがアマネの事呼び捨てにしてるよ」
「え? あぁ、違和感そこか。何かアイツら無駄に距離近いよな……」
汐見と空閑の二人とは所属するコースが異なる篠原とフェルマーは、篠原が彼らと同じ部活であると言う所からよく顔を合わせていた。フェルマー曰く「コースは違うけど一年で浮いてるもの同士仲良くなる余地めちゃくちゃあるよね」と言う関係性で。
1706廊下に立つ篠原浩介は呼びに行った相手が居る教室から聞こえてきたその言葉を耳にして、少しの違和感に首を傾げた。隣に立つヴィンツェンツ・S・フェルマーはそんな篠原の仕草と、聴こえて来た言葉にどこか楽しそうな笑い声を小さく漏らす。
「ねぇ、コースケ。ヒロミがアマネの事呼び捨てにしてるよ」
「え? あぁ、違和感そこか。何かアイツら無駄に距離近いよな……」
汐見と空閑の二人とは所属するコースが異なる篠原とフェルマーは、篠原が彼らと同じ部活であると言う所からよく顔を合わせていた。フェルマー曰く「コースは違うけど一年で浮いてるもの同士仲良くなる余地めちゃくちゃあるよね」と言う関係性で。
狭山くん
TRAINING2022-06-03/800字チャレンジって言って800字で収まった試しがない……デイリー空閑汐♂3日目。空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:03 入学式から数週間、空閑は目の前にある背中を飽きもせず眺めていた。あからさまに入学時の成績順と分かる席順で、空閑は最後列窓際という特等席を手にしていた。その前に座るのは、次席入学だという汐見である。
――相変わらず、姿勢がいいなぁ。
しゃんと伸ばされた背筋は、他を寄せ付けないような近付き難い空気をも纏っていたが空閑にはそれすらも関係ない。
入学式前、新入生の入寮が開始した途端に寮生活を始めた空閑と汐見は他のクラスメイト達よりも少しだけ寮内の先輩達や別クラスに居る同期数人との交流を持っていた上――無事汐見が所属する剣道部に入部を果たした空閑は、大体の時間を汐見と共に行動していたからか彼の態度が単なる人付き合いの下手さから来るものである事を知ったのだ。
1157――相変わらず、姿勢がいいなぁ。
しゃんと伸ばされた背筋は、他を寄せ付けないような近付き難い空気をも纏っていたが空閑にはそれすらも関係ない。
入学式前、新入生の入寮が開始した途端に寮生活を始めた空閑と汐見は他のクラスメイト達よりも少しだけ寮内の先輩達や別クラスに居る同期数人との交流を持っていた上――無事汐見が所属する剣道部に入部を果たした空閑は、大体の時間を汐見と共に行動していたからか彼の態度が単なる人付き合いの下手さから来るものである事を知ったのだ。
狭山くん
TRAINING2022-06-01/空閑汐♂で800字を量産したいフェアをはじめます。800字と言いながら900字超えました。前後200字は誤差が合言葉(酷い)空閑汐♂デイリー800字チャレンジ:01「あぁ、同室か」
ボストンバッグ一つ肩に下げ、その部屋に足を踏み入れた空閑の目の前に座った――より詳しく言えば、部屋を二分するように中央に置かれたベッドの下段に腰掛け文庫本を開いていた青年が、その手の本をパタンと閉じながら入り口に立ったままの空閑へと声を投げる。
「確か、空閑だったか」
「うん、クガヒロミ。ええと、汐見くんだったよね」
淡々と言葉を紡ぐ青年へ頷いた空閑は、入り口に貼られた名札を思い返しながら問いかける。その言葉に頷いた青年――汐見は「シオミアマネ」とその名を名乗った。
「入寮開始は昨日だっけど、入学式までは日があるよね? 昨日から来てたの?」
窓際のデスクがすっかり汐見の私物に囲まれてる様を見ながら、空閑は自身が先に送っていた段ボール数箱が積まれたその上にボストンバッグを載せ汐見へと問いかける。
944ボストンバッグ一つ肩に下げ、その部屋に足を踏み入れた空閑の目の前に座った――より詳しく言えば、部屋を二分するように中央に置かれたベッドの下段に腰掛け文庫本を開いていた青年が、その手の本をパタンと閉じながら入り口に立ったままの空閑へと声を投げる。
「確か、空閑だったか」
「うん、クガヒロミ。ええと、汐見くんだったよね」
淡々と言葉を紡ぐ青年へ頷いた空閑は、入り口に貼られた名札を思い返しながら問いかける。その言葉に頷いた青年――汐見は「シオミアマネ」とその名を名乗った。
「入寮開始は昨日だっけど、入学式までは日があるよね? 昨日から来てたの?」
窓際のデスクがすっかり汐見の私物に囲まれてる様を見ながら、空閑は自身が先に送っていた段ボール数箱が積まれたその上にボストンバッグを載せ汐見へと問いかける。
狭山くん
MOURNING2021-11-25/もしもの空閑汐♂シェルツ♀の出会い。普段の静かな海〜の人達とは一部の性別が逆転してたり名前が変わったり職業がちょっと変わったりしてます。そもそも空閑が生きてるし。What if「飲み物は何がいい? コーヒー? 紅茶? ココアもあるよ?」
「あ、コーヒーでお願いします」
「オッケー。砂糖とミルクは要るか?」
「えっと、お願いします」
口々に問いかける男達に言葉を返せば、よしきた。とソファから一人の男が腰を上げてキッチンへと向かう。その姿を見送りながら、ハンナ・シェルツは困惑していた。ハンナの前にはキッチンへと向かった男とは別にもう一人の男が残されていた。彼は人好きのする笑みを浮かべたままで「アマネの淹れるコーヒー、めちゃくちゃ美味しいんだよ」とハンナへと楽しそうに告げるのだ。
――何がどうして、こうなったんだっけ。
ニコニコと笑みを浮かべたままの男へ、にこりと笑みを浮かべるハンナの口元は引き攣っていた。そして彼女はこの場所に至るまでの出来事を思い返すのだ。
5442「あ、コーヒーでお願いします」
「オッケー。砂糖とミルクは要るか?」
「えっと、お願いします」
口々に問いかける男達に言葉を返せば、よしきた。とソファから一人の男が腰を上げてキッチンへと向かう。その姿を見送りながら、ハンナ・シェルツは困惑していた。ハンナの前にはキッチンへと向かった男とは別にもう一人の男が残されていた。彼は人好きのする笑みを浮かべたままで「アマネの淹れるコーヒー、めちゃくちゃ美味しいんだよ」とハンナへと楽しそうに告げるのだ。
――何がどうして、こうなったんだっけ。
ニコニコと笑みを浮かべたままの男へ、にこりと笑みを浮かべるハンナの口元は引き攣っていた。そして彼女はこの場所に至るまでの出来事を思い返すのだ。