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    狐の嫁入り

    スガ🦀

    TRAINING狐の嫁入り(2)(楽ヤマ)「子種……」
    「そう、子種。八乙女家次期当主の子種」
    「俺の…子種…」
    楽はそれ以上何も言えなくて、言われた事を鸚鵡みたいに返すしか出来なかった。
    「一応、お宅とは利害関係があるわけよ。お宅の無病息災、家内安全、商売繁盛を願う代わりにお宅の当主の子種を頂くと」
    「……人間と狐の子を作るというのか…?」
    狐はすっかり白無垢を着崩し、足を出して胡座をかいている。上座に置かれた御神酒を手に取り、三三九度の用の盃に注いでいた。わぁ、いい酒だ、流石八乙女家と言いながらぐいぐい飲んでいく。楽もこの状況に馴染むためにも…と同じように御神酒に手を伸ばしたところで狐が止める。
    「やめといた方がいいんじゃない…?」
    「何でだ」
    元々は家のものだぞ、と言いかけたところで狐が少し寂しそうに告げる。
    「…お前さん、ちゃんとヒトの嫁を貰うだろ?こんなところで狐と祝言みたいな事しちゃだめだ」
    「……」
    そう言うのであれば、と手を引いた。先程の話の続きをしなくてはいけない。
    「で、どうして俺の子種が必要なんだ?」
    「…純血種だけだと血が濃くなりすぎる…あと、この家からは妖力の高い子が産まれやすい…らしい。もう長いこと 1897

    スガ🦀

    TRAINING狐の嫁入り(楽ヤマ)楽はこの八乙女家の現代にそぐわない仕来りを自分の代で終わらせるつもりでいた。
    『八乙女家には狐が嫁入りしている』
    22歳になる日、八乙女家の嫡男は狐を嫁として迎える。家の一番奥のお狐様の部屋に婚礼衣装で入り一晩過ごす。狐は八乙女家の嫁となり次の代まで繁栄を約束される。『狐』がどんな者なのか、どんな物なのか当主となる者しか知らず楽もまた父に儀式の事だけ教えられ、その姿はついぞ見た事がなかった。
    八乙女家の「正妻」は代々狐で、実際には人間の女性が子を成している。楽もそうだった。母親は楽が15の時に家を出た。時折、世間で言う離婚となる代がある。狐の嫉妬では無いかと言われる事もあった。そもそも女性にも狐にも失礼ではないか、と楽はずっと思っていてこんな馬鹿げた事は自分で終わらせるつもりだった。
    ーーーとうとうその日がやってきた。新しく設えた紋付袴に身を包み、自分の家なのに始めて踏み入れる奥の座敷。
    蝋燭の灯だけでその座敷まで行くと襖を開ける。
    そこには白無垢に身を包んだ人の形に近い何かがいた。

    「……狐…か」
    声にして問うと、人語を理解出来るのか綿帽子が微かに動いた。
    「……よろしくお願いいた 1127