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    iria

    DONE週ライお題 「乱反射」「制汗剤」をお借りした小説
     早朝の人気のない電車内。簓はイヤホンから流れる音楽をぼうっと聞き流しながら、肩にもたれかかっている盧笙の重みを感じていた。昨夜は緊張と興奮とでなかなか寝付けなかったと言っていたが、簓も同じようなものだった。なんせ初めてのテレビロケだ。無理もない。
     他県の海水浴場に設置された海上アスレチックに向かうため、二人して始発の電車に乗り込んだ。最寄駅からロケ地までは片道四、五時間かかる。海上アスレチックを体当たりでレポートするロケは、関西でのみ放送されるローカル局の深夜番組内で放送される予定だ。駆け出しの若手芸人に送迎などは勿論なく、今回はマネージャーも別件のため同行しない。交通費だって自腹だ。出演料と比べると決してプラスにはならない。むしろマイナスだ。それでもテレビ出演に変わりはない。小さな深夜帯のローカル番組でも、たった数分のワンコーナーでも、電波に乗って放送される。今回の仕事が次の何かに繋がるかどうか、自分たちにかかっている。そう考えるほど、また緊張感がぶり返してきた。気持ちを落ち着かせるために深く息を吸うと、盧笙の匂いがふわりと混ざった、電車の心地よい揺れに、いつの間にか眠ってしまった相方をじっと見つめる。眼鏡のレンズの奥に、長いまつ毛が朝日でキラキラと光る。先程の緊張とは違う意味合いの鼓動がドキリと混ざった。すぐに気づかないフリをし、手元の進行台本に目を落とす。
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