T.M
DONEあまりに出遅れた海灯祭漫画続きを描きたくなってしまったので、忘れた頃にTwitterフォロワーさん限定で続きを少しずつ公開していきます…!
※続きはほんの少しだけセンシティブ(予定)
2022.3.2 英訳追加しました! 7
tam_azusa
DONEお題箱リクエスト『Subの自分が嫌なタルタリヤ』零れおちるコトン、と高い音を奏でながら酒が並々と注がれていた杯がテーブルに転がった。上質な酒の品の良い香りが卓上に広まり、鼻腔から脳内まで染みてくる。
「公子殿?」
どうかしたのかと、異変を感じ取った硬い声音に震えそうになる肩を、卓の下に隠れた拳を握りしめて堪えようとした。
自分が男性性だけではなくSubの性を持っていると判明したのは少年から戦士へと変貌して数年が経ってからだ。戦いの世界に身を置き己を鍛えることに熱心な男にとって、かの性が持つ被虐の衝動など鍛練の合間に発散されてしまうものだったのだ――つい最近までは。
なまじ肉体も精神も並外れた強度を手に入れてしまった戦士ではそこらのDomで満足することもなく、時折溜まりそうになる欲求も抑制薬で散らしてしまえた。だから『公子』タルタリヤがダイナミクスであることに苦労したことはない。
2495「公子殿?」
どうかしたのかと、異変を感じ取った硬い声音に震えそうになる肩を、卓の下に隠れた拳を握りしめて堪えようとした。
自分が男性性だけではなくSubの性を持っていると判明したのは少年から戦士へと変貌して数年が経ってからだ。戦いの世界に身を置き己を鍛えることに熱心な男にとって、かの性が持つ被虐の衝動など鍛練の合間に発散されてしまうものだったのだ――つい最近までは。
なまじ肉体も精神も並外れた強度を手に入れてしまった戦士ではそこらのDomで満足することもなく、時折溜まりそうになる欲求も抑制薬で散らしてしまえた。だから『公子』タルタリヤがダイナミクスであることに苦労したことはない。
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MAIKING初心なタルが初心なくせに先生と軽率な契約を結んでドツボにハマる鍾タルの話 のつづき初心なタル② 斯くして、鍾離とタルタリヤの奇妙な契約関係が始まった。
案の定と言うべきか、その後もタルタリヤは挨拶をするような気軽さで鍾離と接吻を交わした。待ち合わせ場所に現れたとき、三杯酔で酒を酌み交わしているとき、別れ際の余韻に乗じて「せーんせ、今日の分」と児戯のように唇を触れさせる。確かにスネージナヤには唇を寄せて挨拶をする習慣があるようだが、それはあくまで頬にであって断じて唇にではないはずだ。しかし、そんなことをこの男に言ったところで犬に論語なのだろうなと、タルタリヤの接吻を受けながら鍾離は薄ぼんやりと考えた。
別に、それならそれで構わない。元より、到底達成不可能な条件を提示して諦めさせようという魂胆でもない。そのつもりなら接吻などと生温いことは言わずに、体の一つでも要求した方が手っ取り早かっただろう(今のタルタリヤの様子を見るに、それでも簡単に股を開きそうなところはあるが……)。
4869案の定と言うべきか、その後もタルタリヤは挨拶をするような気軽さで鍾離と接吻を交わした。待ち合わせ場所に現れたとき、三杯酔で酒を酌み交わしているとき、別れ際の余韻に乗じて「せーんせ、今日の分」と児戯のように唇を触れさせる。確かにスネージナヤには唇を寄せて挨拶をする習慣があるようだが、それはあくまで頬にであって断じて唇にではないはずだ。しかし、そんなことをこの男に言ったところで犬に論語なのだろうなと、タルタリヤの接吻を受けながら鍾離は薄ぼんやりと考えた。
別に、それならそれで構わない。元より、到底達成不可能な条件を提示して諦めさせようという魂胆でもない。そのつもりなら接吻などと生温いことは言わずに、体の一つでも要求した方が手っ取り早かっただろう(今のタルタリヤの様子を見るに、それでも簡単に股を開きそうなところはあるが……)。
のくたの諸々倉庫
PROGRESS終わる気がしないあるいは喝采、そして慟哭(1) 璃月港のまっただなかに、死んだ男が落ちてきた。
——否、死んだ「はずの」男が落ちてきた、という表現が正しいだろうか。脳内の半分を占める現実逃避と共に、ものの見事に地面へと叩きつけられたらしい男へと手を伸ばす。しかし触れた頬は、冷たい。
「……そうか、やはり再会は……このような形で、か」
分かっていた。今ここに落ちてきた理由こそ知らないが、胸の奥で何かがひび割れる音を聞く。落下の音を聞きつけてか、集まってきた人々の声もどこか、遠い。
「うわ、ここどこ!? あっ璃月港か」
しかし直後、ばちりと開かれた深海の瞳。起きあがろうとして失敗したのか、顔を歪めてもがいている。
……彼が今感じている、痛みというものは生命活動において最も重要な感覚だった。つまりそれは、彼の命がまだ続いていることを意味する。
3402——否、死んだ「はずの」男が落ちてきた、という表現が正しいだろうか。脳内の半分を占める現実逃避と共に、ものの見事に地面へと叩きつけられたらしい男へと手を伸ばす。しかし触れた頬は、冷たい。
「……そうか、やはり再会は……このような形で、か」
分かっていた。今ここに落ちてきた理由こそ知らないが、胸の奥で何かがひび割れる音を聞く。落下の音を聞きつけてか、集まってきた人々の声もどこか、遠い。
「うわ、ここどこ!? あっ璃月港か」
しかし直後、ばちりと開かれた深海の瞳。起きあがろうとして失敗したのか、顔を歪めてもがいている。
……彼が今感じている、痛みというものは生命活動において最も重要な感覚だった。つまりそれは、彼の命がまだ続いていることを意味する。
のくたの諸々倉庫
DONE頭打った先生×暴力ヒロインノリのタル※右手はしばらく死んでいた ──鍾離が頭を強く打った。命に別状はないようだが、お前の名前を連呼しているから会いに来い。
その日タルタリヤに届いたのは、簡潔にまとめれば、そのような内容の連絡だった。
「え、嫌だけど?」
しかしタルタリヤは動かなかった。明らかに面倒ごとの気配がする。加えて鍾離が頭を打っておかしくなる程度の存在なら、元より興味などないのだから──と、届いた連絡を無視して、雑務書類にペンを走らせる。
……まあ、残念ながらタルタリヤの予想は半分当たりで半分外れだった。
「公子殿!」
「うぇえ!?」
いつの間に北国銀行まで乗り込んできたのか、執務室のドアが容赦なく開かれた。目を向けない、という選択肢はさすがにない。けれどすぐ、そちらに視線をやったことを後悔した。
2787その日タルタリヤに届いたのは、簡潔にまとめれば、そのような内容の連絡だった。
「え、嫌だけど?」
しかしタルタリヤは動かなかった。明らかに面倒ごとの気配がする。加えて鍾離が頭を打っておかしくなる程度の存在なら、元より興味などないのだから──と、届いた連絡を無視して、雑務書類にペンを走らせる。
……まあ、残念ながらタルタリヤの予想は半分当たりで半分外れだった。
「公子殿!」
「うぇえ!?」
いつの間に北国銀行まで乗り込んできたのか、執務室のドアが容赦なく開かれた。目を向けない、という選択肢はさすがにない。けれどすぐ、そちらに視線をやったことを後悔した。
のくたの諸々倉庫
DONE鍾タルワンライお題「俺のもの」「もう待てない」 璃月に限らず、港の朝は早い。やけに早く目が覚めてしまって、埠頭をうろついていれば見慣れた背中を見た。
「あ、おはよう公子野郎! 突然だけどよ、誰かに言われてドキッとするセリフとかないか?」
「……確かに随分と唐突だね、どうしたのかなおチビちゃん」
「あー……それがね、別の世界にある恋愛小説の話をしたら、パイモンすごく盛り上がっちゃって」
ぴょんぴょん、くるくる宙を舞う少女の隣、苦笑するのは旅人だ。ふむ、と顎に手を当て考えてみる。
「……もう待てない、こいつは俺のものだ、とかかなあ。もちろん相手が強敵であることに限るけどね!」
そりゃそうか、という反応。当たり前である。タルタリヤがときめくのはいつだって強者との闘いであり、俺が焦がれるのは強者との出会い。つまりはそういうことだった。
1917「あ、おはよう公子野郎! 突然だけどよ、誰かに言われてドキッとするセリフとかないか?」
「……確かに随分と唐突だね、どうしたのかなおチビちゃん」
「あー……それがね、別の世界にある恋愛小説の話をしたら、パイモンすごく盛り上がっちゃって」
ぴょんぴょん、くるくる宙を舞う少女の隣、苦笑するのは旅人だ。ふむ、と顎に手を当て考えてみる。
「……もう待てない、こいつは俺のものだ、とかかなあ。もちろん相手が強敵であることに限るけどね!」
そりゃそうか、という反応。当たり前である。タルタリヤがときめくのはいつだって強者との闘いであり、俺が焦がれるのは強者との出会い。つまりはそういうことだった。