冷や酒🍶
DONEおしまい!偽装婚カヲシン⑲離れて一日しか経ってないのに、ずっとカヲルさんのことを考えてた。こんな所に来たことが叔父にバレたらカヲルさんが訴えられてしまうとか、色々あるのに。迷惑かけたくなくてせっかく決心して出てきたのに……。
どうして。どうして、嬉しい気持ちの方が大きいんだろう。はやく逢いたい。抱きしめたい。抱きしめられたい。だけど今の僕はカヲルさんの婚約者じゃない、赤の他人なんだ。無意識に触れた左手の薬指が寂しいかった。もう僕には必要のないものを探してしまう。
教室から追い出されてしまったから、下校しないといけなくて。僕は鞄を手に重い足取りで一階に向かった。靴箱が並ぶ出入口は人でごった返していた。下校する生徒だけじゃない。彼らの視線は外に向かっている。目的は多分、校門前に立っている人。
14025どうして。どうして、嬉しい気持ちの方が大きいんだろう。はやく逢いたい。抱きしめたい。抱きしめられたい。だけど今の僕はカヲルさんの婚約者じゃない、赤の他人なんだ。無意識に触れた左手の薬指が寂しいかった。もう僕には必要のないものを探してしまう。
教室から追い出されてしまったから、下校しないといけなくて。僕は鞄を手に重い足取りで一階に向かった。靴箱が並ぶ出入口は人でごった返していた。下校する生徒だけじゃない。彼らの視線は外に向かっている。目的は多分、校門前に立っている人。
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PROGRESSがんばれ🔥がんばれ🔥偽装婚カヲシン⑱幸せは長く続かない。そんなの誰だって知ってるし、長い人生だから良い時も悪い時もあるってことくらい僕の歳でも理解出来る。いつ壊れるか分からない薄氷を履むようなカヲルさんとの生活は僕の予想通り、呆気なく終了を迎えることになった。
たった一本の電話によって。
いつものようにリビングに響く電話の電子音に反応した僕は特に警戒することも無く電話に出た。前回の件でこの家の電話番号を知っているのはカヲルさんと、その直属の部下の人だけだと聞いたからだ。だから油断していた。カヲルさんとの生活に満たされ過ぎていたから。
「はい。渚です」
「……その声、シンジか?」
声を聞いた瞬間、ふわふわお花畑だった幸せな世界が一変した。ああ、そうか、終わりが来たんだ。そう思った。電話番号をどうやって知ったのか不明だけれど、見つかってしまったということだけは確かだ。
4742たった一本の電話によって。
いつものようにリビングに響く電話の電子音に反応した僕は特に警戒することも無く電話に出た。前回の件でこの家の電話番号を知っているのはカヲルさんと、その直属の部下の人だけだと聞いたからだ。だから油断していた。カヲルさんとの生活に満たされ過ぎていたから。
「はい。渚です」
「……その声、シンジか?」
声を聞いた瞬間、ふわふわお花畑だった幸せな世界が一変した。ああ、そうか、終わりが来たんだ。そう思った。電話番号をどうやって知ったのか不明だけれど、見つかってしまったということだけは確かだ。
冷や酒🍶
PROGRESSえちなし。偽装婚カヲシン⑯あのホテルの一件から三日。
あの後、何事もなく僕はまたカヲルさんの家にいる。家出して一週間経ったけれど、特に問題はなかった。カヲルさんの家から全く出ることがないから、見つかる心配はない。
家政婦さんもカヲルさんに頼み込んで雇うのをやめてもらったので、カヲルさんが仕事でいない間は専ら家事をしていた。家は広いから掃除のしがいがあるし、洗濯も二人分で高価な物はクリーニングに出して貰えばいい。
料理は普通、だと思うけど初めて作って食べてもらった時「すごく美味しいよ」って笑ってくれてたから多分、平気。買い物も僕が行けたら良かったんだけど、見つかりたくないから諦めた。だから買い物だけはカヲルさんにやってもらっている。
8574あの後、何事もなく僕はまたカヲルさんの家にいる。家出して一週間経ったけれど、特に問題はなかった。カヲルさんの家から全く出ることがないから、見つかる心配はない。
家政婦さんもカヲルさんに頼み込んで雇うのをやめてもらったので、カヲルさんが仕事でいない間は専ら家事をしていた。家は広いから掃除のしがいがあるし、洗濯も二人分で高価な物はクリーニングに出して貰えばいい。
料理は普通、だと思うけど初めて作って食べてもらった時「すごく美味しいよ」って笑ってくれてたから多分、平気。買い物も僕が行けたら良かったんだけど、見つかりたくないから諦めた。だから買い物だけはカヲルさんにやってもらっている。
冷や酒🍶
PROGRESSちょっとまとめておく偽装婚カヲシン⑪どうしてこんなことになっちゃったんだろう。ちらりと視線を上げれば楽しそうに談笑する人達が見える。人目を避けるようにして柱の陰に隠れた僕は、目の前で繰り広げられている煌びやかな光景に震え上がっていた。
まるで別世界に入り込んでしまったみたいだ。広い吹き抜けのホールの中央では華やかなドレスやスーツを着込んだ人々が生演奏で楽しそうにダンスを踊っていた。踊っていない人達もお酒の入ったグラスを手にしてお喋りに夢中になっている。
ここはどこ? そんな中に、たった一人で放り込まれた僕は泣きそうだった。
「……かえりたい……」
どうして僕はここにいるんだろう? 僕はただカヲルさんと一緒に迎えに来た車に乗ってお祖父さんに挨拶をしに来ただけなのに。サングラスをしてた銀髪のお祖父さんに挨拶をして……僕はほとんど喋れなくてカヲルさんの横に立ってただけだったけど。
7733まるで別世界に入り込んでしまったみたいだ。広い吹き抜けのホールの中央では華やかなドレスやスーツを着込んだ人々が生演奏で楽しそうにダンスを踊っていた。踊っていない人達もお酒の入ったグラスを手にしてお喋りに夢中になっている。
ここはどこ? そんな中に、たった一人で放り込まれた僕は泣きそうだった。
「……かえりたい……」
どうして僕はここにいるんだろう? 僕はただカヲルさんと一緒に迎えに来た車に乗ってお祖父さんに挨拶をしに来ただけなのに。サングラスをしてた銀髪のお祖父さんに挨拶をして……僕はほとんど喋れなくてカヲルさんの横に立ってただけだったけど。
冷や酒🍶
PROGRESS💍偽装婚カヲシン⑩「荷物が届いたら、また声をかけるから休んでいていいよ」
カヲルさんの言葉の通り、それから三時間後くらいに起こされた。寝る気はなかったんだけど、やっぱり疲れていたみたいでカヲルさんが部屋から出ていってからすぐに寝てしまったらしい。頬をつんつん啄かれる感触で目が覚めた。
ハッと目を見開くと真上にカヲルさんの顔があって驚く。だから距離が近いんだって……寝起きに超絶美形は心臓に悪すぎだよ。ドキドキしながら布団で顔を隠した僕を見てカヲルさんが笑った。
「よく寝ていたね。荷物が届いたんだけど起きれるかい? 手伝おうか?」
「じ、自分でっ! ……起きますから!」
「遠慮しなくていいのに」
急いで起き上がった僕に向かって、カヲルさんは残念そうに笑いながら手を伸ばした。過保護過ぎて恥ずかしい。だけど、悪い気はしなかった。だって身体が不調な原因の半分はカヲルさんだし……。差し出された手を取ると物凄く嬉しそうな顔をされたから。
5329カヲルさんの言葉の通り、それから三時間後くらいに起こされた。寝る気はなかったんだけど、やっぱり疲れていたみたいでカヲルさんが部屋から出ていってからすぐに寝てしまったらしい。頬をつんつん啄かれる感触で目が覚めた。
ハッと目を見開くと真上にカヲルさんの顔があって驚く。だから距離が近いんだって……寝起きに超絶美形は心臓に悪すぎだよ。ドキドキしながら布団で顔を隠した僕を見てカヲルさんが笑った。
「よく寝ていたね。荷物が届いたんだけど起きれるかい? 手伝おうか?」
「じ、自分でっ! ……起きますから!」
「遠慮しなくていいのに」
急いで起き上がった僕に向かって、カヲルさんは残念そうに笑いながら手を伸ばした。過保護過ぎて恥ずかしい。だけど、悪い気はしなかった。だって身体が不調な原因の半分はカヲルさんだし……。差し出された手を取ると物凄く嬉しそうな顔をされたから。
冷や酒🍶
PROGRESSまたイチャイチャしてる……偽装婚カヲシン⑨丸まって眠るのは僕の癖だった。今の自分には安心して眠れる場所がないからなのかは分からない。ただ、丸くなって眠ると少しは安心出来たんだ。いつも寝ている狭くて古い布団はひんやりと冷たくて、こうやって寝ないと暖が取れなかったから。
「…………ん……」
だけど、今日は何か変な気がする。寝心地が異様に良かった。頬に当たる枕みたいなのからはシトラスのいい匂いがするし、身体を包み込む布団も軽くて柔らかかった。
何よりも身体が温かい。自分と似たような体温に触れているみたいなそんな感じ。いつもの布団じゃありえない。頭の中では変だ、と思い始めていた。でも温かくて、気持ちいい。
小さい頃、母さんと一緒に寝ていた時みたいな感じによく似てる。それに何となく身体が重いような気がして違和感があった。寝不足だったから、もう少し寝ていたかった僕は指先に触れていた布をぎゅっと握り締めた。
7880「…………ん……」
だけど、今日は何か変な気がする。寝心地が異様に良かった。頬に当たる枕みたいなのからはシトラスのいい匂いがするし、身体を包み込む布団も軽くて柔らかかった。
何よりも身体が温かい。自分と似たような体温に触れているみたいなそんな感じ。いつもの布団じゃありえない。頭の中では変だ、と思い始めていた。でも温かくて、気持ちいい。
小さい頃、母さんと一緒に寝ていた時みたいな感じによく似てる。それに何となく身体が重いような気がして違和感があった。寝不足だったから、もう少し寝ていたかった僕は指先に触れていた布をぎゅっと握り締めた。
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PROGRESS次からようやっと🔞になります偽装婚カヲシン④あったかい。ぼんやりとした意識の中で、僕は全身を包み込む温もりを感じていた。お風呂上がり、そのまま寝てしまったせいで冷えた身体。それを温めるようと丸くなる背中を誰かに撫でられている。
誰かって、誰? この世に僕を抱きしめてくれるような人はもういないのに。母さんも父さんももういなくて、親戚にも捨てられた。
……僕は独りだ。でも、辛くなんてない。一人でいることにはもう慣れたから。それなのに、どうしてか目の辺りが熱くなる。寝ているのか起きているのか、はっきりとしない意識の中。僕は溢れてくる涙の存在を感じた。
「……泣いているのかい?」
知らない人の声。それから頬を撫でていく感触に、僕は夢から現実にゆっくりと戻ってきた。重たいままの瞼を持ち上げると、仄かな明かりの中に人の姿が映る。僕を覗き込んでくる赤い目がきらきらして綺麗だと思った。
5053誰かって、誰? この世に僕を抱きしめてくれるような人はもういないのに。母さんも父さんももういなくて、親戚にも捨てられた。
……僕は独りだ。でも、辛くなんてない。一人でいることにはもう慣れたから。それなのに、どうしてか目の辺りが熱くなる。寝ているのか起きているのか、はっきりとしない意識の中。僕は溢れてくる涙の存在を感じた。
「……泣いているのかい?」
知らない人の声。それから頬を撫でていく感触に、僕は夢から現実にゆっくりと戻ってきた。重たいままの瞼を持ち上げると、仄かな明かりの中に人の姿が映る。僕を覗き込んでくる赤い目がきらきらして綺麗だと思った。
冷や酒🍶
PROGRESSまだ続きそう。偽装婚カヲシン③指を絡ませるように握り込まれて、僕の心臓が驚きと羞恥できゅっとなった。冷静でいなくちゃいけないのに顔も熱くなった気がする。
「なっ、渚さんの、そういう所がいけないんだと思う」
「何がだい?」
含みのある笑顔を向け、絡んだ指をすりすりと擦り合わせながら渚さんが言った。本当にわかってないはずがない。その目は相手の反応をしっかりと確認している。
「結婚なんてする気ないくせに。……こんなふうに触れられたら女の人は本気にしちゃいますよ。僕は、勘違いなんてしませんけど……」
「君とは結婚するつもりだけど、それでもダメなのかい?」
「本当に、じゃないでしょう」
この契約がいつまで続くかは分からないけど、僕は渚さんを好きになったりしない。今の所、僕の恋愛対象は女の子だし。いくら渚さんが格好良くて素敵な人だとしても、別れることが決まっているのに好きになるなんて身の程知らずの馬鹿のすることだ。歳だって十五も離れている子供が相手にされるわけない。
4184「なっ、渚さんの、そういう所がいけないんだと思う」
「何がだい?」
含みのある笑顔を向け、絡んだ指をすりすりと擦り合わせながら渚さんが言った。本当にわかってないはずがない。その目は相手の反応をしっかりと確認している。
「結婚なんてする気ないくせに。……こんなふうに触れられたら女の人は本気にしちゃいますよ。僕は、勘違いなんてしませんけど……」
「君とは結婚するつもりだけど、それでもダメなのかい?」
「本当に、じゃないでしょう」
この契約がいつまで続くかは分からないけど、僕は渚さんを好きになったりしない。今の所、僕の恋愛対象は女の子だし。いくら渚さんが格好良くて素敵な人だとしても、別れることが決まっているのに好きになるなんて身の程知らずの馬鹿のすることだ。歳だって十五も離れている子供が相手にされるわけない。
冷や酒🍶
PROGRESS短編のはずなんですけど偽装婚カヲシン②当然そんな相手は存在しない。すぐに偽の婚約者を探そうと考えたが、そんなに簡単に見つかるわけがなかった。理由は簡単。彼がお金持ちの美男子だったから。
一目見れば記憶に刻まれる類稀な美貌に、本気にならない者はいない。きちんと条件を提示しても同じだった。本当に結婚するつもりはない彼にとって、本気で結婚を迫る婚約者など必要なかった。
必要なのは彼に惚れず大人しく報酬を受け取って、用が済めばすぐに別れてくれる偽の婚約者。それが女でも男でも構わない。歳が離れていようとも。行き詰まり、いよいよ追い込まれた彼がとった行動の結果が今の状況だ。
だからって家出少年を偽の婚約者にするとか、すっごく変。確かに僕は帰る場所がなくて、お金にも、彼自身にも今の所興味はないかもしれないけど。
5106一目見れば記憶に刻まれる類稀な美貌に、本気にならない者はいない。きちんと条件を提示しても同じだった。本当に結婚するつもりはない彼にとって、本気で結婚を迫る婚約者など必要なかった。
必要なのは彼に惚れず大人しく報酬を受け取って、用が済めばすぐに別れてくれる偽の婚約者。それが女でも男でも構わない。歳が離れていようとも。行き詰まり、いよいよ追い込まれた彼がとった行動の結果が今の状況だ。
だからって家出少年を偽の婚約者にするとか、すっごく変。確かに僕は帰る場所がなくて、お金にも、彼自身にも今の所興味はないかもしれないけど。
冷や酒🍶
PROGRESS結婚から始まるカヲシンっていいよね【庵カヲシン】
偽装婚カヲシン①数年前両親が交通事故で他界した。当時小学生だった僕は親戚の家で生活することになる。引き取ってくれたことには感謝していたけれど、実際は家族と言うよりは小さな頃から家事を手伝っていたこともあり、家政婦のような扱いをされていた。
それでも邪険にされないだけでもマシだと思う。けれど僕が中学二年になった時、叔父の事業が失敗してしまい多額の借金を背負うことになってしまった。
昔、叔父たちが話しているのを聞いたことがある。もともと僕の両親が残したお金を、後見人になった叔父が勝手に使ってたらしい。一応後見人だし、身内だし、世話になってたからそのことは仕方ないと諦めてたんだけど……。
そしてついに借金返済出来ず、叔父の会社が大手企業に買収されることになった。叔父は職を失い、住む場所も追い出されるかと思ったんだけど、何故かそのままの役職で会社に残ることが許された。
4947それでも邪険にされないだけでもマシだと思う。けれど僕が中学二年になった時、叔父の事業が失敗してしまい多額の借金を背負うことになってしまった。
昔、叔父たちが話しているのを聞いたことがある。もともと僕の両親が残したお金を、後見人になった叔父が勝手に使ってたらしい。一応後見人だし、身内だし、世話になってたからそのことは仕方ないと諦めてたんだけど……。
そしてついに借金返済出来ず、叔父の会社が大手企業に買収されることになった。叔父は職を失い、住む場所も追い出されるかと思ったんだけど、何故かそのままの役職で会社に残ることが許された。