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    冷や酒🍶

    @hiyazakeumai

    カヲシンとか書いてる

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    冷や酒🍶

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    またイチャイチャしてる……

    #偽装婚
    shamMarriage

    偽装婚カヲシン⑨丸まって眠るのは僕の癖だった。今の自分には安心して眠れる場所がないからなのかは分からない。ただ、丸くなって眠ると少しは安心出来たんだ。いつも寝ている狭くて古い布団はひんやりと冷たくて、こうやって寝ないと暖が取れなかったから。
    「…………ん……」
    だけど、今日は何か変な気がする。寝心地が異様に良かった。頬に当たる枕みたいなのからはシトラスのいい匂いがするし、身体を包み込む布団も軽くて柔らかかった。
    何よりも身体が温かい。自分と似たような体温に触れているみたいなそんな感じ。いつもの布団じゃありえない。頭の中では変だ、と思い始めていた。でも温かくて、気持ちいい。
    小さい頃、母さんと一緒に寝ていた時みたいな感じによく似てる。それに何となく身体が重いような気がして違和感があった。寝不足だったから、もう少し寝ていたかった僕は指先に触れていた布をぎゅっと握り締めた。
    やっぱり、僕の隣には何かあるようだ。何だろう。ちょっと前にも同じようなことがあった気がする。本当に……つい、この間。頬をすりっと撫でられる感触に僕はハッとして目を見開いた。
    「……おはよう。シンジ君」
    霧がかかったみたいに重かった意識が、一瞬で晴れていく。僕を見つめる鮮やかな赤色は至近距離で見るには心臓に悪すぎた。ゆっくりと瞬く瞳に胸がざわつく。
    手に力が入って今まで無意識に握りしめていたのがカヲルさんのパジャマだったことに気づく。咄嗟に距離を取ろうと手を突っ張ってみたけど、背中に回っていた腕に止められてしまった。
    「どうしたんだい? 急に暴れるとベッドから落ちてしまうよ」
    「い、いや……あの……」
    頭の中に昨夜の出来事が鮮明に浮かび上がって、僕の顔面は一瞬で真っ赤に染った。残念なことに、都合よく記憶が飛ぶとかはないらしい。
    訳が分からなくなるくらいに滅茶苦茶に抱かれたのに、彼に何をされたのかも、どれくらい気持ちよかったのかも、何を喋ったのかも、全部覚えている。
    「もう昼すぎなんだけれど、まだ眠たい?」
    「……いえ、起きます」
    頭を上げた所で、僕の頭の下にあった枕と思っていたものがカヲルさんの腕だったことに気づく。腕枕とか初めてされた。と言うか、他人とこんなに近い距離で寝たのも初めてだ。それにしても普通に枕はあるのになんで腕枕したんだろう。
    こういうの、大人になって恋人が出来たらやるんだろうなと考えてみたことはあるけど。まさかされる側になるとは思わなかった。奇妙な恥ずかしさが沸き起こって顔が熱くなったのを誤魔化そうと僕は身体を起こしてベッドの縁に座る。
    「シンジ君。急に動かない方がいいんじゃないかな」
    「え? 何でですか?」
    「昨日は無理をさせたからね。今日はベッドでゆっくりしていいんだよ?」
    「……っ、大丈夫です」
    身体の至る所が筋肉痛なのは自覚してるけど、動けない訳じゃない。股の間に違和感があって、お尻の辺りがヒリヒリする気がするけど大丈夫。トイレだって行きたいし、お腹も減ったから寝てられないよ。
    ベッドの縁を掴んでいた左手を引き止めるみたいに軽く掴まれた。驚いた僕は勢い良く立ち上がった……つもりで、そのまま床に崩れ落ちる。
    「……あ、え? え??」
    何が起こったの? 冷たいフローリングの感触に目をぱちぱちしていると、背後から両脇を掴まれた。身体が宙に浮いて、ベッドに戻される。自分の身に起きたことに注意が向いていたから、誰に抱えられたのかまで気が回らなかった。
    自分の足を見つめながら呆然としていると、背中に温もりを感じて心臓がドキッと騒いだ。恐る恐る少しだけ振り向くと、すぐ横にカヲルさんの顔が見える。
    「大丈夫かい? 言っただろう。危ないよって」
    「……あの」
    落ちないようにか、腰に回された逞しい腕にドキドキが続く。人肌の温もりは昨晩のことを思い出させて急速に体温を上昇させた。
    危険だ。離れないと。一刻も早く。思い出さなければ少しは冷静でいられたのに、カヲルさんはわざと思い出させそうとしているみたいに触れてくる。呼吸音にさえ反応しそうだ。
    「……っ……僕……と、トイレに行きたいんですけど……足に力が……」
    「そうなんだね。ごめんよ、僕の責任だ。昨夜の君があまりにも可愛くて自制できなかったんだ」
    「え?」
    「激しく求め過ぎてしまったからね」
    耳元で低い声がする。ビクッと跳ねた身体を強く抱き込まれる。この人……絶対、わざとだ。子供の僕をからかって何が楽しいんだろう。
    赤くなった顔を見られたくなくて僕は俯いたまま、どうやってカヲルさんの腕の中から抜け出すかを考えた。視界に映る、逞しい大人の腕はちょっとやそっとじゃ解けそうにない。
    「……あの、カヲルさんっ。僕、本当にトイレに行きたいんですけど……っ」
    「なら、僕が運ぶよ。歩けないんだろう?」
    「え。……い、いいです、っ」
    運ぶと聞いてギクッとした。運ぶって、僕を? 足の感覚はあるけど腰から下に力が入らなくて立てそうにない。原因はカヲルさんかもしれないけど。
    でも運ばれるのは嫌だ。だってこの歳になって抱えられるなんて恥ずかしいじゃないか。ブルブルと首を振るけどカヲルさんは納得していない雰囲気だった。
    「床を這っていくつもりなのかい? 冷えてしまうし、それは賛成出来ないな」
    「あ、うわっ」
    拒否の言葉は聞かなかったことにされてしまったらしい。腰に巻きついた腕がスルスルとお尻の下に移動した。そしてそのまま抱き上げられてしまう。
    向き合うような体勢で、お尻を支えるようにして抱っこされている。お姫様抱っこじゃなかっただけマシかもしれないけどさ。こんなに楽々と抱き上げられてしまって、少なからずショックだったけど。
    逃げられないと早々に諦めた僕はバランスを崩さないようにカヲルさんのパジャマをギュッと握った。目の前にカヲルさんの顔があるから、視線から逃れるように胸元に顔を近づける。
    するとシトラスの匂いに鼻腔を満たされた。格好良い人は匂いまでいい匂いがするのかな。とか、色々と考えることで羞恥心を忘れようと努力するけれど、お尻を支えている手が動いた瞬間、僕は息を飲んだ。
    「……んっ……!」
    カヲルさんの指がお尻の間をパジャマの上からなぞる動きをしているような。気のせい? 気のせいだよね。カヲルさんがそんなことするわけないし。きっと抱え直す拍子に指が当たってしまっただけなんだろう。たくさん触られたせいで、敏感になっている自分の身体のことには気づかないふりをした。
    手を貸そうとするカヲルさんをトイレから追い出して何とかトイレを無事に済ませ、パジャマのズボンを引っ張りあげた僕は内側からドアをノックした。
    本当は迷惑かけたくないんだけど、帰りもカヲルさんの手を借りないと帰れないと分かっていたからだ。鍵を閉めていなかったのでドアはすぐに開いてカヲルさんが姿を現した。
    「もういいのかい?」
    「はい。……あの、連れて帰って貰えますか?」
    「もちろんだよ」
    恥ずかしいのは相変わらずだけれども、ずっとトイレの住人になる訳にもいかないから仕方ないんだ。
    「危ないからしっかり掴まって」
    僕を抱えようとするカヲルさんの手を受け入れて、言われた通りに彼の首に腕を回してしっかりと抱きつく。ちらっと見えた彼の口元が上がっていることに気づいた。
    嬉しそう。何がそんなに嬉しいのか分からないけど。一度抱かれただけで自分で動けなくなって一人でトイレも行けない手間のかかる面倒なヤツだと思われそうなのに。
    「お腹が空いているだろう? 何か食べて今日はゆっくりすると良い」
    「……それならキッチンに」
    連れて行って、と続けようとしたけれど遮るようにカヲルさんが言った。
    「食事の用意は僕がするからシンジ君はベッドで休んでいて。出来上がったら声をかけるよ」
    昼間だから家政婦さんがいるのかと思ったけど、さっきは姿を見かけなかった。カヲルさんの手を煩わせたくないんだけど……。
    自分で何も出来ない状態の僕は何の役にも立てない。拒否権は無いものと考えて、大人しく抱きついているのカヲルさんは本当に僕をベッドまで運んだ。ベッドの上に丁寧に降ろされて、寄れた大きめのパジャマを整えた後しっかりと布団を掛けられた。
    「寝ていていいからね」
    「……はい」
    布団に埋もれる僕の額を指先が優しく撫でる。驚きと擽ったさに目を瞑ると、カヲルさんは「ふふっ」と笑った。僕の短めの前髪に軽く指を絡めてから、部屋から出ていくカヲルさんの背中を見つめる。
    叔父の所に世話になっていた時は、少しでも具合が悪くなったりしたら文句を言われていたな、とか思い出した。家事をするのは僕の役割だったから。
    今ならどうしてあんなに頑張ってたんだろうって思えるけど、両親がいなくなって独りぼっちになった僕の居場所はあそこしかなかったんだ。だから少しでも気に入られたくて必死に家事を覚えた。必要とされる理由が欲しかったんだと思う。あまり意味はなかったけど。
    「………………」
    嫌なことを思い出したせいなのか、身体はとても疲れているのに眠気がどこかに行ってしまった。布団の中は心地良いのに、何か足りないような気もする。耳を澄ませてみると、ドアの向こうから微かに音が聞こえてきた。
    ご飯を作るのにそれほど時間はかからないと思うし起きていようかな。冷蔵庫のおかずをレンジで温めるだけだから。何度かレンジの作動音がして、十分もしないうちにこちらに近づいてくる足音が聞こえた。
    「シンジ君、起きているかい?」
    「起きてます」
    ノック音に身体を起こすのと同じくらいにドアが開いた。片手に食事が載ったトレーを持ったカヲルさんが笑顔で近づいてくる。
    「呼んでくれたら良かったのに……」
    「動けないのに? 今日はベッドで食べていいよ。それともまた運ばれてくれるのかい?」
    「い、いえ」
    ベッドで食事をするなんて、病気や怪我をしている訳でもないのにと罪悪感があった。自分で歩けないのは怪我しているみたいなものだけど、それとはちょっと違うし。
    はい、とトレーを膝の上に置かれたのでそれ以上は断れなかった。こんな時でも身体はとても素直で美味しそうな匂いを噛んだ瞬間に、お腹がぐぅぅっと鳴く。
    トレーにはホカホカの炒飯が盛られたお皿が一つと、ワカメのスープのマグカップが載っていた。美味しそう。でも先に食べちゃっていいのかな。一緒に用意されたスプーンを手に取ろうとして止まった僕をカヲルさんは不思議そうに見ていた。
    「どうしたんだい? 炒飯は嫌いだったかな」
    「う、ううん。そうじゃなくてカヲルさんの分は……」
    「君が食べ終わってから食べるよ。ほら、冷めないうちに食べて」
    「はい」
    遠慮するのも失礼な気がして炒飯を食べた。僕が食べている間、ずぅっと見られてて食べづらい。何かあるのかとカヲルさんを見るけど、視線が合う度に微笑まれてしまうので何も言えなかった。一体何なの。
    「ご馳走様でした」
    結局最後まで見られながら炒飯を食べた。味は美味しかった、と思うんだけどカヲルさんの方が気になってむせそうになるし。何が面白いのか全然余裕わかんなかったよ。
    「あの、僕の顔に何かついてますか?」
    あまりにも長いのでつい聞いてしまった。理由もなしに見つめられるのに耐えられなかったから。何か言ってくれればいいのにカヲルさんは笑みを浮かべたまま、僕の方へと手を伸ばしてくる。動きが止まった僕の口元に指が触れた。
    「……っ」
    見開いた僕の目にはカヲルさんの指先は映らなくて、心臓だけがバクバクと動いていた。指先が唇を撫でる感触に反射的に息が止まる。昨夜のことがフラッシュバックして、全身に鳥肌が立った。
    「……ご飯粒がついているよ、シンジ君」
    「…………あ……」
    微笑みながら指についた米粒を見せてくる。あ、なんだお米か。そうだよね。当たり前だよ。そんな訳ないのに、何考えてるんだろう。僕って馬鹿じゃないか。
    意識し過ぎだし。あんなの一度きりに決まってるのに。………………キス、されるかと思ったなんて、勘違いして恥ずかしい。無駄なことかもしれないけど僕は必死になって平静を取り繕った。
    恋人のふりをするのが僕の役割なんだから普通にしていないといけない。今みたいに触られる度に簡単に赤くなって狼狽えてたら怪しまれちゃうもんね……。だけどいちいち距離が近いカヲルさんにも問題があると思うんだけど。
    「あの……カヲルさん、そう言うのは口、で……」
    勘違いした恥ずかしさから逃れたくて視線を逸らしていた僕は、カヲルさんにちょっと控えて欲しいと言おうと思って勇気を出して顔を上げる。僕の顔に不自然に重なる影。目の前に顔。近いって言おうと思った矢先のことだった。
    「ん ……ふっ、……んぅ!?」
    指で顎を持ち上げられた僕はカヲルさんにキスをされていた。柔らかく触れた唇の感触に驚いて瞬きをする。何でキス? そういう流れだった?
    すぐに離れていったカヲルさんの顔を呆然と見つめながら考えてみたけどわからない。目の前で微笑んでいる人が考えていることは全然理解出来なかったけれど、キスをされたことだけはわかった。
    「あ……あの、なんで……っ」
    両手で口を覆いながらカヲルさんを見る。慣れなきゃとは思ったけど、急にこんなことされて反応しない人なんていないよ。
    「口で取って欲しいって事かと思って、ダメだったかい?」
    「ちっ、違いますよ……っ! くっ……口で言って欲しいって、言いたかったんです」
    「ふふっ、そうなのかい? 吃驚させてごめんね」
    絶対に分かってやったんだ。キスをされるのは、初めてって訳じゃないし嫌じゃないから怒るに怒れない。一応、彼は僕の婚約者だから。キスくらい……へっ、減るものじゃないし。
    「びっくりするから、キス……する時は先に言って欲しいです」
    「そうだね。次からはそうするよ」
    カヲルさんが赤い瞳を細めて笑う。大きな手で頭を撫でられてドキドキしてしまうのは昨夜のことがあるからだ。触られると、どうしても思い出してしまう。
    火照る顔を隠そうとして布団を引き寄せる間に、カヲルさんの指は僕の耳朶を摘んでいた。すりすり触られると擽ったくて声が漏れそうになる。必死に抑えている横から楽しそうな声がした。
    「本当はずっとこうして君と戯れていたいけれど、今日は少し忙しくてね」
    「あっ……そうですよね。すみません、仕事があるのに面倒をかけてしまって」
    忘れそうになったけど、よくよく思い出したら今日は平日だった。家出をした訳だから、僕は学校なんて行ってられないけどカヲルさんは違う。実業家って言ってたし、仕事があって当然だ。それなのにトイレに連れて行ってもらったり、ご飯を用意してもらったり、迷惑をかけすぎている。
    「ああ、仕事の方は別に何とでもなるから気にしなくていいよ。それよりも昨日言ったことを覚えているかい?」
    「昨日……?」
    「僕の祖父に会うという話さ」
    そう言えば、偽物の婚約者役を引き受けた時にそんな話をされたような。二日後に君を連れて祖父に会う、確かにカヲルさんはそう言っていた。二日後って、明日じゃないか! そんな責任重大な任務のことを忘れるなんてどうかしている。
    「す、すみません」
    「どうして謝るんだい? 」
    「だって、準備が……全然出来てなくて」
    「そのことなんだけれどね。本当は今日シンジ君を連れて服とか、必要なものを買いに行くつもりだったんだよ」
    「あ……そう、ですよね」
    彼の祖父に嘘とは言え婚約者として挨拶に行くのに、僕が持っているTシャツやハーフパンツでは流石に失礼だ。けど、家出の荷物にフォーマルな服が入っている訳もなく。かと言って手持ちのお金もない。出来れば高価な品物は避けたいところだけど、難しいかな……。
    「色々とシンジ君に着てもらって決めたかったんだけどね。僕が無理をさせてしまったから今日は動けそうにないだろうし、僕の方で何着か選んでおいたよ」
    「え? もう、ですか!?」
    「ああ、君が寝ている間にね」
    流石大人は仕事が早い。けど、昨日見せられたカタログのことを思い出すと胃が痛くなった。カヲルさん、普段から上等な物を使ってそうだもんな。僕、お金ないのに……。
    「もう少ししたら届くと思うから、身体が辛いかもしれないけれど試着して貰ってもいいかな。もちろん、無理はしなくていいよ」
    「それは大丈夫、だと思います……けど」
    「何か気になることでもえるのかい?」
    「服を用意しないといけないことは分かるんです。だけど僕、お金あまりなくて……」
    元々、月のお小遣いも微々たるものだった。それを貯めたのが今の手持ちのお金だ。稼ぎたくても中学生だから働くことも出来ない。
    「だから……洋服の代金は少し待ってもらえませんか?」
    申し訳ないけれど、働けるようになってから返す以外の方法がない。この家出だっていつまで続くかわからないのだから。子供でいることがこんなにも歯痒く思う日がくるなんて。
    「シンジ君。僕は君に一銭たりとも請求するつもりはないよ」
    「でも」
    「君は僕の婚約者になったんだ。婚約者に贈り物をするのは当然のことだと思わないかい?」
    「婚約者って言っても。僕何もしてないし」
    「君は、僕の傍にいてくれるだけでいいんだ」
    彼の親切に甘えてばかりなのは気が引けると言うか。名ばかりの婚約者が必要だから僕でいいのかもしれないけど。
    衣食住の恩恵を受けるには、何かしらの対価が必要だと僕は思う。親戚相手でもそうだったのだから、他人のカヲルさんに甘え過ぎる訳にはいかない。
    「そんなに難しい顔をしないで。全て僕がしたくてやったことなんだ。時間がなくて何も相談せずに決めてしまったのがいけなかったね」「ち、がいます……っ」
    問題なのはそこじゃない。カヲルさんの厚意に素直に甘えられないのは、こんなにも尽くしてもらえる価値が自分にはないことを知っているからだ。その身に余るほどの恩に報いることが僕には出来ないから。
    優しくされるのが嫌なんじゃない。でも、いつか失ってしまうなら最初から与えられない方が良い。勝手に期待して、勝手に傷ついて、後悔するなんて馬鹿みたいだ。暗くて、ひねくれてて、可愛げがない性格だって自分でも分かってる。僕がもっと素直な性格だったら、良かったのかな。
    「君の、その奥ゆかしさは愛すべき美徳ではあるけれど……」
    シーツを握っていた僕の手をカヲルさんが上から握り締めた。人肌の温もりに驚いて視線を上げると僕を見つめるカヲルさんと目が合う。
    赤い瞳が瞬きをする度にキラキラと宝石のように輝いていた。赤い海の中に僕の顔が映って、眩しくて、恥ずかしい。ずっと見てはいられずに視線を逸らそうとする僕の顔をそっと覗き込んだ。
    「僕は、君に心から頼って欲しいと思っているよ」
    「頼る……なんて、迷惑じゃないですか……」
    「そうかな。僕は嬉しいよ。君のために何かが出来ることが。まだ出逢ったばかりだから心から信頼してもらうのは難しいかもしれないけれど。この気持ちだけは信じて欲しい。君は、運命を共にする大切なパートナーだからね」
    そう言ったカヲルさんの表情はとても穏やかで、きちんとした返事は出来なかったけど、信じてもいいのかなって少しだけ思えた。





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