さくらい
PAST蛍🔥/塚橋短歌昨年発行した塚橋短歌集『紺碧のあした』より塚橋短歌、都々逸を画像にまとめたものを再録します。ifも現パロもごちゃ混ぜ。ほぼXに公開済のものですが楽しんで頂けたら幸いです。あとがきもおまけで載せています。※途中の30文字で小説を書くシリーズは省いています 18
さくらい
PAST蛍🔥/塚橋既刊『群青抱きて』収録、戦後の淀野さんとたろちゃんのお話です。短いですが気に入ってます。点と線約束の時間の少し前に着くと、もうそこに彼がいた。
「すみません、突然お呼びだてして」
「いえ、こちらこそわざわざこんな田舎まで来ていただいて……俺がお役に立てるかどうか」
油で薄汚れた作業服、と裏腹に名刺を受け取った指先は綺麗だった。
「特攻に征った〝やぎ〟という人の情報を探していましてね、もう十年になります。ご存知ありませんか?」
「やぎ、さんですか。聞いたことあるようなないような……そんな人いたようないないような……すみません、人の名前を覚えるのがあんまり得意じゃなくて。それに実際整備兵をしてたのもそんなに長い間じゃないんです、すぐに終戦になってしまって」
「いいんですいいんです、わかります。私もね、せっかく名前と顔を覚えても次の日にはもう会えない人になっている、そんなことしょっちゅうありましたから。仲良くなるだけ、その人のことを知れば知るほど、別れが辛い時代でしたね」
2015「すみません、突然お呼びだてして」
「いえ、こちらこそわざわざこんな田舎まで来ていただいて……俺がお役に立てるかどうか」
油で薄汚れた作業服、と裏腹に名刺を受け取った指先は綺麗だった。
「特攻に征った〝やぎ〟という人の情報を探していましてね、もう十年になります。ご存知ありませんか?」
「やぎ、さんですか。聞いたことあるようなないような……そんな人いたようないないような……すみません、人の名前を覚えるのがあんまり得意じゃなくて。それに実際整備兵をしてたのもそんなに長い間じゃないんです、すぐに終戦になってしまって」
「いいんですいいんです、わかります。私もね、せっかく名前と顔を覚えても次の日にはもう会えない人になっている、そんなことしょっちゅうありましたから。仲良くなるだけ、その人のことを知れば知るほど、別れが辛い時代でしたね」
さくらい
MOURNING蛍🔥/こいさや戦後のお話。小池が和菓子屋の息子だったらいいなという願望からできました。
狭山、小池の家に行く 終戦から二年が経った秋、俺は帰還前に小池から手渡された住所へ足を向けた。なぜ会いたくなったのかと言われれば、自分の方も落ち着いたのでそろそろ会ってもいいかと思ったからだ。手土産に道中で和菓子も買った。物資の少ない時分に、手に入れるのはなかなか大変だった。本当だったら俺が食べたいくらいだ。食べてしまってもよかったし幾度となく食べようかとも思ったが、戦時中ことあるごとに大福が食べたいと言っていたあいつの顔を思い浮かべてはこらえた。そうしてはるばるたどり着いた住所にあったのは一軒の小さな店だった。
「いけ屋……」
食堂か? 白いのれんに書かれた店の名前を呟いてみる。あいつの家は商売をしていたのか。実家がなにをしているかなんて話まではしなかったしな。もし客があったら迷惑になるかとも考えたが日にちと時間を前もって手紙で伝えておいたし大丈夫だろう。俺は息を吸うとのれんをくぐった。
3884「いけ屋……」
食堂か? 白いのれんに書かれた店の名前を呟いてみる。あいつの家は商売をしていたのか。実家がなにをしているかなんて話まではしなかったしな。もし客があったら迷惑になるかとも考えたが日にちと時間を前もって手紙で伝えておいたし大丈夫だろう。俺は息を吸うとのれんをくぐった。
さくらい
MOURNING蛍🔥/こいさや現パロ。狭山くんイメージ香水を作ったので香水作りに行くこいさやを書きました。
選ばれしもの「香水?」
買いに行きたい、じゃなく作りに行きたいと言われた時は驚いた。香水って作るもんなのかー、って。
「この店だ」
狭山に連れられて行った店は商業施設の中にあって、そこであいつはなにやら真剣な顔をして店員のお姉さんと話してた。てっきり一緒に選ぶのかと思ったのに「お前は適当にその辺見ていてくれ」と言われてしまい暇な俺は言われた通り適当にその辺に置いてあった香水の香りを手当たり次第に嗅いだ。
(お、いい匂い)
(甘ったる)
(……草?)
(どっかで嗅いだな……柔軟剤か?)
(おーっ! これクレっぽい! あとで教えてやろ)
十数種類も嗅ぐとさすがに鼻が馬鹿になってくる。遠目に狭山の方を見てみるとまだお姉さんとなにやら真剣な顔で話をしていた。【ご自由にお使いください】というラベルが貼られた小瓶には珈琲豆が入っていて、嗅いでみると鼻の中のごちゃごちゃした香りがいくらかマシになった。気を取り直してまたいくつか香水の香りを嗅いでから狭山の隣に行くと「香水を作りに行きたい、お前も付き合え」と言った割には話に入ってきてほしくないようで向こうへ行ってろと言いたげな視線を向けてくる。なんだよー、そんなにお姉さんと二人きりで真剣な顔で話すことがあるのか。仕方ない。店内はカップルや若い女の子のグループでいっぱいだ。みんな匂いを嗅ぎながらキャンキャンもといキャーキャー言っている。うふふ、あははと楽しそうな声も聞こえる。俺はきれいなお姉さんと二人で真剣に話し合う狭山の横顔を見つめてた。そんな顔久しぶりだ、と言うか滅多にしたことないだろ、俺にだって。でもそんな顔も好きなんだよなー。色んな匂いを嗅ぎすぎて俺は鼻どころか頭も心も色んな感情でぐちゃぐちゃになったらしい。リラックスとかリフレッシュとか森林浴、とか書いてあるものも嗅いでみたが全然落ち着けない。それどころかざわざわするしイライラもしてきて、なのにお前は変わらずきれいな顔してそこにいる。ここに俺がいるのにまるで眼中にないみたいに。なんだか初めて会った時のことを思い出した。俺に興味がない、眼中にないってツラしてツンとすましてたな。そんな俺と、興味なかったはずの男と楽しげに歩いてるお前が好きだ。なんだか照れくさくて、嬉しくなるから。でも今はちょっとだけ初めて会った時よりも遠く感じる。他人より、他人に感じるよ。
5254買いに行きたい、じゃなく作りに行きたいと言われた時は驚いた。香水って作るもんなのかー、って。
「この店だ」
狭山に連れられて行った店は商業施設の中にあって、そこであいつはなにやら真剣な顔をして店員のお姉さんと話してた。てっきり一緒に選ぶのかと思ったのに「お前は適当にその辺見ていてくれ」と言われてしまい暇な俺は言われた通り適当にその辺に置いてあった香水の香りを手当たり次第に嗅いだ。
(お、いい匂い)
(甘ったる)
(……草?)
(どっかで嗅いだな……柔軟剤か?)
(おーっ! これクレっぽい! あとで教えてやろ)
十数種類も嗅ぐとさすがに鼻が馬鹿になってくる。遠目に狭山の方を見てみるとまだお姉さんとなにやら真剣な顔で話をしていた。【ご自由にお使いください】というラベルが貼られた小瓶には珈琲豆が入っていて、嗅いでみると鼻の中のごちゃごちゃした香りがいくらかマシになった。気を取り直してまたいくつか香水の香りを嗅いでから狭山の隣に行くと「香水を作りに行きたい、お前も付き合え」と言った割には話に入ってきてほしくないようで向こうへ行ってろと言いたげな視線を向けてくる。なんだよー、そんなにお姉さんと二人きりで真剣な顔で話すことがあるのか。仕方ない。店内はカップルや若い女の子のグループでいっぱいだ。みんな匂いを嗅ぎながらキャンキャンもといキャーキャー言っている。うふふ、あははと楽しそうな声も聞こえる。俺はきれいなお姉さんと二人で真剣に話し合う狭山の横顔を見つめてた。そんな顔久しぶりだ、と言うか滅多にしたことないだろ、俺にだって。でもそんな顔も好きなんだよなー。色んな匂いを嗅ぎすぎて俺は鼻どころか頭も心も色んな感情でぐちゃぐちゃになったらしい。リラックスとかリフレッシュとか森林浴、とか書いてあるものも嗅いでみたが全然落ち着けない。それどころかざわざわするしイライラもしてきて、なのにお前は変わらずきれいな顔してそこにいる。ここに俺がいるのにまるで眼中にないみたいに。なんだか初めて会った時のことを思い出した。俺に興味がない、眼中にないってツラしてツンとすましてたな。そんな俺と、興味なかったはずの男と楽しげに歩いてるお前が好きだ。なんだか照れくさくて、嬉しくなるから。でも今はちょっとだけ初めて会った時よりも遠く感じる。他人より、他人に感じるよ。
さくらい
DOODLE蛍🔥/こいさやお瓶さんに描いて頂いたシガーキスするこいさやがあまりにも素晴らしくて勝手に小説書きました!
またの名を「まったく! 苛苛するっ!」
今日も装備はもちろん、覚悟も決意も万全だった。空はどこまでも限りなく青く雲ひとつない、風もない。これ以上ないほど条件が整っていながら、それでも上はけっして首を縦には振らなかった。暗澹たる思いだ。まさに真っ暗闇。目の前の世界はこんなに眩しくひらけているのに。空はその大きな腕を広げているのに。
地面を飛行靴の底で蹴れば砂埃が立つ。それを見た別隊搭乗員数名の「荒れてるな」「気持ちはわからんでもないがなあ」「何かにあたってどうこうなるものでもあるまい」などという会話がはっきり聞こえた。わざと聞こえるように言っているのだろうか。ちらりと目をやれば慌てたように小走りに視界から消えた。
4670今日も装備はもちろん、覚悟も決意も万全だった。空はどこまでも限りなく青く雲ひとつない、風もない。これ以上ないほど条件が整っていながら、それでも上はけっして首を縦には振らなかった。暗澹たる思いだ。まさに真っ暗闇。目の前の世界はこんなに眩しくひらけているのに。空はその大きな腕を広げているのに。
地面を飛行靴の底で蹴れば砂埃が立つ。それを見た別隊搭乗員数名の「荒れてるな」「気持ちはわからんでもないがなあ」「何かにあたってどうこうなるものでもあるまい」などという会話がはっきり聞こえた。わざと聞こえるように言っているのだろうか。ちらりと目をやれば慌てたように小走りに視界から消えた。
さくらい
MOURNING蛍🔥/こいさやバレンタインのこいさや現パロ。手直ししました。
俺に甘いひと「仕方ない、たまには作ってやるか」
いつもは高級菓子店のハイセンスで洒落たものを小池にやっているのだが(俺が食べたいのもある)今年のバレンタインは手作りのものを渡してやることにした。そうと決まればと張り切って臨んだ俺だったが、何をどうしてこうなったものか。
粉まみれで散らかったキッチン、破裂したチョコレートが四方に飛び散り中が汚れた電子レンジ。それらの惨状を前に泡立て器を握りしめたまましばらく固まっていた。チョコじゃなく俺が固まってどうする! と、誰もツッコミを入れてくれないので自分で入れてみたが、虚しい。泉水か連城に助けを求めよう、おろおろと散らかった材料に埋もれたスマホを探し当て粉まみれの指で画面をタップしたその時だった。
2156いつもは高級菓子店のハイセンスで洒落たものを小池にやっているのだが(俺が食べたいのもある)今年のバレンタインは手作りのものを渡してやることにした。そうと決まればと張り切って臨んだ俺だったが、何をどうしてこうなったものか。
粉まみれで散らかったキッチン、破裂したチョコレートが四方に飛び散り中が汚れた電子レンジ。それらの惨状を前に泡立て器を握りしめたまましばらく固まっていた。チョコじゃなく俺が固まってどうする! と、誰もツッコミを入れてくれないので自分で入れてみたが、虚しい。泉水か連城に助けを求めよう、おろおろと散らかった材料に埋もれたスマホを探し当て粉まみれの指で画面をタップしたその時だった。
さくらい
PAST蛍🔥/塚橋既刊『群青抱きて』に載せた書き下ろしです。戦後if
いま、ふたたび 硝煙に覆われた空が少し遠くなってから何日、いや、何ヶ月経ったのか。
「流石に都会の駅は大きいですね」
「そうだな、人がすごい」
茶褐色、青褐色、国防色の人の波。戦争が終わってもなかなか色は戻ってこない。列車も、駅も、どこもかしこも復員兵でごった返していた。一般市民か軍人かで分けられていた世界、軍務を解かれた今は誰しもが一般市民と言えた。駅舎を出たところで靴を磨く少年たち、顔を墨だらけにしてそれでも瞳はその手によって艶やかに光り出す靴を映している。まだ目は死んじゃいない。生きていかねばなと橋内が小さく、しかしはっきりとそう呟いたので、独り言かもしれなかったが塚本は一応はいと返事をした。
「あっちに闇市があるみたいですね」
6605「流石に都会の駅は大きいですね」
「そうだな、人がすごい」
茶褐色、青褐色、国防色の人の波。戦争が終わってもなかなか色は戻ってこない。列車も、駅も、どこもかしこも復員兵でごった返していた。一般市民か軍人かで分けられていた世界、軍務を解かれた今は誰しもが一般市民と言えた。駅舎を出たところで靴を磨く少年たち、顔を墨だらけにしてそれでも瞳はその手によって艶やかに光り出す靴を映している。まだ目は死んじゃいない。生きていかねばなと橋内が小さく、しかしはっきりとそう呟いたので、独り言かもしれなかったが塚本は一応はいと返事をした。
「あっちに闇市があるみたいですね」
manachanblue
DOODLE現パロ八木志津2人が旅行の計画を立てるお話
香ばしい匂いと共にトースターがチンと鳴り、コンビニのカットサラダと硬めの目玉焼き、焼いたソーセージが乗った白いお皿へ分厚くカットされたトーストを乗せる。
温めた牛乳にインスタントコーヒーを少し加えれば週末のお決まりの朝食の完成だ。
昨日も八木は遅くまで仕事だったようで気持ちよさそうに寝息を立てているのを見ると何だか起こすのが申し訳なくなり、今朝は1人でテーブルに着くことにした。
一緒に暮らし始めてから初めてお互いに纏まった休みが取れ、
「せっかくだから旅行でも行くか。」
と八木の一言にその日から志津摩の頭の中は旅行の計画を立てるのでいっぱいになった。
何でもネットで探せばいくらでも欲しい情報は手に入るご時世だがアナログな八木はそういった選び方を好まないだろうと帰り道に寄った書店で数冊見繕ってきた旅行のガイドブックをテーブルに広げ、トーストを口に運びながらパラパラとページを捲っていく。
1919温めた牛乳にインスタントコーヒーを少し加えれば週末のお決まりの朝食の完成だ。
昨日も八木は遅くまで仕事だったようで気持ちよさそうに寝息を立てているのを見ると何だか起こすのが申し訳なくなり、今朝は1人でテーブルに着くことにした。
一緒に暮らし始めてから初めてお互いに纏まった休みが取れ、
「せっかくだから旅行でも行くか。」
と八木の一言にその日から志津摩の頭の中は旅行の計画を立てるのでいっぱいになった。
何でもネットで探せばいくらでも欲しい情報は手に入るご時世だがアナログな八木はそういった選び方を好まないだろうと帰り道に寄った書店で数冊見繕ってきた旅行のガイドブックをテーブルに広げ、トーストを口に運びながらパラパラとページを捲っていく。
manachanblue
DOODLE転生パロ八木志津記憶あり八木さんと黒のマフラーを大事に持ってる記憶なしおしずの八木さん目線
カタカタとキーボードを叩きながらいつになっても慣れないパソコンを睨みつける。
「また眉間に皺寄ってるぞ。」
向かいの席に座った同期から飛んでくるお決まりの台詞を聞きながら、冷めかけのコーヒーに手を伸ばした。
「今年は寒い時期だよな。来る方も俺らも大変だ。」
市の職員として働き始め、配属された観光課で帯同する隣県の宿泊学習。
住み慣れた街にも関わらず、昨年初めて参加したときには目まぐるしく変わるスケジュールに先輩の後を付いてくのに精一杯だった。
昨年の経験をぜひ活かすようにと2年目の自分には荷が重い作業まで今年は任されることになり、毎日山のように送られてくるデータにひとつひとつ目を通しながら今日も進まない資料の作成にほとんどの時間を費やしている。
2631「また眉間に皺寄ってるぞ。」
向かいの席に座った同期から飛んでくるお決まりの台詞を聞きながら、冷めかけのコーヒーに手を伸ばした。
「今年は寒い時期だよな。来る方も俺らも大変だ。」
市の職員として働き始め、配属された観光課で帯同する隣県の宿泊学習。
住み慣れた街にも関わらず、昨年初めて参加したときには目まぐるしく変わるスケジュールに先輩の後を付いてくのに精一杯だった。
昨年の経験をぜひ活かすようにと2年目の自分には荷が重い作業まで今年は任されることになり、毎日山のように送られてくるデータにひとつひとつ目を通しながら今日も進まない資料の作成にほとんどの時間を費やしている。
佐伯雛子
DONEサカノーエさんと姪っ子がきゃっきゃしてるところが書きたかっただけの話です。捏造純度100パーのサカノーエさんの姪っ子が登場します。下記姪ちゃんの設定です。7月の本にもこの子は登場します。こんな感じの姪ちゃんとサカノーエさんの話をいつか本にしたいです。言うのはタダ。メイちゃん=庚二の兄の娘(ひとりっ子)私立幼稚園に通っている。ギフテッドな三歳児。コウちゃん(高3)が大好き。
メイちゃんとおままごと【現パロDKノ上君と姪ノ上ちゃんss】「あなた、そこのお皿を取ってくださる? ……ねぇ、あなたってば!」
「ん? あだっ」
「聞いてます?」
「き、聞いてなかった。……あー、何だ? これ?」
「そう、それよ。……んもうっ、本当に困った人ねぇ」
「あー……どうもすみませんでした」
「分かればいいんです。分かれば」
何故俺は今母にそっくりな喋り方をした三歳児に“あなた”と呼ばれているのだろうか。
「聞いてなかったのは俺が悪いんですが、物を投げるのはよくないよ。“メイ”ちゃん」
坂ノ上庚二はいつの間にか眼前で鼻息荒く仁王立ちしている幼女に皿を手渡した。幼いながらにも坂ノ上家特有の顔をしたその子は制服の上から纏ったエプロンの裾を整えながら、満足げな笑みを顔いっぱいに浮かべている。その笑顔は何とも既視感を感じずにはいられなかった。
5870「ん? あだっ」
「聞いてます?」
「き、聞いてなかった。……あー、何だ? これ?」
「そう、それよ。……んもうっ、本当に困った人ねぇ」
「あー……どうもすみませんでした」
「分かればいいんです。分かれば」
何故俺は今母にそっくりな喋り方をした三歳児に“あなた”と呼ばれているのだろうか。
「聞いてなかったのは俺が悪いんですが、物を投げるのはよくないよ。“メイ”ちゃん」
坂ノ上庚二はいつの間にか眼前で鼻息荒く仁王立ちしている幼女に皿を手渡した。幼いながらにも坂ノ上家特有の顔をしたその子は制服の上から纏ったエプロンの裾を整えながら、満足げな笑みを顔いっぱいに浮かべている。その笑顔は何とも既視感を感じずにはいられなかった。
佐伯雛子
DONEなんの山もオチもない現パロ坂伴ssです。金曜日はカレーの日。
金曜日の誘惑【現パロ坂伴ss】換気扇の下、煙草を吸いつつ面倒くさいながらも料理をしていたその時。つけっぱなしにしていたテレビ番組から聞き慣れない単語が流れてきた。一抹の好奇心に駆られ、カウンター越しに覗き見る。司会者達の説明に耳を傾け、言葉の意味を理解すると肺を満たしたそれを換気扇に向かってゆっくりと吐き出した。
「……へぇ」
帰ってきたら、試してみるか。
吸いかけの煙草を軽く咥え直し、鼻で軽く笑うとホーロー鍋の中に視線を落とした。
適当に切った野菜達がいい具合に煮えている。そろそろ頃合いだろう。あとは市販のルーと、調味料棚にずらりと並んだスパイスやハーブに蜂蜜。それから冷蔵庫に入っている赤味噌、ココアパウダーなどを適当に入れてことこと煮れば今日の晩飯ーー金曜日のカレー(本当は昼に食べる)ーーの完成である。炊飯器の雑穀米ももう直炊けるし、トッピング用の温泉卵も冷蔵庫にスタンバイ済みだ。
4521「……へぇ」
帰ってきたら、試してみるか。
吸いかけの煙草を軽く咥え直し、鼻で軽く笑うとホーロー鍋の中に視線を落とした。
適当に切った野菜達がいい具合に煮えている。そろそろ頃合いだろう。あとは市販のルーと、調味料棚にずらりと並んだスパイスやハーブに蜂蜜。それから冷蔵庫に入っている赤味噌、ココアパウダーなどを適当に入れてことこと煮れば今日の晩飯ーー金曜日のカレー(本当は昼に食べる)ーーの完成である。炊飯器の雑穀米ももう直炊けるし、トッピング用の温泉卵も冷蔵庫にスタンバイ済みだ。
佐伯雛子
DONE坂視点坂伴ssです。坂の母を捏造していたり、モブ上官が出てきてたりな短い話です。ピアノを弾くサカノーエコージが書きたかったんです。因みに作中で坂が弾いている曲はタイトルの曲です。編曲は作曲者の妻版でご想像ください。元々原曲が歌曲でそれをピアノ用に編曲しているので、歌詞を読みながら、曲を聴きながら読んでみるとより楽しいかもしれません。
※9話ネタバレ注意
※ばんちゃは最後しか出ません。
Widmung【坂視点坂伴ss】少し昔話をしよう。
これは私がまだ少尉に上がりたての頃。季節は夏、上官に連れて行かれた迎賓館での夜会での話だ。
***
上流階級の社交場とは退屈なものである。華やかなドレスや着物に身を包んだ淑女達、仕立ての良い正礼装姿の紳士達が一つどころに集まっては噂話に花を咲かせ、上辺だけの微笑に、言葉尻にじわりと欲を潜ませて。何とも居心地の悪い場所であった。
おまけに黒を纏った男達の中で第二種軍装の白は目立つのか。至る所から無数の視線を向けられているのが痛い程分かった。頭のてっぺんから爪先までを這う、ねっとりとした視線。粗はないかと誰も彼もが己に点数をつけているようで堪らなく不愉快だった。
己の成功の為に飾り立てた連中から勧められるがまま上機嫌で杯を煽る上官を横目に、青二才であった私はこのくだらない集まりが早くお開きになることをただ願っていた。
4481これは私がまだ少尉に上がりたての頃。季節は夏、上官に連れて行かれた迎賓館での夜会での話だ。
***
上流階級の社交場とは退屈なものである。華やかなドレスや着物に身を包んだ淑女達、仕立ての良い正礼装姿の紳士達が一つどころに集まっては噂話に花を咲かせ、上辺だけの微笑に、言葉尻にじわりと欲を潜ませて。何とも居心地の悪い場所であった。
おまけに黒を纏った男達の中で第二種軍装の白は目立つのか。至る所から無数の視線を向けられているのが痛い程分かった。頭のてっぺんから爪先までを這う、ねっとりとした視線。粗はないかと誰も彼もが己に点数をつけているようで堪らなく不愉快だった。
己の成功の為に飾り立てた連中から勧められるがまま上機嫌で杯を煽る上官を横目に、青二才であった私はこのくだらない集まりが早くお開きになることをただ願っていた。
佐伯雛子
MOURNING5月スパコミで頒布した坂伴コピ本『Open Secretー公然の秘密』の裏設定、裏話的なまとめです。箇条書きで書いてます。小説ではありません。苦手な方ご注意ください。成人向け作品なのでパス付けてます。
18⇧yes/no 2578
佐伯雛子
MEMOおじさん攻め美味しい、でもそんなおじさんを受けにしたいオタクが坂おじ右の可能性についてちょこっと考えただけの呟きメモです。モブお姉さんがでます。現パロです。🔞要素あるのでパスつけます。18⇧yes/no 2353佐伯雛子
DONE昨日フォロワーさんとのスペースが楽しくて、勢いでモブ視点wdtm坂伴書きました。勢いなので文面がおかしいところがあります。また書き直して支部に投稿し直します。神々の棲家【モブ視点wdtm坂伴】この瑠璃色に光る晴れ渡った海の下にはーー神様が暮らしている。
あれは何度目かの夏休み。俺がまだ小学生だった頃の話だ。
父方の祖父母の家に泊まりに来ていた俺は近所に住む従兄弟達に誘われ、海に遊びに来ていた。公園やゲーセン、コンビニといった子供の娯楽施設に乏しい田舎で、海は唯一楽しい場所だったと言える。
鼻に感じる潮の香り、どこまでも澄み切った珊瑚礁の海。今でもはっきりと覚えている。あの言葉にできないほど美しい、鮮やかな色彩を。
俺達は暇さえあれば海に遊びに行った。砂浜で小さな蟹を探しては追いかけたり、打ち上がったくらげを突っついたり。珊瑚礁に棲みついた色とりどりの魚達に感動したり。毎日真っ黒に日焼けして、宿題もほっぽり出してくったくたになるまでよく遊んだものだ。
9255あれは何度目かの夏休み。俺がまだ小学生だった頃の話だ。
父方の祖父母の家に泊まりに来ていた俺は近所に住む従兄弟達に誘われ、海に遊びに来ていた。公園やゲーセン、コンビニといった子供の娯楽施設に乏しい田舎で、海は唯一楽しい場所だったと言える。
鼻に感じる潮の香り、どこまでも澄み切った珊瑚礁の海。今でもはっきりと覚えている。あの言葉にできないほど美しい、鮮やかな色彩を。
俺達は暇さえあれば海に遊びに行った。砂浜で小さな蟹を探しては追いかけたり、打ち上がったくらげを突っついたり。珊瑚礁に棲みついた色とりどりの魚達に感動したり。毎日真っ黒に日焼けして、宿題もほっぽり出してくったくたになるまでよく遊んだものだ。
EO_2
DOODLE全くもって誰得、駄文。タロチャンの手のことをずっと考えて頭パンクする前に発散。生存ifで復員して3年?後くらいの設定。
和さんがタロチャンの手を愛でて、愛でられる話。
エロじゃ無いです(涙)
愛でて愛でられる太郎の手が、好きだ。
節ばって少し大きく、いつも何かで汚れていて、いつも何かを弄っている。ある日は破れた襖の修理、別の日は割れた窓の交換、壊れた扉の補強、動かない機械の整備、道具の手入れ。働き者の手だ。
その手にかかれば、器用な指で転がされ、主がヨシとして放されたものの殆どは直って戻ってくる。とても優しい手だ。
ある晩。
寝る支度をしていると、背中にぴたりと太郎がくっついてきた。
「貴方に触れてもいいですか…?」
と耳元で囁きながら、あの手が俺の腰を掴み、下腹部の輪郭を確かめる様に滑って腕を回す。もうそれだけで腹の奥が疼く自分に少し呆れる。
しかし、連れ添ってそこそこ経つ俺には分かる。この「触れる」は情交ではなく、純粋な愛撫の方であると。太郎曰く、ただただ和さんに触れたい時があるらしい。俺は愛しい年下男の腕に手を重ね、「もちろんだ」と答えた。
1064節ばって少し大きく、いつも何かで汚れていて、いつも何かを弄っている。ある日は破れた襖の修理、別の日は割れた窓の交換、壊れた扉の補強、動かない機械の整備、道具の手入れ。働き者の手だ。
その手にかかれば、器用な指で転がされ、主がヨシとして放されたものの殆どは直って戻ってくる。とても優しい手だ。
ある晩。
寝る支度をしていると、背中にぴたりと太郎がくっついてきた。
「貴方に触れてもいいですか…?」
と耳元で囁きながら、あの手が俺の腰を掴み、下腹部の輪郭を確かめる様に滑って腕を回す。もうそれだけで腹の奥が疼く自分に少し呆れる。
しかし、連れ添ってそこそこ経つ俺には分かる。この「触れる」は情交ではなく、純粋な愛撫の方であると。太郎曰く、ただただ和さんに触れたい時があるらしい。俺は愛しい年下男の腕に手を重ね、「もちろんだ」と答えた。
佐伯雛子
MEMOちょっと現パロ志津摩君によからぬ妄想止まらないので呟きます。モブしず?俺しず?なメモです。ちょっと🔞最終はやぎしずです。はい。当たり前ながら公式が最大手なので。18↑yes/no 2772
佐伯雛子
MEMO念願のほたるびを特装版と共に昨日ようやく読めたので呟かせていただきます!!やぎしずも、よどしずも大好きですが…つかはし!塚橋が特にヘキでした🙏年上受け×年下攻め好きオタクが落ちないわけがない二人、そんな二人のハッピーな妄想を昨日からしてるので発散させてください。軽く🔞なのでパスワード付き。18↑yes/no 1303
rinkokonoe
DOODLE塚橋現世パロ二人がご飯食べて同じお布団で寝ているだけの短いお話です。
なんでも許してくれる方向け
今日の整備は大変だった、細かいところまできちんと点検を終えて俺は帰路につく
今日は和さんが家に来てくれる日だから、残業だけはしたくなかった
それでも2時間残業になってしまってため息を吐きながら和さんに連絡をする
合鍵を持っている和さんはもう家にいるようで、気をつけて帰ってくるように、と返事が返ってくる
俺は少し嬉しくなってすぐに帰りますと連絡した
それから1時間、電車を乗り継いで家に着いた
鍵を開けようとすると中から鍵が開く音と共に和さんがおかえり、と出迎えてくれた
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、疲れている顔をしているな」
そう言って頬をすり、と撫でる和さんの手のひらの温かさに俺は目を閉じてしまう
ふ、と和さんが笑ったような気がする
1727今日は和さんが家に来てくれる日だから、残業だけはしたくなかった
それでも2時間残業になってしまってため息を吐きながら和さんに連絡をする
合鍵を持っている和さんはもう家にいるようで、気をつけて帰ってくるように、と返事が返ってくる
俺は少し嬉しくなってすぐに帰りますと連絡した
それから1時間、電車を乗り継いで家に着いた
鍵を開けようとすると中から鍵が開く音と共に和さんがおかえり、と出迎えてくれた
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、疲れている顔をしているな」
そう言って頬をすり、と撫でる和さんの手のひらの温かさに俺は目を閉じてしまう
ふ、と和さんが笑ったような気がする