【warm me up.】 ドアベルの軽快な音が響く。それとは裏腹なじっとりと重たい靴音も。日が沈む頃にひっそりと開く喫茶店、コーヒートーク。一人の吸血鬼がそのドアを開く。先客はおらず、店内には店の主であるバリスタの姿だけがあった。
「いらっしゃい、ハイドさん」
店に足を踏み入れるなり、ハイドはカウンターの向こう側、カップやソーサー、シュガーポットの並ぶ棚から何かを探すように視線を泳がせた。
「バリスタ、この店にアルコールは……」
「すまない、置いていなくてね。そのご様子だと飲みたい気分ということかな?」
「まあ、そんなところだ。だが、今からバーに行く気にもなれない。何故なら……」
「何故なら?」
「この雨だ」
カウンターチェアに腰掛けるとうんざりとした顔で窓の外を指さすハイド。雨の街シアトル。この街にとって雨はあまりにも身近なものだ。しかし今この瞬間の雨風はとかく乱暴で、見ればハイドの脱いだコートには大粒の滴が光っていた。
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