「……ヒーローの資質だな」
災いを焼くと同時に自らをも茹であげる熱。障害を砕くと同時に自壊を招く剛力。己に向かって牙を剥く個性を宿した、という意味でどことなく親近感を覚えるインターン生は、息子を除けばヒーロー・エンデヴァーにとって実に初の教え子の一人だ。
解放戦線との戦いの収束後、病院でバッタリ出会った少年に紡がれた縁の影を見て、エンデヴァーはふと呟いた。対するデクは、ソバカスの散った顔で大きな瞳をキョトンと瞬かせている。
「君と拳を交えなければ、焦凍は間違っても俺の元になぞ来なかった。ホークスのインターンの席が焦凍で埋まっていればツクヨミはあれほど速いヒーローにはならなかったろうし、……そうすればきっと、ホークスは今、この世にいなかった」
「そんな、ただの偶然です」
わたわたと慌てる(任務のときの迫力が微塵もない)少年に、エンデヴァーは、いや、と首を振る。
「ヒーローはお節介が身上だ。それを貫く者ほど様々な縁に絡まって、気がつけば事件の中心になっている。あのメリケン男も、『事件を解決しているのか事件を引き連れているのかさっぱり分からん』などと言われていたさ」
「わ、それは、初めて聞いたかもです! オールマイトのことは、結構詳しいつもりだったんですが!」
食い気味の反応に、思わず喉から笑いが漏れそうになる。いつぞやのインターンで焦凍は、「オールマイトが絡むとあいつは…………すげぇぞ」と目を逸らしながら言っていた。誇張することのないあの子が言うのだから、「すごい」のだろう、きっと。
「もっとも、言っていたのは俺一人だがな」
がっかりするかと思いきや、どういうわけか仮免ヒーローの目は益々輝いてしまった。
「エンデヴァーのオールマイト評! レアもレアじゃないですか!?」
一言一句間違えずに記録したいぞぅ、あ、ノートとってもいいですか!? と何処からともなく紙とペンを取り出した少年に、今度こそエンデヴァーは吹き出しそうになって咳払いで誤魔化した。なるほど、この滅多矢鱈な前向きさ。確かにこれはオールマイトの弟子だ。
個人的な所感だが、見ていて腹が立たないあたり、あの男より人徳があると言うべきだろう。