「ってか、ジーニストさん、死ぬっほどモテるでしょうに」
「全く同じことをお前も言われてそうだがな」
人好きのする話好き、という評とは裏腹に、実の所ホークスは、プライベートに踏み込む話が好きではない。単に、話せないことが多いのだ。外向けのシナリオは自白剤を打たれても垂れ流せるほど刷り込んであるにせよ、面倒なものは面倒に違いない。
だから、そんな話になったのは珍しかった。
「黙ってるのはファン向けのサービスって思われてそうですよね、あなたの場合」
「残念ながらご期待に添えず、だ。独り身だよ」
「目の色変えて喜ぶ人のが多いんでは」
ホークスは、紙コップをふぅふぅと冷ます。放り込まれたティーバッグはジーニストの私物だ。超常解放戦線との全面戦争に始まる事件もようやく後始末、対策本部にもこの程度の余裕はできた。
「ま、アイドルやタレントより、ヒーローのが結婚発表したがりませんが。っていうか、歓迎されない?」
「誰だって、助けられるときに、自分の優先順位が隣人より低いのでは、なんて心配をしたくはないだろうさ。規範を示す偶像は誰のものでもあるべきではない、という考え方は、万人に押し付けるには問題があるにせよ、デニムのステッチくらいには筋が通っている」
へー、と適当な相槌を打って、ホークスは紙コップに口をつけた。備え付けのポットの湯で淹れただけなのに妙に香り高い。これを持ち込む趣味人が、煮つめた泥のようなコーヒーを黙って呑んでいたあの時期は、なんというか本当にギリギリだったのだな、としみじみする次第だ。
もっとも、この礼節が服を着たヒーローなら、泥そのものを出されたところで、他人が供してくれたものにケチをつけたりはしなかったかもしれないが。
そんな彼の生真面目ぶりをボンヤリ思い、「生真面目」からはたと思い当たってしまったことがあって、ホークスは引きつった。
ちらりと隣に目をやる。ジーニストは実に美しい所作で、紅茶から立ち上る香りを味わっている。ただの紙コップが名のある磁器に見えてくるから怖い。
「……あの。まさかとは思いますが、『偶像は誰のものでもないのが筋だ』を大真面目に実践していらっしゃる、とか言わんですよね?」
「いけないか?」
ホークスは無言で頭を抱えた。ジーニストはというと、香りを十分に楽しんだらしい紅茶に口をつけて、満足そうに頷いている。
それはそうだろう。話に頭を抱えられたくらいでめげる男に、デニムトークは無理である。
寝不足以外の原因の頭痛を覚えながら、ホークスは、なんかこの付き合い長くなる気がする、と内心うめいた。