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    kutu_nuge

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    kutu_nuge

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    毎月09日はオグの日で、5月9日もオルグエの日で呼吸(59)の日!
    上手く呼吸が出来なくなってしまうCE0のお話です
    ★一年間、オルグエの日更新お付き合い下さってありがとうございました!!

    #毎月09日はオグの日
    #オルグエ
    #空に光るはすべて星

    5月9日野良猫が、いたんだ。

    こないだの地球出張のとき、いつもの街中のホテルの予約が何故か取れていなくって、そのホテルから紹介された、少し郊外の旧いホテルにはじめて泊まったんだけどさ。

    本社に残ってたラウダや秘書達からはセキュリティの面で渋い顔されたけど、何かイベントが重なっていたらしく他に同程度以上の宿が空いていなくて、出張の目的の視察が終わったらホテルに直行して一歩も外出しない、朝になったら軌道エレベーターに直行して本社フロントに直帰する。って固く約束して許してもらった。

    視察は……工場長が昔、我が社に所属していた話になって、デスルターの開発秘話とか聞けて話が弾んで、夕食を兼ねた歓迎パーティを工場の食堂で開いてくれて、ホテルまで送ってもらったんだけど、……その、まあ、結構いい時間になっちゃってさ。

    予約できた部屋は最上階で、大きな窓の外にささやかな屋上庭園が広がっていたんだ。深夜だから照明は落とされていたけど、その分、星あかりが綺麗で。
    もちろん窓は全開しなかったけど、乾杯を断れず少々呑み過ぎて火照った顔を夜風にあてようと、シャワーを浴びたあと少しだけ窓を開けたら、するりと中に入ってきてさ。
    ……猫、そう。大きな野良猫が。

    カーキがかった灰色の短い毛足の、左目の上の大きな切り傷や左前足はじめ全身が傷だらけの大きな雄猫で、緑色のボロボロな首輪を付けていたからもしかしたら飼い猫だったのかな?
    少し俺を睨んでひと声鳴くと、まるで自分の家みたいに物怖じせずにすたすた歩いて、部屋の隅から動かなくなったんだ。

    冷蔵庫に入ってた水を、飲むかと勧めたけど見向きもしなくて、触ろうと手を伸ばしたら威嚇されたから、放っておいた方がいいのかな?と思って俺は机で仕事のメールチェックを始めたんだ。
    早急に返事しなきゃいけない案件がいくつかあって、気が付いたら深夜を回っていた。

    俺の足に、どん、って何か暖かくて重みがあるものがぶつかってきたんだ。
    え?と驚いて見たら、さっきの猫が俺の脛にぐりりと頭をこすりつけてきて、俺と目が合ったら、まるで抗議するかのように口を開けて、声を出さずに鳴いたんだ。

    気が付かなかったけど、瞳の色が、アメジストみたいな薄い紫色で、俺この色どこかで見たことあるな? と考えていたら目が離せなくなって、ついじっと見つめていたら、今度は本当に俺へ訴えかけるようにニャーンと短く強く鳴くと、俺に着いて来いと言うようにベッドへ向かって歩き出したんだ。

    猫は、とん、とベッドに飛び乗ると、まるで「はやく寝ろ」と言わんばかりに脚を踏ん張って俺を睨みつけた。
    俺は、まるで人間に言うみたいに
    「もう一本メール送ったら終わるから」
    と言ったんだけど、言い終わらないうちにまた叱るように強めに鳴かれて、俺はもうあきらめてベッドに入ったんだよ。

    照明を暗くして「おやすみ」と猫に言ったら、返事の代わりにごろごろと喉が鳴る音が聞こえてきた。

    実は俺、その日の商談で、用を足しに行った時に耳をかすめた「ワンマンだった先代より御し易そうだな」という言葉が、まあもう聞き飽きてはいるのだけど今夜はどうしても引っ掛かって、目が冴えて眠れなかったんだ。

    父さんがいたら、ってずっと考えないようにしていたけれど、もちろんそんなことは無理で。
    ラウダは、「兄さんにしかできないことがあるはずだ」って励ましてくれるけど。
    カミルや、フェルシーや、ペトラだって会社のために頑張ってくれているし。
    でも、ケレスさんとの交渉だって、父さんならもっと強気にやれて、そもそも父さんが生きていたら、こんなに会社が傾くことなんかなかったんじゃないか。とか、つい考えてしまって、

    あ、やばい、この感覚、ひさし、ぶ、り

    俺は上手く呼吸ができなくなっていることにきがついて、
    むねが、くるしい、

    こんなとき、どうすれば、いい、ん、だった、っ、け……

    そのとき、ごとん、と音がして、ベッドサイドに置いていたペットボトルの水が、俺の手元にころころところがって来た。
    見ると、猫がサイドテーブルから静かに俺を見下ろしている。
    アンバーなフットライトを反射して光る、
    淡い、深い、紫色の瞳。

    俺はすぐボトルを掴んで、ふるえる指でなんとかキャップを開けて水を飲んだ。

    息を吐くことに集中する。ゆっくり吐いて、吐いて、すこしだけ吸って、また吐いて、繰り返す。
    まだ動悸は治まっていないが、さっきよりはずっとマシな感じになっていた。

    「……ありがと、たすかった」
    猫は返事もせずしばらく俺の顔を見つめていたが、俺がボトルを置いて横になるとするりと俺の横に入ってきた。

    「撫でても、いいかな?」
    そっと触れた猫の毛並みは、ごわごわだったけど思っていたより柔らかくて、撫でていると手のひらに吸い付くようで、不思議と安心した。
    俺の腕のなかにすっぽりと入った猫は、俺の指先をふんふんと嗅ぐと、ちょっとだけざりりと舐めてくれて、首筋から地球の土ぼこりと太陽の匂いがして、
    ……俺は本当に久しぶりに、熟睡できたんだ。

    そして、カーテンを全開にしたまま寝ちゃったみたいで、朝日が眩しくて目が覚めたんだけど、猫は、もう居なかった。

    チェックアウトのときフロントで聞いたけど、誰もそんな猫知らないって言われて。
    窓の外の明るくなった庭園に、咲き乱れている満開の藤棚を見て俺は、紫色の瞳を思い出して、また地球に来たらあの猫に逢えそうな気がしているんだ。









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