空に光るはすべて星 131〜140241001 珈琲の日
どんな言葉よりも
昔、野営中にあんたが一度だけ珈琲を淹れてくれた事があったじゃないか。珈琲豆を靴下に入れて石で砕いて、熱湯にぶち込んで煮出して上澄みを飲む。意外と雑味も無くさっぱりして美味しかったな。あれカウボーイ珈琲って言うんだって?俺がしんどそうだったから淹れてくれたんだよな?また、飲みたいな
俺はこんな身体だから実はもう味覚がだいぶバグってて、残念だが繊細な味付けとかわからなくなってきているんだ。お前の心遣いはありがたいが、うん。贅沢な食材を地球まで苦労して運んで来なくて大丈夫。すまんな。幸い嗅覚はまだ生きてるから、お前が丁寧に淹れてくれた珈琲の香りがあれば俺は充分だ
241002 守護天使の日/水星開始2周年
君という名の
宇宙に戻る旅の時だって、あんたが俺のために心砕いてくれたのはわかっていたし、俺が会社を継いでからも、些細なトラブルが些細の範疇に留まり大事にならなかったのは、人為的な何かが働いているような気配を感じる時があって気になってたがやっぱりあんただったんだな!お願いだ顔だけでも見せてくれ
あの朝、ちいさな亡骸にそっと暖かな土塊を被せ、不安げな表情が、成すべき事を理解したとたん、地平線から顔を出したばかりの朝日のようにきらきらと、己の罪のみならず全ての大罪人すら引き受ける厳かさで、守護天使が目前に立っていた。その時俺の残りの人生はお前に捧げると決心したんだ。笑うなよ
241007
いくらでもくれてやる
「もうお前は何もするな、気が散る」と、俺の両手首を左手でつかんで背後に回して、右手だけで器用に俺の下着を脱がせるあんたを見ていたら、地球で拘束されてた時の、最後に手錠を外された瞬間が、ガチャリという金属音とともに不意に脳裏に浮かび思わず呻くと、「集中しろ」と、喉仏を強めに啄まれた
俺は反省している。あの時お前を搾取者であるスペ一シアンの御曹司で、甘ったれた家出少年だと思っていたから、世間の厳しさを教えてやろうなんて考えていた。本当のお前を知って俺は、以前の酷い行為を忘れさせたくて、優しくしたいのに…何で、お前は、あの頃みたいに酷くしないと、駄目、なんだ…?
241010 トマトの日
地球にいた時、あ、俺、お前より先に地球に行ってたんだ家出して。地球で親切な人に助けられて市場でトマトをもらってさ、それが涙が出るくらい美味しくてなぜか懐かしくて、このミオリネのトマトと同じ味だった。コピーかもしれないけど、でもさ、お前の母さんのトマトはちゃんと地球に根付いていたよ
241019
30秒間のハグをねだる
30、29、28…耳元で響く、数を数えるお前の声。…22、21、背中に回された腕に、少しずつ力がこもっていく。…15、14、俺の心臓の音がやけに響いて聞こえるのは気の所為か? …3、2、1 …おしまい。「あんたも、癒された…?」と視線を落とす赤く染まった目元に唇をあてて、もう離れられなくなっている
241117
幽霊でもいいから
あいつとこんな関係になってからあのこの気配を感じる時がある。幽霊でもいいから、恨み言でいいから、ずっと会いたいと思い続けていたのに、あのこは姿をあらわさないままだ。あいつのおかげであのこの笑顔を思い出した事に何かひとこと言いたいのか?俺は未だにガソリンが燃えるにおいが苦手なままだ
眠れないのか、って?そうだな俺、最近うなされなくなっただろ?…父さんの夢を見なくなったんだ。よかったな?…うん…でも、そうなると、俺って薄情なんじゃないか、って、気になって……幽霊でもいいから、俺に会いに来て、俺を責めて欲しい。って…うんわかってる。でも俺、罰せられたいんだよ多分
241208 釈迦が明けの明星を見て悟りを開いた日
好きにならないはずがない
切れ味の良い煌めきが、重苦しく纏わりつく暗闇を引き裂き天高く駆け上り、絶望に浸されていた俺の身体はその瞬間、嘘のように跳ねて、気が付くとまた生き残っていた。単なる偶然だと思い込もうとして汚物まみれのこどもに偉そうに説教した俺は、一筋の陽光のような蒼い瞳に射抜かれいま動けないでいる
本当に覚えてないんだ。あんたの仲間の…プロドロスが、目の前に落ちてきて、女の子を、医者にみせなきゃ、って、スラスターを全開にして、垂直上昇して…でも、結局、Gが掛かって、俺、腕の、中で…。さいごに、とうさん、きてくれたんだ、って聞こえてさ、…俺の、都合のいい、空耳だった、のか、な
241211 ボブ初登場記念日
一時休戦
輸送艦の乗務員に活きがいいのがいた?ナジに何故ジェタ社のMSに乗っているのかと食って掛かってソフィに蹴り入れられ…そいつだ。前髪がピンクでプリンスと同じ学園の、御三家の御曹司。よくわかったな、って通信妨害が一瞬途切れ…いや、なんでもない。捕虜として地球に連れて行くが、かまわないよな
監禁された輸送艦の倉庫の窓から見えた飛び立つデスルターの3つの光跡。俺が飛び乗った機体はあんたの仲間のだったんだな。換装前で残弾が無くて、俺が反撃するには、ヒ一トナイフ、しか…なくて… 。爆発後からあんまり記憶無いんだけど、俺にずっと呼びかけていたあんたの声は覚えている気がするよ
241213
時々、面倒くさいけど。
こないだ店で肉を注文したらこれしかないよ!って出てきたモノあったじゃないか。ぷりぷりした不思議な歯応えで、変わった匂いがして、合成肉かと思ったら骨付きで、あんたが珍しいなと言ってた…あれ何の肉だったんだ…?トンソク?って何だ?トンは豚?ソクは…足??ラーヌードルの出汁の、副産物?
何か腹に貯まりそうなのをこいつに食わせてくれ。温かい汁物はあるか?すいとんしか無い?それ二つ。箸は使えるか?ほら来たぞ焦らず食え。…いわんこっちゃないむせてるじゃあないか!舌を火傷したぁ?見せてみ…大した事無い。大丈夫だ。…あんたは食わないのかって?俺は腹減ってないからいいんだよ
241214
最大級の口説き文句
俺、あんたの事、…す、すき、みたい、で、さ。信頼、とか、尊敬、とか、そういうの、じゃ、なくて、そういうのも含まれてるかもしれないけど、あ、あい、してるんだ!つきあいた、い、とか、こいび、とに、なりたい、とか!そういう…!もう今夜しかない、から、思い切って、言う、けど!だいて、ほし
は?お前は何を言い出すんだ?俺は男でおっさんで身体はぼろぼろだしお前を拉致監禁した犯罪者なんだぞ。お前をここまで案内して来たのはその、気まぐれというか罪悪感…とかじゃなくて!離れがた…いや俺は何言ってんだ…違う!嬉しそうな顔するな!会社立て直したら迎えに来るなんて!約束!するな!
241224 クリスマスイブ
幸せがまわる
あのさ、これ覚えてる?移動中に偶然通りがかった聖誕祭市。地球にはまだあんな祭が残っているのかとあんたが気まぐれで買ってくれたスノードーム。…酔っていたから覚えていない?はは、相変わらず嘘が下手だな。あれ対になるデザインがあって、俺こないだ地球来た時古道具屋で見付けて買ったんだこれ
宇宙では忘れられた遠い過去の祝祭。奇跡の子の誕生を祝う、輝く星が宿る樹を模した置物。思わず買い求めお前に与えてしまったが、もうとっくに捨てたと思っていた。お前がくれた星に照らされる幼子のスノードームは、移動中俺のポケットの中で微睡み、宿や車の窓近く光射す場所にいつも居てくれている