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    kikhimeqmoq

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    kikhimeqmoq

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    雪の日に任務で旅館に泊まる付き合ってる伏五が貸切露天に入る。

    #伏五
    volt5

    少し眠くなってきたな、と後ろの恵に凭れかかった。冷えていた体を湯に浮かべ、ぼんやりと湯気を眺めていると、布団に入った時とは違う酩酊感があるなと思う。実際に酔っぱらったことはないけど、湯でのぼせ、頬が熱くもったりとする感覚は風呂も酒も同じなんだろうか。それとも、家ではなく露天だから、気持ちが違うんだろうか。
    背もたれの恵の胸は最近また少し分厚くなったような気がする。このところ、可愛いあばらを見てないもんな、と残念になったが、寄り掛かる分にはこの方がいい。
    「ぶあぁぁぁっっ!」
    急に頭上に強い圧がかかり、水を飲みそうになる。鼻に逆流しそうになった水分を吹き出した。毛が逆立って流されているのを感じる。湯に沈められている。
    無意識に術式を張ろうかとしたが、すぐに思い直して呪力をおさめた。
    ここでこんなことをするのは恵しかいない。安全な場所で全身水に浸るのは、面白いといえば面白い。水道水とは違う、濁りとぬめりを感じる。ぼやけた湯の向こうに、恵の肌色が滲んで見えた。
    くっそあいつ。面白いのと、やられるのは別だからな。僕を湯に沈めておいて、無事ですむと思っていないだろ。
    「めぐみっ!」
    「露天でフルチンしながら仁王立ちしないでください」
    勢いをつけその場に立ち見渡せば、柵の向こうに温泉街の灯が見える。真っ黒な山を背景に、白い雪がふわふわと舞っていた。冷たい一月の風が火照った体をなぞる。気持ちいい。
    「いいだろ、貸切なんだし」
    「そういう問題じゃないです」
    「そうだ!そういう問題じゃないって!おまえ、さっきのは覚悟のうえだろうな!」
    一応凄んだつもりなのに、恵は全く動じない無表情のまま口を開いた。
    「なに時代劇みたいなこと言ってんすか」
    「おのれっ!」
    掴みかかると、相手はようやく笑ってひらりと身を躱し、バシャバシャと大きな音を立て反対方向に駆けだした。旅館とはいえ広くもない露天風呂で、大の男が真っ裸でお互いを追いまわす。湯を掻き分け、まき散らし、しぶきを上げて、立ち回り、相撲みたいに絡み合って、最終的に恵を沈めた。湯につかった恵の髪は、昆布みたいにひらひらと靡いていた。
    「押さえつけてる長いですよ」
    解放されて、身を起こし、顔を拭いながら恵が不満そうに感想を言う。
    「おまえから始めたんだろ。何言ってんの」
    「いや、なんか、あんた、珍しく外でぼうっとしてるから、ちょっと悪戯しようと思って」
    「酷いな。慰謝料ものだわ」
    「俺が先生からもらう慰謝料で相殺できます」
    「こーんなに優しくしてるのに、慰謝料なんていらないでしょ」
    「こーんなに優しいなら、さっき部屋で横取りした肉を返してください」
    「恵がくれるって言ったじゃん」
    「言ってません。勝手に攫ってった癖に、何言ってんすか。返してください」
    恵が両脇を掴み、揉み込むように脇をなぜるので、くすぐったさに暴れると、また湯はバシャバシャと零れていった。
    「わかった、わかったから!もう無いから!さっきの肉は僕の肉になっちゃったから、それで堪能して!」
    「は?」
    「尻の肉とかになってるかもしんないじゃん」
    「そんな『かも』だとかいう曖昧な説明じゃ受理できないですね」
    「あっそ。仕方ないな。明日の昼も肉にするから」
    恵は返事をせず、口端だけで満足げに笑った。無言で僕の脇腹に今度は優しく手を伸ばす。浮力で軽くなった体は抵抗なくくるりと回り、恵の腕の中におさまった。
    少しだけ、位置を直して恵にもたれかかる。
    最初と同じ格好になったな、と思うと恵が顎を頭上に乗せた。重いけど、重いのがちょっといいな
    ちゃぱちゃぱと湯が注がれる音がする。暴れすぎて、たぶん湯が半分くらいになっている。少しずつ上がる水面を想いながら、目を閉じた。
    騒いでいたのが嘘みたいに静かだ。どこにも誰もいない、呪いもいない、何もない世界みたいに。
    「昔ね、チビの頃」
    「うん」
    頭の上から、小さく眠そうな恵の声が聞こえる。
    「高専に雪が降った日に」
    「あの辺、冬は雪ばっか降ってるだろ」
    「そうですけど、チビん時に大雪が降って、めちゃくちゃ積もったんですよ」
    「そうだっけ」
    「そん時、脱兎を調伏したばかりで、雪の上に兎の大群を走らせるのが楽しくて」
    そういえばそんなことあったな、と雪の上で大量の兎が四方八方に駆けて行った景色を思い出す。立木もすべて白く化粧された大雪の日で、真っ白い山の中で白いモコモコが雪なんかものともせず走っていくのはアニメみたいに愉快な光景だった。
    「その後、雪合戦とかもしたんですよね」
    「ああ、したね」
    「あんたに雪玉当てたのが嬉しくて」
    「そう?」
    「十個も当たったんですよ。あの頃にしちゃ驚異的な数字です」
    「覚えてんの?さすが恵、僕のこと何でも覚えてるね」
    何でもじゃないです、と恵は食い気味に否定した。何でもじゃないなら、殆どは覚えているんだろう。こいつはそういう細かいところあるから。
    「僕だって沢山当てたじゃん。十個じゃなく」
    「大人げないですよね。小学生相手に雪合戦で圧勝するとか」
    「うるさいな。雪降ってるから思い出話?」
    「そう。あの日も、こうやって風呂入ったなって、そこまで思い出して」
    思い出話なんかする柄じゃないですけど、と続け、自分を抱える腕を締めた。ぎゅう、と恵の厚くなった胸に押しつけられる。
    言われると、思い出す。そういや、昔、雪の日に恵と自宅で風呂に入った。
    二人で風呂に入るなんて、別に珍しくも何ともないのに、呪力なしで雪の中を駆け回り、はしゃいだ後で入る湯は、たいそう気持ち良かった。
    今は同じような雪の日に、湯につかりながら、恵に僕が抱かれているけど。
    あの日、自分の腕の中で無防備に眠りこける少年につられ、温かく適度に重い人間の気持ち良さに、自分ものぼせて寝そうになった。そういえば。
    一緒になって水没したらご先祖みたいに心中するのか。むこうは本気でやりあって、こっちは風呂場でねぼけて溺死だけれど。
    そういえば、そんな馬鹿馬鹿しいことまで考えたほど、気持ち良く湯と恵に浸っていたことを急に思い出す。
    ただの、何もない、雪の一日だったのに。
    「あの時先生が」
    「うん?」
    本当に寝そうになったところで、独り言みたいに恵が漏らす。
    「二人で風呂入るの気持ち良くない?って言ったんです」
    それもよく覚えてるんです。
    そんなこと言ったっけ?思い出す隙もなく両頬を強い力で掴まれ、振り向かされた。
    恵の潤んだ黒い瞳が一瞬よぎる。こいつものぼせてんな、と思った瞬間に頬に柔らかいものが押し当てられて、ちゅっと可愛い音がした。
    あの日もピンクでした。
    のぼぜた恵がうっとりと呟き、もう一度左右の頬にキスをした。




    湯が満ちたらしい。目を閉じればさらさらと、水が溢れていく音がする。
    二人で風呂に入るのは気持ちいいのは、のぼせているからか、どうなのか。
    今の恵は答えを知っているんだろうか。
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    kikhimeqmoq

    DOODLE伏五の五条が直哉と話しているだけの落書き。たぶんなんか、あんまり良いネタじゃない。恵が高一の五月くらい。誤字脱字衍字および重複は見直してないです。「君さあ、なんでずっとムカついた顔してんの?」
    久しぶりに御三家の会合があった。うちの当主は二日酔いで欠席するとだらなことを言い出し、次期当主である自分に名代を務めるよう言いつけてた。それはいい。それはいいが、なんでこいつと控え室が一緒やねん。俺、ほんま嫌いやねんけどら
    「悟くんはなんで似合わへん東京弁を使ってるの?」
    「似合ってるでしょ。君の金髪よりはずっと似合ってるし。直哉って昔は可愛い顔してたのに、いつのまにか場末のヤンキーみたいな金髪ピアスになったのは社会人デビューなの?」
    ハハッと乾いた笑いを付け加えた男といえば白髪が光っていた。銀髪というほど透けていないが、真珠みたいに淡く柔らかく発光している。下ろした前髪から覗く青い目はこれまた美しく輝いていたが、柔らかさなんて一欠片もなく世界を圧倒する力を放っている。それは自分が呪術者だから感じる力であって、その辺の猿どもが見たってガラス玉みたいに綺麗だと褒めそやすだけなんだろうが、こいつの真価はそんな見た目で測れるものじゃない。まあ、えげつない美しさっちゅうのは事実やけど。
    「もうすぐ禪院の当主になるっていうもんが、いつまでも五条家に 3020

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    kikhimeqmoq

    DONE2020/01/21 慶長禪五(伏五)。ご先祖の御前試合の話。あまり伏五関係ないです。タグつけてすみません。禪院が年上で26歳、五条が年下で13歳。生きる方の話です。全速力で宙を駆け、後ろから大股で近づいてくる魔虚羅を引き付ける。
    巨体の向こうでは大勢の者が慌てふためき、恐れ、怒り、逃げ惑っていた。
    喚き叫ぶ声の中から、ひときわ大きな力強い声で「主上をお守りせよ」と命じる声が聞こえた。あの側近は仕事ができる。帝は無事だろう。

    「もうやるか?」

    やかましい風の音に混ざり、背後から緊張した五条の声が聞こえた。

    「まだだ。もっと山までおびき寄せてから」

    急く若者を制しながら鵺を呼び出した。速やかに現れ、主を待つためゆるく飛ぶ式神の背に向け、先に五条を投げた。ばふんと勢いのある音がしたが、回転して受け身をとった五条は背中の中央に膝立ちになっている。それを確認した禪院は、すぐに自分も飛び乗った。

    「このまま山の頂上まで飛ぶ。五条、そこでおまえが一気に片付けろ」

    いいか、魔虚羅に同じ攻撃はできん。一度きりだ。頼んだぞ。

    背を叩くとバシンと中身の詰まった音がした。叩いた指が痛い。このところ手合わせするたびに大きくなっていると感じていたが、ここまでとは。
    禪院が頼むまでもなく、六眼と五条家相伝の術式を得たこいつは、神を落とそうとしたとて仕損じることは 3800

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    DONE2021/01/23 2300字 恵が高専1年で、伏五は付き合ってます。五条の家で迎えた夏の朝の描写。あんまり何も起きないです。山の群青が濃くなったかと思うと、すぐに稜線が金色に光り、あっという間に空が黒から青になる。夏は夜のうちから気の狂った蝉が鳴いているが、朝になれば本格的に合唱が始まる。ここにいると煩いし暑いしそろそろ移動しないとな、と思いつつ二本目に火をつけた。
    「朝っぱらから人んちのベランダで何してんのこの不良は」
    「ベランダが駄目なら部屋で吸ってもいいんですか」
    「それは嫌」
    じゃあ仕方ないでしょ、と言って煙を吐くと彼が長い腕を伸ばして咥えていたものを取り上げた。高専に入ってから禁煙したが、事後はどうしても吸いたくなることを最近知った。現実逃避にちょうどいいのだ。何も考えずに火をつけてボンヤリすると、夜あった出来事が煙と一緒に消えていくような気がする。自分がどれだけ必死だったかとかそういうことが。
    「寝てないの?」
    まだ長かった煙草を柵に押し付けながら、彼はだらだらと話し始める。頭を緩く振ると「あ、そう」といって面白くなさそうに口だけで笑った。
    「やると早起きだよね。恵は。何にも無いと授業も平気で遅刻してくるぐらい寝坊助なのに」
    朝からデリカシーのない声が蝉の合唱に混じって霞む。彼は話し続けるが、何 2310

    kikhimeqmoq

    DONE2020年バレンタインの修正再放送です。
    恵たちが高専1年生で、五条先生にチョコをあげる話なので、未来捏造どころかパラレルになってしまいましたが、こういう日があったらよかったのになあという気持ち。っていうのは半分建前で伏五にチョコ食いながらキスして欲しかっただけです。すみません。
    「伏黒、家入さんが呼んでるって」

    その日の授業が終わり、中庭に向かう時だった。二年生が体術の稽古をつけてくれる約束だったので。
    職員棟から走ってきた虎杖は、扉の隙間からそれだけを告げ、風のように駆け抜けていった。ドタバタという足音と意味のない咆哮が遠ざかっていく。相変わらずうるせえな。

    家入さんだったら保健室か。
    保健室というよりも実験室と言った方が正確であろう半地下の部屋は、入口から薄暗い。黄ばんだ引き戸を開けると、少しだけ消毒液のにおいがした。何だか緊張する。
    保健室に来る時は大抵怪我をしているか、ミスって呪われた時か、捕獲した呪霊を実験台にする時ぐらいで、何の用事もなく来る場所じゃない。最近の任務は単純なものばかりで暇なので、特殊事例の聴収もないはずだ。
    それなのに、家入さんが?俺を呼んでるって?







    「めぐみぃ、来た?」

    保健室の中から聞こえた声は、予想していたものではなかった。
    その声に咄嗟に口を尖らせる。
    家入さんじゃないということは別にいい。その声が、聞きなれた男の声だというのが面倒くさい。また碌でもないことを始めたか。
    間延びした声で俺を呼ぶ人は、背が高 3510