お題『おやすみ』「おやすみ、KK」
『おう、おやすみ』
眠ることがない幽霊となった相棒に対しても、暁人は必ず「おやすみ」と声をかけることにしていた。
それにこだわりがあるのをKKも何となく察していてKKも必ず「おやすみ」と返した。
眠りについた暁人を見守りながら、KKは夜が明けるのを待つ。暁人が悪夢に魘されればその原因を断つために夢に入り込むが、何も起きないに越したことはない。
人の姿をとり、暁人の横に寝転がるようにする。長い睫毛に健康的な肌、血色の良い唇をまじまじと眺める。一通り眺めたあとは半透明の手を暁人の頬にそっと添える。
『…こんな綺麗な顔してんだ。オレが戻ってこなかったら、今頃奥さんも子供もいたんだろうな』
暁人が聞いたら怒りそうなことを呟き、呟いてしまった傍から口にしたことを後悔した。
もちろん出会いは最悪で何かと衝突も多く、だがそれでも次第に惹かれあうものがあり相棒と言い合える関係にまでなった。それが今となってはそれ以上の関係にまで進展した…とは言っても、一方は幽霊なワケで。
もしかすると違う未来があったのかと考えてしまえば、KKにとって夜は物思いにふける時間となってしまう。
「んー……」
ふと、いつもは途中で起きることがない暁人が今日は珍しく目を覚ました。
寝ぼけまなこで薄らと目を開き、浮いているKKを見つめる。
『珍しいな、どうした?』
悪夢は見ていないはず…では何故?と、KKが様子を伺うと暁人が寝ぼけた声のまま両腕を開いて
「KK、おいで」と優しげな笑みを浮かべた。
「KKが泣いてる気がして、起きちゃった」
『…なんだよそれ、オレが泣くわけないだろ』
「だって、寂しそうだったから」
むふぅ、と満面の笑みをKKに向けて
「だからほら、抱きしめてあげる」
はやくはやく、と両腕を広げたまま笑う暁人が可愛らしく思えて
『…ったく、オレはガキじゃねぇんだけどなぁ』
抱きつくように半透明の体を寄せれば、暁人が抱きしめるような仕草をする。
「KKの考えてること、お見通しなんだからな」
だからそんなつまらないこと考えないでよ、と続けて
「それよりも明日、明後日、その先も。僕と一緒にやりたいことを考えてくれる?僕のことで頭いっぱいにしてよ」
『四六時中オマエの事を考えてたらそれはそれで異常だろ』
「異常でもいいよ、むしろそこまで考えてくれる方が嬉しいし」
あのね、と暁人は構わず続ける。
「僕が必ずおやすみって言うのはね?KKとこの先もずっと一緒に朝を迎えたいからなんだ、おまじないみたいなものだよ」
あの忘れられない事件が解決し、最後におやすみ、と言ってKKと離別したことを思い出す。
「もう、KKと離れたくないんだ」
触れられないはずの体をぎゅっと抱きしめる。
「だから、ずっと側にいてよ、KK」
『……おう、わかった。約束する』
「よし」
暁人は満足そうに笑った。
「じゃあおやすみKK、また明日ね」
『おう、おやすみ。また明日な』
この頃から暁人は寝る前に必ずおやすみ、とまた明日、を言うようになった。
それは暁人なりのおまじない、KKとずっと一緒にいられるおまじない。