ナスの煮びたしとオクラのおひたし「涼しいなぁ……ずっとここに居たい……」
休日の昼下がり、暁人は行きつけのスーパーで買い物をしていた。今日は有難いことに、野菜が少しだけ安かった。これにしよう、と決めた料理のレシピ通りに材料を買い揃えていく。買い物カゴの中には、色鮮やかなナスとオクラが入っていた。会計前に〈今日の特売品〉とポップが掲げられている高級アイスクリームをカゴに入れて、レジへ向かう。さて、今日の夕飯は――
「さて、と……そろそろ帰ってくる頃かな」
スマートフォンで調べたレシピをもう一度確認しながら、暁人は夕飯の支度を始める。食べたことはあっても、作るのは初めての料理だ。
「まずは……ナスの下ごしらえだね」
まな板の上にナスを置き、はじめにヘタを切り落として縦半分に切り、皮に浅く切込みを入れていく。そのあと、更に縦半分に切り水にさらす。
「生姜を包丁で軽く潰して……っと」
生姜の量は気持ち多めに、包丁の腹の部分で軽く潰したものを用意する。油大さじ2をフライパンに入れ、先程の生姜も入れて中火にかける。このくらい油が多い方が、色味も綺麗に出て油のコクも出るそうだ。
生姜がふつふつとなってきたら一度火を止めて、水気をふき取ったナスを皮を下にして綺麗に並べていく。並べ終わったら再び中火程度にかけ、ナスを焼いていく。
「えっと……ナスの皮側に火が通って、綺麗な紫色になるまで焼けばいいんだね」
レシピの通りに、皮が綺麗な紫色になったらナスを返して他の面も焼いていく。全体に軽く焼き目がついたところで、ここで麺つゆを加える。ちょうどみりんを切らせてしまったので、煮汁の工程は麺つゆで代用した。煮汁が沸いたら4分ほど煮てしっかり火を通し、完成。
ナスに味を染み込ませている間に、オクラのおひたしも作っていく。オクラはさっと水で洗ってまな板の上に置き、塩を振って板ずりし表面のうぶ毛を取っていく。溜めた水の中にオクラを入れて塩を落とし、水気をきる。ヘタの先端部分を薄く切り、その周りのかたい部分を包丁で剥いていく。あとは耐熱皿にオクラを並べ、ふんわりとラップをかけてレンジで加熱する。
鍋で茹でなくてもレンジで茹でることができるので、夏の定番おかずとして暁人はよく作っていた。加熱したオクラはすぐに冷水にとり、冷めて水気をきったものを3等分に切って生姜を加えた麺つゆ液に漬けておく。あとは、KKが帰宅するのを待つばかりだ。
「あ、おかえりKK」
「おう、ただいま。いい匂いだな」
KKが帰ってきた。暁人はむふふと笑みを浮かべ、今日の夕飯楽しみにしていてよ、と言わんばかりの表情を向ける。さすがにKKも腹が減ったのであろう、早々に手洗いと着替えを済ませて食卓に着いた。
「おっ、ナスの煮びたしか」
「うん、レシピサイトを見ながら作ってみたんだ」
「いただきます」
箸でナスを取り、口に運ぶ。じゅわっとした旨みが口の中いっぱいに溢れていく。どんどんと箸が進んでいった。
「美味い」
「ほんと?よかったぁ、また作ってみようかなぁ」
暁人もナスをひと口頬張ると、美味しさを噛み締めるようにうんうんと頷く。我ながら上出来だった。
「オクラも美味いよ、すっかり得意料理のひとつだな」
「これ、KKが好きだと思って。レシピ覚えちゃった」
黙々と食べ進めていくと、ふとKKが思っていたことを口にしてきた。
「……休みの日なんだから、手抜きしても良かったんだぞ」
「え?休みの日だからこそ、だよ。KK、今朝はコーヒーだけだったし、昼もどうせ適当に食べたんだろ?だったら、夕食はちゃんと栄養のあるものにしたかったんだよ」
ぱくぱくと食べ進めていく暁人をじっと眺めていると、それを見てクスクスと笑い出した。
「足りなかった?もっと食べる?」
「こら、ガキ扱いすんなよ」
「これね、結構日持ちするんだよ。明日はもっと味が染みてるから、朝は食欲無いだろうけど……ちょっとだけでいいからさ、食べてよ」
「……ん、わかった」
「よし」
しっかりと食べたあとは食後のデザート、特売品の高級アイスクリームを半分にして二人和やかに会話を交わす。次は何を作ろうかと、師匠の健康のために料理を作るのが暁人は楽しみで仕方なかった。
ナスの煮びたしと、オクラのおひたし