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    ことざき

    @KotozakiKaname

    GW:TのK暁に今は夢中。
    Xと支部に生息しています。

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    ことざき

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    24年5月の、#毎月25日はK暁デー に参加させていただきました。
    プレゼントしあうK暁です。

    #K暁

    贈り物ラプソディ 交番勤務時代の何が嫌だったかといえば、夏場の防刃衣だった。とにかく暑い。あれを着て炎天下に立っているのは、拷問以外の何物でもなかった。
     刑事になって、あの暑苦しさから解放されたと思いきや、今度はネクタイに首を絞められる毎日だ。おまけに〝職務にふさわしい服装〟とやらを自分で用意する煩わしさまでついてきた。いったいなにが悲しくて自分で自分の首輪を買わなきゃいけねえんだか。あれのなにがどう〝相応しい〟のか、さっぱり分からねえ。
     今だってそうだ。こうして、祓い屋などと呼ばれるヤクザな商売に就いて、今度こそ堅苦しい格好からオサラバできるはずが、「こんな商売だからこそ依頼人に信用されるようにしろ」との凛子サマからのお達しだ。オレは切った張ったの実働部隊だぞ。依頼人に会ったその足で怪異に遭遇することもあるんだぞ。やってられるかってんだ。
     っつうわけだから、ネクタイなんざ、とりあえずそれらしい物が何本かあれば十分だな。わざわざそこに金はかけねえよ。

     ◁ ▽ ▷ ▽

    「そっか。色々と大変だったんだね」
     それが暁人の第一声だった。
     なんと言っていいか分からないからとりあえず労ってみました、というのが丸わかりの棒読み具合だ。おまけに、狭いソファの真ん中でイチャイチャと身を寄せ合っていたはずが、彼が座面をわずかに後ずさりしたせいで、二人の間に微妙な隙間ができてしまっていた。
     身体の距離は心の距離にも通ずる。「KKって、ネクタイでオシャレとかするの?」との質問に、鬱憤まじりの長広舌を披露していたKKは、ここにきてようやく我に返った。恋人同士の甘い語らいのなかでする話ではなかったと、今さら気づいて焦りだす。
     しかし、己の非を自覚しても、大したことないだろうと自己判断すれば、そうそう謝らないところがKKのKKたる所以だった。
     気まずさを誤魔化すように咳払いすると、さりげなさを装って暁人に訊いた。
    「にしても、なんで急にそんなことを訊いてきたんだ?」
    「え、いや、特に理由は……」
    「もし良いネクタイが欲しいなら、オマエに似合いそうなヤツを見繕ってやるぞ?」
     安物でいいと言い切ったあとではこれっぽっちも頼りがいを感じない台詞を笑顔でのたまうKKに、暁人から困ったような呆れたような半笑いが返された。
    「ううん。いらない。十分参考になったから」
     いったいなんの参考かとKKが問うより早く、暁人がソファから立ちあがった。
    「それじゃ、僕はそろそろ夕飯作るね」
     言うやいなや、そそくさとキッチンへと去ってゆく暁人の背中を見送って、一人ぽつんとリビングに取り残されたKKは、なんだったんだアイツ、としばらく首をひねっていた。

     その疑問に答えが見つかったのは、KKが言うところの〝ヤクザな商売〟に依頼が入り、嫌々ネクタイを締めてクライアントのもとに向かったときのことだった。
     「夜ごとにマネキンが歩き出して大騒ぎするんです」と案内されたデパートの服飾コーナーで、『お二人に会いたかったんや、ちょっとしたお茶目やったんや』などと抜かす人騒がせな化け狸をサクッと締めあげ、あっさりと依頼にケリをつけたKKは、その足で大型商業施設に足を運んだ。どちらかと言えば若者の多いファッションフロアの売り場をつぶさに、それこそ舐めるように眺めまわす。
     理由はたんなる気まぐれだった。間違っても、暁人が欲しがっている土曜朝七時の犬っころのキャラクターグッズを探すため、などという殊勝な動機ではない。……と己に言い聞かせながら。
     そんな真夏日もかくやという熱のこもったKKの視線は、季節の特設売り場の上でぴたりと静止した。売り場のど真ん中に、『ハッピーファザーズデイ』なる文字が、でかでかと掲示されていたからだ。
     一瞬だけ息子の顔が目に浮かんだものの、KKはすでに離婚した身だ。己には縁のない話だと早々に興味を失って、見上げていた吊り下げポップから正面へと視線を移す。その視界に、ずらりと並ぶ色とりどりのネクタイが映った。
     無地に水玉にストライプ、ハート柄に蛇柄にキャラクター柄。色も無難な紺や青のほかに、原色そのものの赤や、果ては蛍光色の黄色やピンクまでもが並んでいる。
     時代はクールビズじゃなかったのかよ。誰がこんなド派手なものをつけるんだ。これが今時の若者のお洒落なのか。……お洒落?
     KKの脳裏に、ふと、閃くものがあった。ほんの三日ほど前に、それこそクールビズ時代の寵児であるはずの暁人が、ネクタイを話題にしていたことを思いだしたのだ。確か、「ネクタイでオシャレとかするの?」とかなんとか。
     暁人は恋人であって息子ではない。年齢だけみれば親子でもおかしくない年の差だが、正真正銘、相思相愛の恋人同士だ。父の日とはなんの関係もない。が、こうしたイベントにかこつけて、真心を込めたプレゼントを贈りあうのであれば話は別だった。
     あのとき「参考になった」と意味深な言葉を残し、夕飯の準備を理由にとっとと離れていった想い人の後ろ姿を思いだし、KKはようやく、もしかしなくても悪いことをしちまったか、と大いに深く反省した。
     二人で食卓を囲んだときの彼におかしなところはなかったように思うが、無自覚なまま溜めこむのが暁人の悪癖だ。せめてものご機嫌取りに菓子でも買って帰ろうかと、そんなことをKKが考えているうちに、お仕着せのブラウスを着てスカーフを首に巻いた店員が、すすす、と近寄ってきた。
    「ネクタイをお探しですか? よろしければ一緒にお探ししますよ」
     特設コーナーを親の仇のように睨みつけていたからだろうか。にっこりと眩しいまでの営業用スマイルで話しかけられて、KKは内心で渋面をつくった。
     欲しいと思えばさっさと買ってしまう即断即決がKKのスタイルだ。店員に横からあれこれ言われるのは好きではない。なにより、今欲しいのはスナック菓子なのだ。菓子はこの階にはないだろう。
     いいから放っておいてほしいと、断るために店員に顔を向けたKKは、彼女の背後にとある商品を見つけて目を見開いた。
    「それ……」
    「こちらでございますか? こちらは当店のみで販売の限定品となっております」
     恭しく両手で差し出された瑠璃色のネクタイに、気づいたときにはプレゼント包装を頼んでいた。

     ◁ ▽ ▷ ▽

     アイツどんな顔をするだろうな。
     包装待ちの時間はおろか、電車に揺られる間も、うっかり遭遇したマレビトをぶちのめすときでさえも、KKはそればかりを考えていた。
     ようやく辿りついた自宅マンション前の道路で足を止め、何気なく見上げた先には、曇ってくすんだ色の夜空と、皓々と明かりの漏れる自室の窓があった。共用玄関をくぐって階段をのぼり、部屋の鍵を開ける。「ただいま」と声をかければ、「お帰り」と元気な声が返ってきた。
     夕飯を作っていたのだろう。リビングからひょっこり顔を出した暁人のエプロン姿を目にしたとたん、四十云年来のKKの自意識もにょっきりと顔を覗かせた。
     今KKが手に提げている紙袋のなかには、考えるより先に購入してしまったネクタイが入っている。
     確かにご機嫌取りになにか買って帰ろうかとは思っていた。思っていたが、それは、安い量産品のスナック菓子の話だ。どこにでも売られている菓子と違って、このネクタイはあのデパートにしか売られていない限定品で、当然、お値段もそれなりにした。ほんの三日前にはネクタイを首輪と称したばかりであるし、なんの記念日でもない日常で贈るには、これはちょっと、さすがに重たすぎるのではないだろうか。
     ……などと、玄関口に突っ立ったまま悶々と考えこんでいるうちに、首を傾げながら近づいてきた暁人が、ひょいとKKの背後を覗きこんでしまった。
    「わ! このロゴ、あの店のやつ! KKが一人で行くなんて珍しいね。なに買ってきたの?」
     好奇心に輝く目で見つめられ、KKの喉がきゅっと締まった。もごもごと口ごもる。
    「い、いや、その」
     言い淀んでいるうちに、暁人の顔がますます輝いていった。
    「もしかして、僕へのプレゼントだったりする?」
     期待と確信に満ちた声音に、KKはガラ悪く舌打ちした。依頼人から押しつけられたとでもあっさり言ってしまえば良かったものを、元刑事ともあろう者がとんだ失態だった。観念して、持っていた紙袋を暁人の胸元に押しつける。
    「そうだよ。オマエへのプレゼントだ」
     ぶっきらぼうな物言いは照れ隠し以外のなにものでもない。KKは暁人から顔をそむけると、彼の身体を軽く押しのけるようにしてすれ違った。そのまま足音高くリビングへ向かおうとした、のだが。
    「待って!」
    「ぐえっ」
     背後からスーツを引っぱられ、KKは大きくのけぞった。腹のあたりで、すっかり着古して脆くなったボタンの縫い糸がみしりと悲鳴をあげる。
    「オマエな! 貴重な一張羅だぞ。使いモンにならなくなったらどうしてくれる!」
     叫びながら振り返ると、すぐそこに満面の笑みを浮かべた恋人の顔があった。
    「あき……」
    「リビングで待ってて! これもそのときにもう一回渡して!」
     紙袋を押しつけ返すや、暁人はKKを押しのけ寝室へと駆けこんでしまった。返事をする暇もなかった。
     完全に見えなくなった恋人の背を目で追ったまま、しばらく呆然と寝室のドアを眺めつづけていたKKだったが、やがて我に返り、なんだったんだアイツ、と首をかしげながらリビングへと歩きだした。
     あまりのことに毒気を抜かれ、面倒な自意識はどこかに飛んでいってしまっていた。

     ◁ ▽ ▷ ▽

     紙袋をローテーブルに放りだし、忠犬よろしくソファの上で待ちぼうけをくらっていると、ドタバタといつになく大きな足音とともに暁人が姿を現した。手にはKKが持ち帰った紙袋と同じロゴの入った細長い箱が抱えられている。
    「それ……」
     じっと見つめる視線から察したのか、近づいてきた暁人が微笑んだ。
    「ネクタイじゃないよ。KK、好きじゃないって言ってたし」
     KKのすぐ隣、肩が触れあいそうな位置に腰を下ろした暁人が、両手で箱を差し出した。
    「はい。ちょっと早いけど、父の日のプレゼント」
     そう言う暁人の眼差しは、明らかに父親に向けるものではない熱量がある。箱を受け取ったKKもまた、同じように熱のこもった笑みを返すと、テーブルの上の紙袋を引き寄せ、暁人に手渡した。
    「ほら。かなり遅れちまったが、子どもの日のプレゼントだ」
     言い訳を思いださせてくれた暁人に、秘かに感謝しながら。
     
    「開けてみろよ」
    「開けてみて」
     ぴったり重なった声に、KKと暁人は顔を見合わせた。同時にぷっと吹きだす。
    「じゃ、まずはオレからな」
     言いながら、KKは思いきりよく包装紙を破り、乱雑にシールを剥がして箱のふたを開けた。こればかりは慎重に中身を取り出すと、現れたのは無地の折り畳み傘だった。傘地はシンプルな黒一色で、平たい手元は焦げ茶色をしている。
     礼を言おうと口を開いたKKより早く、暁人がわくわくと弾んだ声を出した。
    「開いてみて」
    「ここでか?」
     うなずく暁人の目は期待できらきらと輝いている。KKは促されるまま、石突きの先端を床に向け、下はじきを押した。
     その瞬間、足もとに大きく星空が広がった。
    「へえ」
     表側と同じ黒い傘地のなかに、微妙に色合いの異なる灰色の小さな星が散っていた。星には光沢があり、KKが傘の角度を変えるたび、かすかにその色を変えてゆく。
    「いくら色合いが黒系統で統一されてても、星模様なんて子どもっぽすぎるかなって思ったんだけど」
     暁人が照れたようにまくしたてた。
    「外から見たらよくある黒い傘なのに、内側をよく見たら星空だっていうのが、その。ほら、僕たちが出会ったのって夜だし、全然よくある出会いじゃなかったし……」
     どんどん尻すぼみになってゆく声が、とうとう聞き取れないほどか細くなり、最後にはかき消えてしまった。
     KKは傘から顔を上げると、隣に座る暁人を見た。彼は膝の上でもじもじと両手を弄りながらうつむいている。この傘が深夜の星空だとすれば、赤く染まった彼の顔は、さしずめ遠く澄んだ東雲の空だろうか。
    「いや、何言ってんの!」
     うっかり口に出ていたのか、ばしんと部屋中に響く音をたてて膝が叩かれた。悶絶するKKをよそに、ぐっと身を乗りだした暁人が、打って変わって真剣な声で言った。
    「KKにはちょっと抵抗あるかもしれないけど、今は普通に男性も日傘を差すんだよ。これ晴雨兼用だから、陽射しが強いときは我慢せずに差してね」
     三日前の交番勤務時代の愚痴を、しっかり拾ったうえでのプレゼント選択だったようだ。考えていたよりもずっと前向きにあの会話を捉えていた暁人を知って、KKは痛む膝をさすりながら苦笑した。
    「ああ、そうする。良いモンをありがとよ」

     赤い顔のままひとしきり目を見合わせて笑いあったあと、「それじゃ次は僕の番だね」と今度は暁人が包装紙に手を付けた。じれったくなるほど丁寧にテープを剥がしてゆく。箱の全容が見えた瞬間、彼はソファのうえで猫のように跳ねあがった。
    「ハチ!」
     ネクタイの入った白い箱は、中身が見えるよう、その上面が透明なセロファンになっている。そこから見える瑠璃色のネクタイの先端、大きく尖った大剣部分には、土曜朝七時の犬っころがお座りしていた。暁人曰くのつぶらな瞳で。
    「うそ! こんなのあったんだ! すごい! 可愛い!」
     もはや単語でしか話さなくなった暁人が、箱を天井にかざしたり膝の上に置いたりと、それこそオモチャを貰った犬っころよろしく大はしゃぎしている。肩を叩かれ、膝を叩かれ。ついには全身でガバリと抱きつかれて、KKは低い悲鳴をあげた。
    「おい! 傘の露先が刺さんだろうが!」
     せっかくのプレゼントを壊されてはたまらないし、それで怪我をされてはもっとたまらない。KKは慌てて手元の星空を床に落とした。が、暁人はまるで言葉を聞いていなかった。
    「ありがとう! KK! ありがとう!」
    「……まあ、そこまで喜んでもらえたら、買った甲斐もあるな」
     土曜の朝七時なんて時間帯にアニメが放送されるせいで、微睡みながらイチャイチャと恋人と触れあう時間が減ってしまい、KKとしては非常に面白くない思いを味わっていた。今も、彼がここまで喜ぶ理由の一端が犬っころであることに、かなり複雑な感情がある。とはいえ、気分はそう悪くなかった。なにしろ画面の中の犬っころには、こうして暁人と触れあうことも、プレゼント交換をすることもできないのだから。
     優越感にゆるむ頬もそのままに、KKは念を押した。
    「せっかくやったんだ。ちゃんとつけろよ」
     もちろん、と大きくうなずいた暁人が、いたずら小僧の表情で目を細めた。
    「言っとくけど、首輪を贈ってつけさせたからには、責任もってちゃんと最後まで飼わないとダメだからね」
     やはり三日前の会話が頭にあるらしい。一方的に飼われるつもりもないくせに、暁人はそんなことを言って笑う。KKも笑った。
    「当たり前だろ。オマエこそ、飼い主を夜空の下に放って勝手にどっか行くんじゃねえぞ」
     KKは床から傘を拾いあげると、頭上に掲げた。リビングの中央に小さな星空が広がる。あの夜と同じ、二人だけの夜空だ。黙ってかたわらの肩を引き寄せれば、潤んだ鳶色の目が静かに伏せられた。

     それからしばらく、煮えたぎって吹きこぼれる鍋の音に悲鳴をあげた暁人がキッチンにすっ飛んで行くまで、二人は狭いソファの真ん中で身を寄せ合い、思う存分に星空を満喫した。
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