スラウォルを後押しする621・序 意味とか名前とかはさ、別にどーだっていいわけ。
あーしは冷凍マグロ状態で廃棄寸前だった役立たずで、そんなあーしを買ったのがハンドラー・ウォルターだから、あーしはハンドラーに従うしかないし。
ハンドラーがやれって言ったらやるし、やるなって言ったらやらない。以上って感じ。
ま、思いのほかあーしは強いし?
ちゃけば、買った金額ぐらいの働きはしてるんじゃない?って思うわけ。
だからさ、たぶんハンドラー・ウォルターも、あーし一人でここに潜入させるんだろうし。
んな期待されたら、やるしかないっしょ、みたいな。
『単機での夜間潜入となる。気を引き締めてかかれ』
言われなくてもわかってるし。
『独立傭兵が単機で仕掛けてくるとは、封鎖機構も想定していない』
カチこんでビビってるうちにバヒュっとセンシングバルブぶっ潰すとか、ウォルター、真面目な顔してヤバいことやるよね。マジでウケる。
輸送ヘリから降りたあーしの機体はもうあーしそのものみたいなもんだ。
なんか上から狙ってくるうざいレーザーをバーッとかわしながら、ササっと封鎖機構のSGだっけ?なんかそんな奴らをサクッと倒していく。
レーザーがマジでうざい。ウエメセかよとか言いながら、あーしはその射線を切るように建物の陰に身を隠した。
デコボコの建物があるこういうところだから、直線攻撃はマジでかわしやすいんだよね。超余裕。逆になんもない平原とかだったらだいぶきついかもだけど、まああーしはどこでも生き残るし。
『応援は来ない』
ウォルターかっけ~じゃん!
ウケる。マジイケボ。
やっぱさ、意味を与えてやるとか人生を買いなおせとか、このおっさん何言ってんだ?って思うじゃん?
絶対思うじゃん?
意味とかわけわかんねーし、人生を買いなおすとかうまいコト言って、豚もおだてりゃ木に登るじゃないけど、あーしをうまいコト使うとか、あーしが稼いだ金を盗んでそのうちトンズラすんじゃないかとか思ってたわけ。
でもたぶんウォルターはちがうんだよね。まだ確信はできないけど、そんな気がする。
ま、あーだこーだ言いつつ、天才パイロットのあーしとイケおじハンドラーのウォルターっていう天才コンビは余裕で次のエリアも突破~。
いよいよセンシングバルブがあるっていう施設が見えてきた。
つかめっちゃ雨じゃん。うっざ。つかこの暗さだと海に光が反射して見づらいし最悪。
とか思ってたらさっきのレーザーよりウエメセで知らねぇACが現れたってわけ。
何コイツ?
『ウォッチポイントを襲撃するとは』
めっちゃねっとりしゃべるじゃん。ウケる。
『相変わらずだな、ハンドラー・ウォルター』
は? ウォルターの知り合い? 知らねーし。
『また犬を飼ったようだが、何度でも殺してやろう』
は?
『貴様は……スッラか?!』
は?
『そこの犬、お前には同情するぞ』
はぁ?
『飼い主が違えば、もう少し長生きできたろうに』
はぁ~???????
うっざ何コイツ??????
『C1-249、独立傭兵スッラ。第一世代強化人間の生き残りだ……やれ621、さもなくばお前が死ぬことになる』
はぁ???
あーしが聞きたいのはそういうことじゃねえんだけど?!
いやつか敵マジでうざい!
そのふわふわしたシャボン玉みたいなヤツ見た目のわりにエグイし!
建物で射線切ったと思ったら死角から蹴り入れてくんなし!
『619と20はどうした。死んだか? 私が殺ったのは何番だったか……』
『……奴の言葉に構うな。集中しろ』
いやあーしはずっと集中してるし。クソムカついてるけど。
あいつの言葉にグラついてんのはあんたじゃん、ウォルター。
あーし、これでも強化人間だからわかんだよね。
前にラスティのデータログ回収したときの、あの解放戦線の女の子の話とかさ、あんた実はそういうの弱いじゃん。モロバレなんだよね。
バカハンドラー。
つかさ、あーしが怒ってんのは別のとこもあっから!
『この感じは第四世代か…上手く育てれば優れた猟犬になる…』
さっきからずっとウォルターに話しかけてっけど、テメーが戦ってんのあーしだかんな?!
『不憫なことだ。ここで死んでしまうとはな』
死なねーし!!
いい加減そのうっぜぇマウントやめろよなクソジジイ!!
あーしのミサイルがリペアキットを使い切ったクソジジイの機体にヒットする。
暗い海に爆発。あーしはそれを睨みながら両腕を大きく広げて武器を全部パージした。
このクソッタレがあーしを蹴った分だけ、あーしはパンチを入れるってわけ!
『621?!』
『……』
あーしを心配するウォルターの声。それにクソジジイがなんか悔しそうな声を漏らした。
マジでクソウッザイもうよそでやれよ! あーしを巻き込むな!
怒りのままパンチを叩きこむ。ジジイの機体がパチパチと火花を上げはじめた。
第一世代とか生き残りとかしんないけど、あーしは死なないし負けないから。
『ハンドラー・ウォルター、ウォッチポイントは、やめておけ……』
最後まであーしじゃなくてウォルターじゃん。
バカみたい。いやバカじゃん、実際。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
あーし、AC乗るのは天才だけど、お勉強とかの方はバカだから、難しいことはわかんない。
でもここでの任務はなんか今までとは違う感じだったし、なんかのターニングポイントってヤツだったのかも。
でもあーしにはどうだっていいんだよね。
ま、エアっていうダチができたのは歓迎だけど、めっちゃ疲れたし、なんかだるいし。
でもそんな中で、あのクソジジイ拾ってきてやったの、マジで偉くない?
「621!」
コーラル大爆発だかなんだか知んないし、バルデウス? ロケット花火何連発よって感じでバカスカ撃ってくるあの敵と戦うのはマジで疲れたけど、この問題は絶対に見逃せなかったわけ。
片足引きずって格納庫まで駆けつけてくれたウォルターを睨みながら、あーしは意識のないクソジジイを担いでコアを降りた。
マジでだるい。
「お前、それは……」
「元カレだかなんだか知らないけど、お互い未練タラタラじゃん。あーし挟んでそういうの、マジでうざいっつの」
「す、すまん。いや、元カレでは――」
「別にそこ重要じゃないから」
「そっ、そうだな……」
元カレじゃなかったら、元犬とかかな、ハンドラーの元猟犬。あーしの先輩。
いやあんなウエメセとか絶対無理なんだけど。
ま、実力じゃああーしの方が上だし? なんかあったらまたボコるだけだけど。
でもさ、お互いまだお互いのことを想ってるんだったら、一回は話し合ったほうがいいに決まってるじゃん?
「また絡んでこられたらうざいし、めーわくだから。自分たちのことは自分たちでどうにかしろし。あーしは疲れたから寝る」
「あ、ああ、ゆっくり休め」
冷たい床の上にクソジジイを寝かせて、あーしは自分の部屋に向かった。
シャワーを浴びようと思ってふと手を見ると、最悪! 出撃前に塗ったネイルはがれてるし!
マジでムカつくから次はウォルターに塗ってもらうことにして、あーしは背伸びをした。
そういえばクソジジイの顔ちゃんと見てないけど、起きたらウォルターとモトサヤに戻ってたりして。
あーしの前でいちゃつかれたらそれはそれでムカつくんだけど。
「スッラ……呼吸は、まだあるな」
不自由な片足をなんとか折りたたんで、不格好にしゃがんだまま声をかけるウォルターの声、めっちゃ心配してるって感じだし優しいじゃん。
それはそれでムカつく。
マジなんなの。
もうこれはさっさと寝るに限る。でもムカつくからウォルターのタバコ一本貰うし。
あーしは自室に向かっていた足をウォルターの部屋に向けた。