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    sena

    絵心が壊滅的なのでスクショくらいしかない。小説しか書けないよ!
    pixiv→https://www.pixiv.net/users/63156921

    アイコンはいらすと.や様よりお借りしました

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    sena

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    支部の下書きからサルベージ。
    最早投稿したのかも謎なので、ここにあげてみた。若干加筆修正しましたが、話の本筋は変わってないので、まぁいいでしょう(?)

    #杏千
    apricotChien

    誘い文句にお応えしませう「何だか、口寂しくありませんか」

    ソファで寛ぎながら、平然を装ってそんなことを告げた。脈略のない僕の言葉に、隣り合ってテレビを見ていた兄はぴたりと動きを止める。時間にして僅か二秒足らず。兄は首だけでこちらに向き直った。左横からは熱いくらいの視線が突き刺さるが、僕は前方のテレビを見る振りをして動かない。

    「千寿郎」

    せっかちな兄が僕の名を呼んだが、それにも答えない。兄を無視している訳ではない。先程の自分の発言を無かったことにしたいだけだ。見えない矢印が僕の左半分に突き刺さっているが、あくまで気付かない振りを続ける。うん、テレビのチャンネルを変えて誤魔化そう。そう考えてすぐ横のリモコンに手を伸ばしたが、碌に見ずに掴んだそれは、リモコンではなかった。ごつごつとした節ばった指が誰のものかなんて、すぐ分かる。慌てて掴んだ手を離したが、もう遅かった。指の隙間に節ばった指が滑り込み、がっちり絡んで離れない。力が入っていなさそうなその指は、どんなに振り解こうとしても全く揺るがない。そもそも兄に力で勝てる筈もなく、諦めて力を抜けば左隣から小さく吹き出す声が聞こえた。流石にもう気付かない振りは通用しない。おずおずと左を見れば、隣に座る兄は至極楽しそうな顔をしていた。

    「えらく回りくどい誘い文句だったな!」
    「さ、誘い文句だなんて…」
    「違うのか?てっきり誘われたのかと」

    誘い文句、なんて身も蓋もない言葉に、思わず口籠ってしまう。いや、何も間違っていない。実際、僕には下心…いや、打算があった。口寂しいのではなく、ただ口づけがしたかっただけだ。折角の休日なのに、テレビに釘付けになっている兄を振り向かせたくて。ても直接的なことは言えず、つい回りくどい言い方になってしまった。勘のいい兄はすぐ気付いてくれたけど、結局怖気づいて無かったように振舞ってしまった。自分からけしかけた癖に、迫られたら逃げるなんて。もしかして、呆れられてしまっただろうか。ちらっと隣を見上げたが、兄は変わらず笑顔を浮かべていた。弧を描いていた唇が僅かに開かれ、ぞっとするほど甘い声が零れた。

    「ご期待に応えようか」
    「え、」

    その言葉と共に、炎の瞳がすっと細まった。次第に近付いてくる兄の顔を、ただぼんやりと見つめてしまう。いつもなら、怖気づいてすぐに目を閉じてしまうのに。兄もいつもと違う僕に気付いたのか、珍しいなと小さく笑う。ゆらゆらと揺蕩う焔をずっと見ていたい気もしたけれど、それよりも熱を感じたくて瞼を閉じる。視界は真っ暗に染まったが、願っていた熱はすぐに唇に落とされた。まるで啄むように唇を吸われ、短い水音が幾度か響いた。しかしそれもすぐ終わり、触れ合っていた唇は不意に離れていく。待って、まだ足りない。すっかり貪欲になってしまった体は、一度や二度の触れ合いでは満足できない。瞼を閉じたまま兄に追い縋ろうとすれば、軽く胸を押されて、気付けば体は後ろに倒れていた。ぽすん。柔らかなソファが、僕の背中を優しく包み込む。鈍った頭が事態を把握しようとしてるが、真っ暗な視界のままでは何も分からない。そうか、目を開ければいいのか。そう気付いて重い瞼を上げれば、頭上には兄が覆い被さっていた。蛍光灯の明かりを背負っているので少し陰になっているが、炎の瞳はその輝きを失わない。まるでそれ自体が光源のように煌めて、僕を捉えて爛々と光っている。その瞳が一際輝いたその瞬間、僅かに開いた唇から赤い舌が見えて、僕は息を呑んだ。

    「あに、」
    「心配しなくても、一度では終わらん」

    心底楽しそうな声が聞こえたかと思えば、顔中に口づけの雨が降り注ぐ。額だったり、頬だったり、やっぱり唇だったり。至る所を舐めては吸われ、顔中がふやけてしまうのではと思うくらいの口づけ。触れるだけの口づけでは物足りなくなったのか、重なった唇からは肉厚な舌が滑り込んだ。縮こまっている舌はすぐに捕まり、力強く吸われては僅かに残っていた酸素すら奪われる。見つめられる眼差しが熱いのか、絡んだ舌が熱いのか。時間の感覚が薄れる程に、好き勝手に口内を弄ばれる。そして涙と酸欠で視界が少しぼんやりとし始めた頃、やっと兄の左手が後頭部から外された。

    漸く戻ってきた酸素を肺一杯に吸い込むと、兄が気遣うように頬を撫でてくれる。握られたままだった左手が、形を確かめるようにもう一度握り直される。胸を上下させながら呼吸を繰り返す僕に、兄は頬を撫でる手は止めないまま、そっと語り掛けた。

    「…これで寂しくないか」

    おまけのように唇を軽く吸われ、慈しむような眼差しが向けられる。先程の燃え滾る瞳とは違い、焚き火のような温かな炎に反射的に頷こうとしたが、ふと思い直す。寂しくはなくなったけど、違う熱が欲しくなってしまった。沸々と湧き上がる情欲に、頭上の兄をじっと見つめてみる。もっとして欲しい。僕の声なき誘い文句は、ちゃんと兄に届いたらしい。きょとんと丸まった瞳がふっと細まり、再び兄の顔が近付いてくる。「お前は誘うのが上手い」なんて兄の言葉を聞きながら、今度は自分から兄の唇を追いかけた。


    おしまい


    誘い文句にお応えしませう
    (気を引きたくて、テレビを見ている振りをしたのは秘密)




    キスをねだってみた、ってお題から派生。
    →『兄上にキスをねだってみると、心底嬉しそうな顔で何度も何度もキスをされしばらく離してもらえなくなってしまった。嬉しいけど、少し困る』

    千くんだってたまにはおねだりするときもあるよ、って話。
    超絶短いから1作品というよりは0.5作品って感じ。
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    Replies from the creator

    sena

    DONE呉秋さんの素敵な結婚❤杏千ちゃん絵に悶絶し、意味の分からない話を書いてしまった😄(何故なのか)

    とりあえず勢いで書いたので、支部に上げる頃にはもうちょい加筆修正(+設定)したい。
    何がどうなったか不明ですが、杏千(+愈+珠)という謎メンバーです。多分杏千ちゃんパートより二人のパートの方が長い。正直タイトルは思いつかなかったのですが、愛だけは込めました!
    Look at me!赤と白のタキシードに身を包み、鏡の前に立ってみる。…やっぱり、こっちの方がいいかな。元々宛がわれていた白のネクタイを外し、候補の一つとして用意されていた蝶ネクタイに手を伸ばした。

    「…うん、これにしよう」

    白も悪くないけど、この紅白のタキシードには赤い蝶ネクタイの方が合っている気がする。初めて身に付ける蝶ネクタイに悪戦苦闘しながらも、何とか結び終えたリボンは少し不格好だ。…人のネクタイを結ぶのは得意なんだけどな。若干歪んだリボンを直しながら、毎朝の光景を思い出して、僕は鏡越しに笑ってしまった。

    ――さて、話は数十分前に遡る。
    折角の休日だからとドライブに出掛けた僕たち兄弟は、都心から少し離れたこの場所を訪れていた。広大な土地に慎ましく建てられた建物は、兄曰く『写真館』らしい。そして殆ど説明のないまま車は止められ、僕が状況を飲み込めずにぽかんと呆ける中、兄が笑ってシートベルトを外してくれた。ほら、と優しく手を伸ばされ、掌にそっと手を重ねる。幼い頃から何度も繰り返された、僕たちの儀式みたいなもの。キリッと上がった眉と目尻が少しだけ下がって、重ねた掌を柔く握られる。そしてそのまま立たせてもらい、僕たちは少し離れた場所にある写真館へと歩き出した。
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    sena

    PROGRESS兄上生誕祭を大遅刻した末に、元々去年書いてた話(しかも前編)を引っ張り出してきました。
    一応前に書いてた『袋小路に閉じ込めて』の兄弟じゃないふたりの話。明らか長くなりそうだったので、前後編に分けました。後編は…書けたらいいですね(諦めモード)
    今はまだ、このままで『そういえば、もうすぐ兄上のお誕生日ですね』

    毎日の習慣となった夜の電話で、千寿郎がふと思い出したように呟いた。そうか、もうそんな時期か。ベッドの上に胡坐をかき、壁に凭れながら弟の声に耳を傾ける。元々俺は行事に弱く、当日人に言われて初めて気付くことも多い。やけに生徒達から菓子を貰う日だと思っていたら、実はバレンタインデーだった…なんてこともあった。誕生日はそれが顕著で、自分では中々気付けない。興味がない、とは少し違う。誕生日は弟が教えてくれる、そんな自惚れがあった。

    …かつての誕生日は、決まって弟が豪勢な飯を作ってくれた。何も言わずとも朝餉には俺の好物が並び、膳を並び終えた千寿郎が『お誕生日おめでとうございます』とはにかんで笑う。そこでやっと、俺は今日が誕生日だと気付くのだ。そんな日常を過ごしてきたせいか、弟がいなくなってからは、誕生日を意識することも無くなった。ただ年を重ね、弟のいない日常を生きていく。かつての同僚や昔馴染みたちが祝ってくれることも勿論嬉しいが、俺の誕生日は弟の声と料理で出来ている。少年を脱しつつあるあの声で、優しく名を呼んでほしい。歳を重ねる喜びを、俺に思い出させてほしい。そればかりを願っていた、昨年までの淡々とした誕生日はもう来ない。二十数年ぶりに、俺のよく知る誕生日が戻ってくる。そんな確信めいた予感を胸に、俺は弟の言葉に頷いた。
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    桜庭🌸

    PAST💎さん、お誕生日おめでとうッ!
    ということで(?)💎さん友情出演のお話です😎
    杏千 / 大正軸
    杏千プチ開催記念のアンソロジーに寄稿させていただいた小説の再録です
    (公開許可いただいています)
    酔いのようには醒めなくて「まぁ、一杯やろうや」
     酒を勧めたのは、宇髄のほうだった。
     共同任務の作戦会議後、宇髄が煉獄家に一晩泊まると言い出したのがはじまりだった。難色を示す杏寿郎の肩を気安く抱いて、「土産にうまい酒でも買っていこうぜ」と店じまいを始めた商店街に彼を連れ込んだ。「おい、宇髄」なおも抵抗する同僚に、「大丈夫、大丈夫」とけんもほろろに返す。もし拒絶されれば、酒を妻への土産にすればいい。そう考えていたのだ。
     結局のところ、家長は不在だった。「昔お世話になった人のご葬儀だそうです。さきほどまでいらっしゃったのですが、ふらりと出ていかれました」そう説明する次男は、何でもないことのようにてきぱきと夕食を用意している。鎹鴉から宇髄同伴の帰宅を聞いてすぐに炊き始めたのだろう、釜戸から漂う湯気とともに柔らかな米の匂いが立ち上ってきた。たすき掛けをした袖口からのぞく生白い細腕を見て、杏寿郎は「千寿郎を一人にするなんて」と顔を顰めた。しかし、それも一瞬のことだった。父が留守にしたのは、自分が珍しく夕方に戻ると鎹鴉からの伝達があったからだろうと納得したのだ。不器用ながらも千寿郎に一人で夜を過ごさせんとする父の心の内を想像して、杏寿郎はやっと眉を下げた。
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