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    fm77rrwy

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    しきみそ。前回の続きです。
    途中ちょっとハラハラするパートがありますが、今回からけっこうイチャイチャし始めてます。やったね!

    #しきみそ

    シック・2 大通りを歩きながら、三宙は横目に見たビルに設置された時計を確認した。当たり前だが、そっちも自分の腕時計と同じ時間を刻んでいた。
    (帰ったらまさかのテッペン越えかー)
     歩く速度は普段の三割増で頑張ってはいるのだが、遠くないとはいえどう頑張っても着くのは零時を過ぎるだろう。おまけに、行きより荷物も増えている。
     サクッと進捗を報告して相手の気分を悪くさせない程度で切り上げるつもりが、スポンサーや協力してくれている店の人間が色々と集ってしまい話が思いの外盛り上がった結果、展示会のポスターのサンプルが数種類出来上がっていた。
    (なんかオレの帰り気にしてたしな、四季。ちょっとヤバいかも)
     三割増からもう一段階切り替えて、走り出す。貰った手土産はドーナッツだとか言っていたはずだから、多少振り回しても大丈夫だろう。
     イルミネーションが煌めく通りを寄り添いながらゆっくりと歩くカップルを追い越して、自分は何をやっているんだろうなと三宙は思う。寒いはずの季節なのに走って汗ばんで。さっきすれ違った二人にはダサい奴だと思われたかもしれない。望む全部を離したくなくて不恰好なのは確かだ。でも、これが今の精一杯だった。
     街の灯りから遠ざかりながらしばらく走ると、ようやく自宅兼アトリエにしているアパートが見えてきた。腕時計を見れば、無情にも短針は真上を指している。そこそこ走れる方だとは思っていたけれど、訓練をしなくなったからか、やや脚が重い。近所迷惑な音を立てながら最後の階段を昇りきった。
     急いで鍵を開けて、開くはずのドアが開かずに首を傾げる。三宙が再び鍵を開けようとしている間に、今度はひとりでにドアが開いた。暗い部屋の中、寒々しい作業台の強い灯りを背に三宙の良く知る人物が立っている。
    「あれ? 四季、出掛けるとこ?」
     けれど、その問いかけはまるで見当違いだったらしい。元々不機嫌そうだった雰囲気の圧が更に高まった。
    「必要なくなった」
     容赦のない冷たい呟きと視線に怯むと、グッと体が引っ張られて危うく躓きかける。掴まれている手首が痛い。
    「ちょっ、四季……?」
     普段なら大事にしまう靴をバタバタと脱ぎ捨てて、連れられるまま付いていく。走ってきたことによる鼓動の速まりは焦りと気まずさに変わっていた。
     長くはない廊下を進んで、ドアを開けて軋む蝶番の音がやけに響いて聞こえる。入って左側は四季の部屋だ。仕事の都合上同居してはいるけれど、滅多に入れる場所じゃない。出来ればこんな状況じゃなく招かれたかったものだけど。
     部屋に入っても手首は掴まれたまま解かれない。向き合っているのに続く沈黙が怖かった。後退りをすれば、その分しっかり詰められる。暗さに慣れない三宙の目には、四季の表情を読むのも難しい。
    (あー、もしかしたらお説教かな。覚悟はしてたけど、それで済めばむしろ安いぐらいか。もっと悪いことも……)
     想像することさえ辛すぎて、沈黙を裂くためにぽろりと希望的な軽口が転げ出てしまう。
    「えっと。もしかして、オレのことめちゃめちゃ心配してくれてた?」
     言い終えて、加わる指先の力に失言をしたことが分かって嫌になる。違うというのは、そういうことだ。反射的にまた後退しようとするが、背中が壁に阻まれただけだった。
    「お前、言ってる意味解ってんのか……!」
     怒りのままの強い口調に続いて、右肩の辺りに重たい音が響く。
    「今朝、聞いたよな。遅くなんのかって。どうせ口煩えなと思っただけなんだろうな。仕事の付き合いなんだから、成功させるためなんだから多少のことは仕方ないって。だからこんな時間まで勝手にフラフラ一人でほっつき歩いて来れるんだろ。あの玄関での言い種はなんだ? 結局、自分の仕事に都合のいい奴としか見なしてないのかよ。何だよ、馬鹿みたいに気に掛けてんのは僕だけか」
     反論する隙を与えずに捲し立てられて身がすくむ。けれど、その尖った言葉が自分を否定する冷たい刃ではないことに気が付くとぎゅっと胸が詰まった。
    「ごめん、なさい……。そんな……そこまでオレのこと」
    「三宙、お前……いっぺん死んでんだぞ。もう少し考てみろよ」
    「……そーだった」
     右肩に触れた四季の指先が、存在している事を確かめるようにそっと三宙の背中を撫で下ろしていく。手首もようやく解放されるが、離れることはなく、両腕の中に捕らえられた。おまけに耳元に頭をすり寄せてくるものだからサラサラと遊ぶ髪がくすぐったい。
     そんな様子がなんだか捨て猫のようで、両手に持ったままの荷物から三宙は迷わず手を離した。無惨に床に落ちる音がするけれど、気にはしない。目の前に居る四季とだけ向き合っていたかった。華奢なようでいてきちんと広いその背中を、三宙も両手でしっかり捕まえる。
     そうして永遠のような数十秒を過ごしながら、頭の中をふとよぎる。けれどもこれはいわゆる親愛の情だろうか。どうか自分と同じでいて欲しいと止めどない欲張りが目を覚ます。
     ぴったり寄り添っていた身体が離れる気配がして、反射的にシャツの布地を掴んでいた。落ち着きかけた鼓動も再びもはや早鐘。この距離ではどうやっても誤魔化せはしない。間をおかず、ため息混じりの笑い声が微かに聞こえる。
     つくづく恋心とは厄介なものだと感じる。四季の行動の解釈を巡って、否定と肯定の考えが頭の中で忙しなく引っ張り合う。手を頬に添えられて期待をする心とは裏腹に、注がれる視線を避けるように顔を背けていた。
    「逃げんなよ」
     背けた三宙の顎先はたちまち拐われ、流れるように唇と唇が重なる。それが慎ましく触れ合って終わるハズもなく、上唇を探るように舐めながら四季の舌先が入り込んでくる。
    「んっ……は……っ」
     上手く呼吸も出来ないクセに止めようとはしないことに四季もご満悦らしい。それが触れ合わせている口角から悔しいくらいに伝わってくる。悔しいけれど、でも止めたくはない。掛けっぱなしのサングラスのフレームが何度もズレて眉間に押し付けられる感覚に、このキスの意味を実感する。
    いよいよ生存本能に意地が負けた頃、細い糸を伝わせながらみっともなく息をする。そんな三宙をよくできましたと労うように、そっと四季は頭を撫でた。
    「っ……てか、どうして……オレ?」
    「そこはいつもみたいに自惚れねえのかよ」
     全く息が整っていないのに、見詰める明るい翠の瞳に捕まえられて呼吸を忘れる。
    「ずっと自惚れてろよ、三宙」
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