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    焦れったい

    #しきみそ

    沈んで、揺蕩って⑤ 仮縫いされた生地にピンを打って、デザインに合うようラインを修正していく。どうしたって最初は歪みが出るものだから、この作業がなかなか肝心だ。そうして思い描いていたラインに収まっていくと三宙の気分も上々になる。

     四季と全く顔を合わせなかったここ三日間とは対照的に、時間が過ぎるのを早く感じていた。アトリエに着いて早めの夕飯を取ってから作業をし始めて、いつの間にか時刻はそろそろ二十二時。修正したものから順に試着してもらったりしていたら、あっという間だった。

     別にこんな時間まで作業していなくても、納期に余裕はあるけれど。

     三宙は横目で隣の四季を見た。副資材を組ながら、まだ終わらせるつもりはないとその背中には書いてある。休んでいた分でも取り返すつもりだろうか。休ませたのは完全に三宙の個人的な都合だから、四季が気にする必要はひとつもないけれど。

    (集中してるなら話し掛けたら悪いかな)

     気になった箇所を摘まんで直しながら逡巡して、結局は話し掛けることにする。時間も時間だ。

    「……今日、どうすんの?」

     口にしてから変な言い方をしてしまったなと後悔する。さすがに意識しすぎかもしれないが、これまでがこれまでだから仕方ない。ただし、決してそういうつもりで聞いた訳ではなく、至って普通に帰りの予定を聞いたつもりだった。

    「泊まってくけど」
    「え……マジで」

     想定と違う答えが素で返ってきて、トルソーに触れている指が何故か照れる。と同時にどうしようもない戸惑いが沸き出してきた。

     そんな三宙のざわつきなど、もはや四季にはバレバレのようだ。作業が一段落した手元から顔を上げながら、なんて事のない調子で補足される。

    「別にそんな構えなくても。その辺のソファで適当に寝るつもりだから」

     真意の読めない淡い笑みを湛える顔に見据えられれば、戸惑いの中心をツンと痛みが刺す。これが自分だけでなければいい、なんて淡い期待をやっぱりまだ三宙は捨てきれなかった。

    「いやいや。そんなん悪いって! 嫌じゃなければ隣で寝てよ」

     これは断じて誘ってる訳じゃないから。暗示のように脳内で唱えておいて、実際の言葉の選びに頭を抱える。

    (あーあ。なんてこと言っちゃってるんだか。全っ然諦められてないじゃん)

     色々な居たたまれなさに苛まれて、三宙は作業台の上にあったサンプルの生地を手に取ると、そのまま顔を隠すようにした。せめて他の意味のある行動に見せておきたくて、生地の手触りを確かめるように弄ぶ。

    「どこでもいいよ。四季の落ち着くとこで」
    「じゃあお前の横」
    「……わかった」
    「決まりな」

     椅子から立ち上がる気配がして、そっと肩を叩かれた。深い意味なんてないはずだけど、廻る期待が理性に反して三宙の鼓動を速める。こんなことでは身が持たなくて嫌になる。

    (なんでそんなことオレに言えちゃうワケ?)

     どうせ解らない答えなら考えない方がいいことは分かっている。だとしたら、この瞬間に見えることだとか聞こえることに意識を向けた方がいいはずだ。

     一呼吸。落ち着いて。手に持っていたサンプル生地を元の場所に戻す。広がった三宙の視界の真ん中で四季の背中が遠ざかっていく。何だかついこの間も見たような光景だなとしんみり思っていると、振り向きざまに声を掛けてきた。

    「風呂場、先に借りていいか?」
    「どーぞ。ごゆっくり」

     何でもない、何でもないから。

     ひたすらに念じる。目の前にあるこの瞬間に意識を向けていても、余計に心が掻き乱される。この前までとは四季が持つ空気が違うことなんて、鈍感になれないから解ってしまう。ただ、これがいったい何の前触れなのかを掴むのはまだ怖くて、躊躇う手を伸ばせない。

     このままがいい。このままでいいから。

     願ってみても時が止まってくれることはない。たとえ、どんな力を持っていても。

     リビングのソファで畳んだ膝を抱えて座り、お湯の掛け流される音を聞きながら悶々とした時間を三宙は過ごした。湯上がりの四季なんて志献官の頃から何度も見てきたはずだけど、今は目に毒すぎてマトモに見れるわけがない。そう思えば思うほど目が游いで行き場に困り、その内に上がってきていた四季の姿を結局チラリと掠めてしまった。

     拭ききらない水滴が毛先から首筋を伝っていくのを見て、止まらなくてもいい時が止まる。そこから逃れるように視線を上げれば、憐れなほどぎこちない三宙の反応を愉しむような薄緑の流し目に息を呑んだ。

     いつもながら余裕そうなその態度に腹を立てたいところだけれど、ごちゃ混ぜの思考が追い付かずに上手いセリフを投げられそうにない。

    「ちゃんと拭いとかないと風邪引くんだからな」
    「なんだそれ。知ってるよ」

     軽く笑って、そのままソファの隣が重みに沈み、自分が使っている石鹸の香りがふわりと漂う。本当に四季がどういうつもりか知らないけれど、そんな至近距離で黙ったまま覗き込まれるのは心臓に悪いし顔も熱い。

    「えっと……なん、です?」
    「だったら、風邪引かないようにお前が拭いて」
    「なんで」
    「なんででもいいだろ」
    「あーっ。もう、マジでわけわかんねーし……!」

     肩に掛けているタオルを掴んで頭に被せると腹いせにわしゃわしゃと雑にするが、結局は言われたようにしている自分が悔しい。

    (『なんだそれ』はこっちのセリフだっつーの!)

     頭の中だけで叫ぶと、三宙は目の前の誘惑から顔を背けて早足で浴室へと向かって行った。
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