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    両片思いになっていく43。三宙が自覚する回。

    #しきみそ

    覚めて、秘めて② とうとう誘ってしまった。緊張が引いて、替わりにどっと疲れが肩にのし掛かってくるのを感じる。
     悠然と軽快に歩いていた三宙の足は食堂の扉を抜けて誰もいない渡り廊下に出ると無意識に歩調を速めたかと思えば、今度は遅くなった。早く食堂から離れてしまいたいが、待ち合わせの時間にもまだ少し時間がある、でも。
     無事に誘えたのだから、ここは喜んでもいいのだろう。以前の意趣返しのように具体的な予定を告げていないのにも関わらず、四季の反応は悪くなかったはずだ。本当にその気がなければ乗ってこない人だということは三宙も分かっている。そもそも四季と休戦してから実行するチャンスを窺ってきたことだ。
     それでも、この後の時間を思うとさっき食べたものの事もよく覚えていなかった。しかも『ずっと待ってる』なんて重たく取られかねない余計なことまで勢いで言ってしまった。

    「いやマジで、何で急に思い出したんだろ……」

     ポケットに手を突っ込むと、かさと折り畳まれた用紙が触れる。コレのことなんて、数年単位でずっと忘れていたというのに。
     けれど自答したことの答えなど三宙も分かりきっていた。元は憧れと対抗意識の混ざったような感情を四季に対して向けていたはずが、いつからこんな風な……恋愛的な意味での感情までもが付属し始めていたのだろう。自然に溶け込むようにしておきながら主張を始めた気持ちがうるさくなって、いよいよ三宙も自分の中で誤魔化し続けておけなくなっていた。

     それを三宙が悟ったのは午前の部隊訓練中だった。

     見慣れた戦技訓練場の的。一発目にしてその真ん中を撃ち抜いたことを確認して三宙は確信した。今日はすこぶる調子がいい。
     そして、ひとつ場所を開けた向こうを見やった。ゆるりとした動作は普段と変わりなく感じるが、撃ち込んだ後の姿勢がやや上向きに見える。どうやら四季の調子も悪くなさそうだ。
     そうなれば頭に浮かぶことはひとつ。そうでなくとも、ここは戦技訓練場だ。
     思うやいなや三宙はそちらに足を向けた。コツコツと踵を鳴らしながら近付いていくと、鬱陶しげな顔をしながら四季が振り向いた。

    「何だよ」
    「分かってるクセに。やりましょ? いつもの勝負」

     三宙が勝ち気に口角を上げてみせると、四季からも同様の笑みを返される。それが二人の間で了承の合図となった。

    「つっーことで今回の条件は、動くターゲットに交互に撃って真ん中に五発先に当てた方が勝ちってことでどうです?」
    「へえ。ずいぶん吹っ掛けてくるけど、後で泣くなよ」
    「四季サンこそ、人の心配なんかしてる場合っすかね。勝った方は」

     一瞬、チラと脳裏をよぎる。ずっと四季に対して思っている要望がある。ちょうど午後は休みだし。
     けれどもそれは勝負にかこつけて言うものではないと三宙は即座に思い直した。

    「晩飯奢りで。先攻、四季サンからどーぞ」
    「言っとくけど再戦はしないからな」
    「当然。オレだってそのつもりっすよ」

     お前のその自信はどこから湧いてくるのかと呆れたように、肩をすくめて四季が位置につく。そうして、いざ始めてみれば見立てのとおり。互いを煽る発言は虚勢でもなんでもなく、開幕から二人揃って真ん中を撃ち抜き続けた。
     二順目もそれが続いたとなれば、いつもの勝負より上げた難易度も手伝い、いつもとは漂う空気も変わってくる。
     程よくピリッと張りつめた空気の中、三宙が位置から下がる。四季との擦れ違いざま、一目置くように細めた目を三宙に向けていたのはきっと気のせいではない。それが素直に誇らしい。
     受け取ったスコア表には、それぞれの名前の隣にそれぞれが記したマルが並んでいる。勝ちに来てんの? 負けに来てんの? などと四季から先日言われたところだが、普段から勝負には勝つつもりでしかいなかった。それがいよいよ、三宙の勝利が現実味を帯びている。
     いっそうアガる気分とともに冷静なも思考も回った。次のターンが実質的な決着だと。
     三宙が顔を上げようとして、また一段、塗り替えられた空気を肌で知る。四季の出方をよく見ておこうなんて、ぬるい前提。息すら縫い止められた気がした。的に向けて構える後ろ姿が刹那と余さず視線を奪う。四季が纏う真剣に焼かれるようだ。構えの見た目こそ普段とそう変わりないというのに。
     あの佇まい、動物なら尻尾を巻いて逃げるのだろう。戦闘時にはデッドマターより怖いなんて言ったこともあったっけ。
     そんな風に感じながら、三宙は今も目が離せなかった。数秒か、あるいは数分か。曖昧な感覚のなかで、ぼんやりとした記憶が重なっていく。思い出していく。
     志献官となってからまだ浅い頃に見た背中。未熟だった自分が手すさびに描き残したデザイン画。あの時はこんな気持ちではなかったけれど、確かに四季の背中を見ていた。
     火が着いたように三宙の頬が紅潮する。恥ずかしすぎる過去を思い出したからだと思いたかったが、火種はそれだけでは済まされないことぐらい自分で気が付いていた。
     もう少しだけあの背中を見つめていたいと思う。できるなら、それ以上も。そう望んでしまう気持ちを上手く宥めることが、もうできない。
     構えを正した四季のいつもの流れを、いまはただ瞳の奥に焼き付ける。次を撃ち抜く音がして、残されたあと数秒が惜しかった。下手な言い訳をするのは嫌なはずなのに、この不自由なら良いなんて逃れることもせずにいた。
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