最果ての先にトアはダイニングテーブルに突っ伏し、暇を持て余すように近くに置いてある新聞のページを開く
テレビからはゲームの大きな効果音が鳴り響き、前にあるソファに座るレイとリュウヤはコントローラーを激しく動かし、凄まじい接戦を繰り広げている。
ゲームの腕には自信のあるトアだが、あの2人となると歯が立たない。先程「トアも遊ばないか」と勧誘を受けたが負けてばかりでは面白くないだろうと思い、丁重に断った。
挑発されようが嫌なものは嫌だ。それにトアのコントロール技術ではレイに勝てないことは分かっていた。
「あー……」
真面目に読みもしない新聞をパラパラとめくると、ある広告が目に留まった。
派手な色使いで白黒の新聞には異様な雰囲気であり、何よりそこに書いてある報酬金額の値段が目を引いたのである。
『探索者募集無事に生き残れたら3000コイン
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3000コインといえばランクの高いスクーター1台が買える値段だ。
金が欲しかった、暇を持て余したかった。
そんな理由でトアはその番号に電話をかけた。
「モシモシ……あぁそうです。新聞の広告を見て……えぇ……廃村の埋蔵金?」
思いもしない相手からの話にトアは声が裏返った。
「なあなあ、レイ君……」
トアはリュウヤとの試合を終えたレイに話しかけた。
「なんだよ。」
レイは下に結露の溜まった炭酸飲料の缶を開ける。
「お前さ、金なかったりしない?」
「しない。」
即答だった。
「そ、そんな事言わないでさぁ、ちょっとオレの話を聞いてくれてもよくない?」
トアはレイの隣に腰を下ろす。
「よくない。」
「……。」
レイは持っていた缶を傾け、勢いよく喉に流し込むと、深く息を吐き、トアに話しかける。
「またお前の事だから、俺を変なバイトにでも付き合わせる気だろ?」
全くもってその通りである。
「ぐっ……言い返せねぇ……じ、じゃあ、りゅーは、」
「あいにく、オレこれから用事があるもんでな。」
「あ……そう。」
同様にして自室でスマホを操作していたアオイにも話しかけたが、トアが入ってくるなり塵を見るような目で彼を睨んだ。
トアが口を開こうとすると大方察したようで、妹が実家に戻ってくるとか言って話をさせようとしなかった。
「畜生、なんだあのシスコン野郎……。しょうがねえ、こうなったらAIでもなんでも連れて行ってやる。」
部屋にこもっていたマゼンタはこう言った。
「今日?無理無理、もう少ししたら見たいテレビが始まるんだよ。」
廃墟探索が趣味であるサルビアは家におらず、
クロムは同様に外出していた。
「さて、残りは……あいつか。」
トアは三階に向かう階段を上った。
「暇かー?」
ノックもせずに勢いよく彼のいるドアを開ける。
「っはぁ⁉︎テメェ、ノックもしないで何様……」
ルージュはベッドに立てかけてあるナタに手を伸ばした。
「スマンね、急用だったもんで。」
そしてルージュにも同様の台詞を放った。
「お前、金欠だったりしない?」
「金欠……なぁ。」
確かにルージュには金がなかった。昨日アクセサリーに結構な金を使ったし、服を買うにも相当の量を消費した。正直言って今すぐにでも金が欲しい。
だがルージュもレイと考えることは同じだった。
「だったらなんだ?オレ様を巻き込んで銀行強盗でもするってのか?」
「まっさか。」
だがそれ以前にルージュはトアと行動を共にしたくなかった。
自分が接戦の末に敗北した相手、それも挑発的な人間となると、隣にいるのも息苦しい。
だが大金を手にできるという可能性に押し負け、仕方なくトアの話を聞くことにした。
「まあいい。金がねぇのは事実だ。話だけなら聞いてやる。」
「おっ。とてもヨロシイ反応。」
トアはスマホの画面をルージュに見せた。
「廃村探索して、生きて帰って来れたら3000コイン。家にある金目の物は自由にもって帰っていいってさ。
つまりだ。お前が散財した分と、それ以上の収入があるわけよ。」
トアはルージュの肩に手を回す。
「どーせそのジャケットもブランド物だろ?結構高いんだろ?
ならお前も行って、稼げばいいじゃねえか。」
ルージュは肩に回された手を振り払おうとするが、トアは離そうとしない。
「あのなぁ……金なんてオメー単体でも貰えるんだろ?なら一人で行けよ。」
「その場合、報酬以外の埋蔵金やら財閥の金塊はオレだけのモンだぜ。下手したら、一万は超えるかもな……金欠ゾンビが手に入れられるのは3000を8分の1にした375コインとかいうごく僅か。オレにしてみたら雀の涙だ……あぁー可哀想可哀想」
「ったく、るっせえな……分かったよ。行きゃあいいんだろ?」
トアは口角を上げ、スマホをポケットに突っ込んだ。
「よし、決まりだな。支度してすぐ出るぞ。廃村行きの電車クッソ少ないんだから。半日待つことになる。」
「そうか……って半日⁉︎」
ルージュはナタとナイフ数本を持ち、トアの後について行った。