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    ・中夜

    @Mayonakanakana2

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    ・中夜

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    ジュン茨ワンライ【微熱】

    お風呂に入ってるだけ。
    湯上がりの体温は、37.0くらいらしいと聞いて。

    #ジュン茨
    junThorn

    38.4℃+36.6℃=37.3℃「はい、目ぇ瞑ってくださ〜い」
    「……」
     もあもあ湯気の立つ、男ふたりには若干狭いユニットバスにジュンの優しい声が反響する。2週間ぶりに訪れた穏やかな時間と真面なぬくもりが眠気を誘い、ん……だの、あいあい……だのと返事をするのも億劫だった。けれど、そのことにブツブツと何かを言われるでもなく、ぐらりと左に傾いた俺の顔面に、とろっとしたオイルが塗りたくられていく。手のひらのうちで温められたそれは、オフィスの冷房で冷え切っていた俺の頬をじんわり蕩かし、肌を滑るジュンの手も相まってホットタオルのような心地よさだ。目元と口元、額の生え際から顎先までを丁寧に辿った指先は、綺麗に短く切り揃えられた爪先で耳の窪みや裏側をくるくる擽ぐる。動かせない唇の代わりに、ふふふっ……と小さく鼻で笑うと、ほの明るい瞼の向こうで蜜色の瞳が柔らかく細まった気がした。
    「なぁに笑ってんですかぁ〜」
     俺が答えられないのをわかっていて、ジュンはそう囁く。緩かったクリップからサラサラ落ちたきた前髪を、手の甲で撫でつけて、洗面器のぬるま湯をぱしゃぱしゃ手に含ませる音がした。ぎゅ……と、また頬が包まれる。
    「んぅ……」
    「寝ぼけて食べちゃダメですよぉ? 口に入っちゃったら、ペッしてくださいね〜」
    「……ん」
    「ははっ、こりゃだめだ。やっぱ一緒に入ってよかったっすね」
     ぱしゃぱしゃ……ぎゅ…、ぱしゃぱしゃ……ぎゅ…。ほかほかに濡れた大きな手のひらが、何度も何度も俺の顔をそっと揉み込む。マッサージでもするように、けれど絶対に擦らないように。いつものジュンの体温より少しだけ温かいこの温度が、割合イヤではなくなったのはいつだったっけ。つい1時間前までフル回転させ続けた俺の優秀な頭脳には、疲れた眠い腹減ったの三拍子揃った霞がかかり、ついぞその答えを弾き出すことはなかった。
    「いばらぁ、流しますよぉ〜」
     さっきまでより明らかに多いお湯がバシャバシャとオイルを洗い流していく。
    「はい終わり」
     ぬめりのとれた瞼を気だるく押し上げれば、案の定、柔に細まった蜂蜜色がとろりとこちらを見つめていた。まつ毛に溜まった雫が落ちる。
    「いばら、すっかりリンゴちゃんですね〜。だいじょぶっすか? のぼせてない?」
    「……のぼせてない」
    「そっか。じゃあ、オレもとっとと洗って浸かるんで、もうちょっと待っててくださいね」
     クリップを抜き取られ、邪魔な赤い前髪が目にかかった。頭を振ってみても張りついてとれない。ため息をついて冷たい湯船の淵に頭を寄せると、泡だらけの頭のジュンが、ふは…っと笑って髪を上げてくれた。けれど、そううまくはいかなくて、せっかく洗った俺の顔にそこそこの量の泡がつく。やべ…と言わんばかりの表情隠しもせず、慌ててシャワーがぶっかけられた。水滴を払って顔を上げると、ジュンはもうこちらを見てはいなくて、せかせか動く背中に水鉄砲でも仕掛けてやろうかと思ったが、何せなにもかもが億劫なもので黙って湯船に侵入した泡を眺めることにする。
     リンゴちゃんと言われた頬がほわほわ茹るようだけど、あと数分でもっと心地いい体温にくっつけると思うと、今のこの微熱もなんだか悪くはなくなるのだった。
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    ・中夜

    DONEHAPPY JUNIBA DAY!

    茨さんほとんど出てこない同棲ジば。
    掃除洗濯をしたのは昨日なのにシーツを替えたのは今朝、が本作のポイントです。
    日々は続くから(やっぱり帰って来なかったな……)
     ヘッドボードの明かりを消した後も手放せないでいるスマホを開いて、閉じて、もう何十回も目にしたデジタル時計の時刻にため息をついた。うつ伏せに押し潰している枕へ顔を埋め、意味もなくウンヌン唸ってみる。けれど、どれだけ待ってみたってオレの右手が微かなバイブを告げることはないし、煌々と現れたロック画面の通知に眩しく目を眇めることもない。残り数分で日付を跨ごうかというこの時間に誰からも連絡が来ないなんて、当たり前の話ではあるんだろうけど。その一般的には非常識とも言える連絡を、オレはかれこれ2時間もソワソワと期待してしまっているのだった。
    「……茨」
     待ち侘びている方が馬鹿げてるのはわかっている。そもそも今日は帰れないって、だから昨日の内にお祝いしておきましょうって。端からそういう話だったのだ。帰れない今日の代わりに、茨はオレの好きなメニューを沢山夕飯に出してくれたし、オレだって茨が朝から料理に集中できるように洗濯から何からその他すべての雑事をせっせと片付けた。夕方普段より早めのご馳走に、2人で作った苺タルトも平らげて、余った料理も1粒も無くなったお皿も仲良く片付けた後ソファーに並んで触れ合って……昨日まで、ううん、ついさっき。風呂から上がってベッドに入るまで、本当になんの不満もなかったはずなのに。
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