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    ・中夜

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    ・中夜

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    HAPPY JUNIBA DAY!

    茨さんほとんど出てこない同棲ジば。
    掃除洗濯をしたのは昨日なのにシーツを替えたのは今朝、が本作のポイントです。

    #ジュン茨
    junThorn

    日々は続くから(やっぱり帰って来なかったな……)
     ヘッドボードの明かりを消した後も手放せないでいるスマホを開いて、閉じて、もう何十回も目にしたデジタル時計の時刻にため息をついた。うつ伏せに押し潰している枕へ顔を埋め、意味もなくウンヌン唸ってみる。けれど、どれだけ待ってみたってオレの右手が微かなバイブを告げることはないし、煌々と現れたロック画面の通知に眩しく目を眇めることもない。残り数分で日付を跨ごうかというこの時間に誰からも連絡が来ないなんて、当たり前の話ではあるんだろうけど。その一般的には非常識とも言える連絡を、オレはかれこれ2時間もソワソワと期待してしまっているのだった。
    「……茨」
     待ち侘びている方が馬鹿げてるのはわかっている。そもそも今日は帰れないって、だから昨日の内にお祝いしておきましょうって。端からそういう話だったのだ。帰れない今日の代わりに、茨はオレの好きなメニューを沢山夕飯に出してくれたし、オレだって茨が朝から料理に集中できるように洗濯から何からその他すべての雑事をせっせと片付けた。夕方普段より早めのご馳走に、2人で作った苺タルトも平らげて、余った料理も1粒も無くなったお皿も仲良く片付けた後ソファーに並んで触れ合って……昨日まで、ううん、ついさっき。風呂から上がってベッドに入るまで、本当になんの不満もなかったはずなのに。
    (茨が言ってた『1日早いけど我慢してくださいね』に、オレなんて答えたんだっけ)
     一人きりのベッドでタオルケットを被ったら、今朝替えたばかりのシーツから柔軟剤の香りがした。そうしたら、ああそうだった昨日……って、楽しかったこと全部思い返して、それで。……もしかしたら、茨もオレと同じなんじゃないかと思った。一生懸命働いて夜薄暗くなったオフィスで昨日のこと思い出して…寂しく、なって。やっぱり今日ちょっと早く帰ろうかな、とか、それは無理でも電話くらいしてやるか、とか? 思ったりなんかしちまって、いつもみてぇにシレッと連絡が来るんじゃないかって。……まぁ、うん。ちょっと夢見すぎてましたねぇ〜。我ながら何やってんだか。
     それでも頑なにスマホを離さないオレの右腕アホすぎません? ほぉら、隣はもぬけの殻ですよ〜っと。
     枕に圧迫されて苦しくなってきた身体をゴロンと転がす。マットレスの端ギリギリからシーツの上を見回しても、そこにはぽっかりと冷房の空気が沈んでいるだけで、思わず抱きしめてしまいたくなるあのほんのりとした温もりはない。
    (あぁ、そっか……。キス、したんだった)
     昨日のオレはこの寂しさを、たったキスひとつで我慢できるつもりだったんだろうか。それとも昨日キスを我慢していれば、今こんなに1人きりを嘆くようなこともなかったんだろうか。
     ロック画面の数字が、またひとつ明日へ近づいたのを見て大きく頭を振った。せっかくの思い出を後悔することだけはしたくない。
    (0時になったら諦めて寝る。0時になったら諦めて寝る。0時になったら諦めて──)
     ひしゃげてペシャンコになったオレの枕を向こうへ押しやって、色違いのふかふか枕をぎゅう…っと抱き込む。鼻先を寄せて肺いっぱいに空気を吸い込めば、微かに馴れ親しんだ香りがしてホッと息を吐く。閉じた瞼の裏で羊を数えるように、あのサラサラしたまぁるいワインレッドを思い返していると、次第にぽやんとしてきた脳ミソが今日の終わりを告げてくる。カチ、と開いた時計は既に0時02分を指していた。
    (……うん。寝よう)
     スマホをヘッドボードに伏せると、部屋は静まり返った暗闇となった。せめて夢で逢えたらな〜、なんて欲張りな意識が、うつら…うつら…舟を漕いでいく。一際大きく深呼吸したとき、不意にギギ、ッと廊下の軋む音がした。瞼を薄く開く。寝室から廊下までは部屋とリビングの扉2枚を挟んでいて、あまりよく聞こえないけれど、耳を澄ませてオレの神経全部を寝室の向こうへ集中させれば──、いる。絶対にいる!!
     五月蝿くスプリングを鳴らして跳ね起き、深夜帯に在るまじき荒々しさで扉を開け放つ。寝る前にきちんと消したはずのシーリングライトの眩しさに眉を顰め、薄くリビングを見渡すと、オレと鏡写しのように廊下からリビング扉を開けた態勢の茨が大きな瞳をぱちくりさせてこっちを見ていた。
    「び……っくりした。起きてたんですか? もう日付も変わってるのに……。あなた明日午前仕事でしょう」
     ダイニングチェアに鞄を置いて、ジャケットを脱ぎながら茨は小さく首を傾げる。眼鏡のレンズが光を弾いて輝いていた。
    「……寝て、ました。でも茨がいるから起きた」
    「はぁ? ……ははっ。なんですか、それ」
     ぺたぺたフローリングを歩いて、外着を片付けながら身軽になっていく茨をじっと見つめる。時計を外して、ジャケットを掛けて、鞄を仕舞って。テーブルに置き去りにされたスマホを弄びながら目で追っていたら、それを寄越せと手を差し伸べられたので大人しく手渡して手首を握った。腕時計のベルト跡が残っている。パッと離して、片眉を上げた青い双眸に頬を緩めた。
    「おかえり、茨」
    「……あぁ。ただいま、ジュン」
     なんだそんなことかとデカデカ書いてある顔で、ちゅ…とキスをひとつ落とされれば、この2時間のおセンチメンタルなんて一瞬でどこかへ吹き飛んでしまって、へにゃりと垂れた目尻に欠伸の涙を乗せながら、今日はなんだか良い夢が見れそうだと2人で包まるシーツの香りを思い出していた。
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