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    女子高生の猗窩座ちゃんとクラスメイト

    ■女子高生の猗窩座ちゃんとモブのクラスメイトです。
    ■猗窩煉のオタクが書いてます。

    #猗窩煉
    #煉猗窩

    編入手続きで初めて学校を訪れた時、揃いのブレザーに身を包んでいる生徒を見て「都会っぽいな」と思った瞬間、自分の田舎くささに笑えた。

    *

     朝のホームルーム「転校生を紹介します。」という担任の一言にわっと声が湧く、そんなことはなかった。そこはまがいなりにも高校生、そんな子供っぽいことからは卒業したとでも言いたげに、喉元まで込み上げた黄色い声をぐっと堪える。それでも教室内の温度は期待を受けて2度くらい上昇していた。
     先生の呼び掛けを合図に、勢いよく教室の引き戸が開かれる。クラスメイト36人分の好奇の視線の前に現れた転校生は、包帯まみれで、異様な姿だった。
     黄色い声を堪える事の出来たクラスメイトたちも、隣り合った机同士て耳打ちをするひそひそ声があちこちで洩れている。静かな室内では、息の多い声も十分響いてしまう。きっと転校生の元にも届いているだろうに、黒板の前に立つ転校生は涼しい顔でフルネームだけを告げて自己紹介を締めくくり、担任に促されるまま私の隣の空席に着席した。
    「セーラー服いいなあ、かわいいね。」
    「前はどこの高校だったの?」
    「どうしてこんな時期に転校してきたの?転勤とか?」
     休み時間、私の隣の席には人垣が出来た。人懐こい性格の生徒が集まって、包帯に身を包んだ転校生を取り囲んでいる。次から次へと質問が矢のように降り注いでいるのに、一つも返事をしないで値踏みでもするように机を取り囲むクラスメイトを見上げている。不思議な子だと思った、転校生という異質さだけじゃなくて、相いれない雰囲気を全身に纏っていた。

    *

    「素山さんって、どういう字書くの?…あっ、日誌に貴方の事を書こうと思って。参考に…教えてくれる?」
     日直が当番制で書く日誌を手渡す。もう半年もクラスメイトの手を出席番号順に巡ってきた日誌帳は少しボロが出ている。一枚に日付け、天気、時間割り、5行程度のフリースペースと、先生からの返信が記される余白が並んでいて、筆まめな担任は生徒が面倒くさそうに書いた一言に三倍以上の分量で返信を書いている。転校生はパラパラと前日までのページを遡ってから、今日のページの余白部分に小さく自分の名前を記してくれた。

    ──素山 猗窩座

     薄い筆跡で書かれた名前は、授業で習ったことのない見慣れない漢字だった。ますます、彼女の存在が遠退いた気がして、勝手に疎外感を覚える。
    「包帯って…キャラ付けにしてはイタくない?」
    「中二病なんじゃない。」
    「リスカかもよ、こわいね。」
     あんなに慣れ慣れしく話しかけていたクラスメイトが、一つも返事が来ない腹いせか、手の平を返したように陰口を囁き合っている。ひそひそと息交じりの声ではない、悪意を持って本人に届けようとしている声だ。隠す気のない悪意に、自分の事ではないのに胸が痛む。隣の席の彼女がどういう顔をしているのか見るのも怖くなって、聞こえない振りをして顔を伏せる。
    「ねえ、隣にいるの恐くないの?先生に席替え頼んであげようか。」
     突然、水を向けるようにあまり話した事もないクラスメイトから声を掛けられて面食らう。彼女に嫌がらせをする目的で私に声を掛けるのを止めて欲しい、と思うだけで言葉には出来なかった。
    「そんな…私は、」
    「構うな。直接文句も言えない女だ、無視しておけ。」
     私は初めて勝気なクラスメイトに反論しようと、緊張とちょっとだけの恐怖に指先から血の気が引いていたっていうのに、涼しげな目をした彼女は何の事でもないように私の言葉を遮る。驚いてしまって、あれほど気まずくて目を逸らしていた彼女の顔を見てしまう。今朝、出席番号に則って私が手渡した日誌を書き込みながら、顔も上げずに言ったようだった。「弱者に構うな。」念押しするように続けられた言葉も、日誌に向かって視線を落としたままで、私に向けて言ったのか、彼女の言う弱者に向けられたものなのか分からなかった。

    **

     自傷行為じゃないか、虐待じゃないかと、みんな好き勝手噂していた素山さんの包帯は、数か月するとすっかり取れて、血色のあまりよくない白い肌が露わになった。前の学校で喧嘩をして痣になっていたのだと聞いたけれど、何処までが真実なのかは分からない。未だにセーラー服のままの彼女は、教室だけではなく校内でも異質の存在で、どことも交じり合わずに居た。
    「もう、怪我は良いの?」
    「平気。」
     よかった、と心の底からそう思ったのに、素山さんは「お前に関係ない。」と素っ気ない態度だ。約一ヶ月ぶりに当番が回ってきた日誌を開くと、明日には日直になる彼女に奪われる。パラパラと過去に遡って、私が強請って書かせた「素山猗窩座」と余白に書かれたページに辿り着く。細いシャーペンシルで書かれた氏名が、赤ペンの丸印で囲われている。
    「素山さん。」
    「なんだ。」
     筆圧の高い担任教師の一言コメントは、裏ページに凹凸を作り出すほどでページを捲る時にごわごわと嵩張った音を立てる。素山さんの縦長の文字を囲う真ん丸も、例にもれずえぐれるんじゃないかという程の筆圧を感じさせる。丸から矢印が伸びていて「今日からよろしく!」と担任からのコメントが添えられている。
    「素山さん、どうしてうちの学校に来たの?」
     紙一枚にしては重たい音がして日誌が捲られる。素山さんが初めて書いた日誌のページだ。日直のコメント欄は真っ白で、真ん中に小さく猫の絵が描いてあるだけだった。素山さんの字は少しだけ縦長で、横書きの日誌帳よりも、縦書きのほうがバランスがよく見えるなと思った。古典の授業のときに見た板書が先生に劣らないくらい美しかった。
    「…て来た。」
    「え?」
     猫のイラストにも、担任はしっかりとコメントを返しているようだった。二、三行の返事のあとに何だかぬるっとした質感の、変な落書きと「失敗!」という大きな文字が書いてあった。アメーバのような、スライムのような、実体のわからない落書きは、どうやら猫のつもりだったらしいと、直接先生を尋ねに行ったクラスメイトから伝え聞いた。
    「好きな人を、追い掛けて来た。」
     先生の筆圧の高い落書きをじっと見詰めたまま、素山さんが繰り返す。好きな人を追い掛けて、転校してきた。確かにそう言った。何時も通りの何でもない事のような態度だけれど、短い髪から覗く耳たぶがほんのりと色付いていて、初めて彼女に親近感を覚えた。
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